Discussion・勝太を巡って
次の日の朝から、早速私の元には人だかりができるようになってしまった。
集まってくる人は大体、
「お前超能力使えるとか馬鹿なこと言ってたな」
「超能力とか、アニメの見過ぎっしょ」
「でも、ちょっと気になる」
「鑑定してよ」
なんて言ってくる。
取り合えず、やってくれと言ってきた人には、五時に「ちるどれん」に集合だと言っておいた。
そんな中、さらに相談が増えてしまう一つの要因ができてしまった。
「アタイも及川も、当たって砕けた。その砕け方が、冨野が言った通りだったんだよ」
何やら、ルカちゃんと純ちゃんはどちらも、それぞれ龍星君と藍川君に告り、そして私が言った通りにフラれたそうだ。
「なあ、ミカ。ちょっとさ、ホントかどうか試してみたいんだけど、診断してよぉ」
情報はすでに拡散してるっぽく、みんなが私の方を見てコソコソ話してる。
私は取り合えず最初に相談してきた子たちを優先して診断することにした。
少し早めに練習を切り上げて、そのまま部屋でチアの服を着替える。嬉しいのやら悲しいのやら、野球部の応援に私たちが駆り出されることになったから、練習量が多くなってしまった。
「じゃ、行きますか……」
「行ってら。及川」
ルカちゃんの声を背負って、私は校門へ歩いていった。
いつものレジの定位置で、菊さんは頬杖をついていた。
なにやら、今日相談するメンバーが揃ってるじゃないか。
「うわ! 早くない? みんな」
「早くない? じゃないよ」
「いやだってそりゃそうじゃん」
「逆に遅いよ、美佳子」
「トミちゃん、私らの目的知ってるよね?」
「ここで白黒つけるんだからさ」
今日相談する五人は
いつもは温和なのだが、やっぱり恋の悩みとなると目を吊り上げて唇を尖らせてするんだなぁ。
「……なのに、勝者が全然決まらないもん。だから私たちの誰が好きなのかをここで決めて、その子に告ってもらうわけ分かった、トミちゃん」
「こらこら、ちょっと声を落としてくれるかい?」
樹莉ちゃんの声にかぶせるように菊さんが言う。
「取り合えず、早くやってもらおうよ、みんな。ね」
超かわいい真緒ちゃんはイライラしているみんなをなだめ、そのキュートな目で私に開始を促してきた。
彼女たちは、藍川君を巡って、「誰が彼に告白する権利を勝ち取るか」というゲームをLINEでしているらしい。卒業生で二年上の
と、考えているうちに五人が私の方に顔をめっちゃ近づけてきた。すごい睨まれてるんですけど。
「トミちゃん、門限破ったってお母さんに叱られるから早くして」
「その門限何時?」
私は樹莉ちゃんに聞いてみる。
「六時」
ということは……あと三十分!
私は急いでカチューシャを装着した。
ビビッ!
いつもより大きめの電流が流れた気がした。
「ごめん、鍵山さん。俺はちょっと……みんなと仲良くしたいからさ……だから、誰かなんて選べないんだよ……分かって? ね?」
ああ、またか……という顔の藍川君がおじいちゃん声でゆっくりと語っていた。
私は目を開き、樹莉ちゃんの隣にいた音ちゃんに照準を合わせる。
ビッ!
「小笠原さん……その気持ちは嬉しいんだけど……ごめんなさい」
さっきと同じようなメッセージかと思えば、ここで終わってしまった。
せっかくのかわいい顔を怒りに染めていた端っこの真緒ちゃんを診断してみる。
「平良さん……俺は、一人は選べないんだ。みんなと仲良くいたいからさ……俺を好きなら分かってくれるよな、この気持ち。だから……ホントに、ゴメン」
ノンストップで反対側にいる朱ちゃんと目を合わせる。一気に診断したせいか、ゼェゼェと呼吸が荒れてきた。
どうせならいっきにやってしまおうじゃないか。
「星さん。なんで俺に……ごめん、俺は無理」
なんだ、ちょっとそっけなさすぎないか。藍川君は誰にでも優しいのに。
確かに、朱ちゃんはいちいちウザッたるいことがあるけど……まあ、いいか。
「ねえ、どうだった?」
あずきちゃんの声が耳元に飛んでくる。
でも、五人の診断をたったの五分間で終えてしまった私は息と意識が荒れていて、そんな声なんて入ってこなかった。
「美佳子、大丈夫?」
そっけなくフられてしまった朱ちゃんが事実を知らずに心配してくれる。こんな友達に事実を告げるのは嫌だけど……。
「わた……し、ちょっとしんどいから結果だけ言うね。正直に……言うから、怒ら……ないで聞いてね」
私は息の苦しさで少し間を開ける。その間でみるみるみんなの額に汗が浮かんでいく。
「あずきちゃん以外、全員……ダメだっ……あずきちゃんは『考えておく』だ‥…」
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