エスパー・ミカコ
DITinoue(上楽竜文)
Buy・不思議のカチューシャ
部活が終わった後、私が決まって訪れる場所がある。大抵はみんなでワイワイしながら来るけど、今日は雨だし、みんなついて来なかった。
冬の雨は冷たいけど、私はそれでもあそこに行くのだ。
私が毎日通っている駄菓子屋は「ちるどれん」という。店を取り仕切るのは多分六十の眼鏡をかけたおばあちゃん、
この小さな駄菓子屋の入り口にあるパラソルの下で糸引き飴を食べるのがいつしか私のルーティーンになっていた。キッカケはコンテストの前日、運試しに来たことだったけど、すっかり糸引き飴にハマってしまった。
今日、私の目についたのは、キラキラした紫色のリボンが付いたカチューシャだった。
今はツインテールだが、別のヘアスタイルに変えると、めっちゃ合うんじゃないか。
「うわ、カワイイ! これ付けて踊るのもいいかも……」
次の舞台は一月のダンスコンテストだ。これを付けて踊るのもいいかも。善は急げだ。私はすぐにカチューシャを手に取り、菊さんがいるレジへと持って行った。
「あら、ミカちゃん。今日はチアガールさんみたいな服着てるのね。糸引き飴やるの?」
「うん」
「カチューシャも買うのね。珍しいねぇ」
「ダンスコンテストで、付けて踊ったらかわいいかなって思ってさ」
「そうなの。ま、取り合えず引いていきな」
菊さんは、レジの下にある籠から糸引き飴を取り出し、ニヤニヤとほっぺにしわを寄せながら視線をコチラに向ける。
「おりゃっ!」
私はオレンジを狙って、迷わずに一本を引く。
――オレンジ色の飴が、浮いた。
「おぉ~。当たりだねぇ。明日はいいことあるねぇ」
私は代金を払い、またねと挨拶をしてから、雨の中、傘を差さずに家へ駆けて行った。
「ただいま~」
ドアを開けると、母がエプロン姿で仁王立ちしていた。
買ったカチューシャをせっかくだからとつけてきたため、新品がビショビショだった。
「遅いじゃないの。しかも、なんでそんな濡れてんの。今すぐ風呂に入りなさい」
「はぁい」
母は声が枯れたように思えた。
「ホント、傘持って行けばいいって言ったのに……あとで拭きとるのめんどくさいんだけど」
「すんまそん」
私はそう言って、チアの服を脱いで、一気に浴槽へドボンと身を沈めた。
と、ドアの向こうで母が言った。
「ね、さっきから、一人で誰に相槌打ってたの? 熱でもある?」
――誰に相槌打ってたの?
熱があるのかって、こっちが言いたい。私は間違えなく母に話した――はずだが、確かに老人のような声がしたような、しなかったような――?
「ま、いっか」
私は自分に言い聞かせるように言って、お湯を頭にぶっかけた。
だが、偶然ではなかったのかもしれない。
「美佳子がバラエティー見始めたせいで、野球見れなくなったじゃねぇか。ったく」
「ミカちゃん、遅い時間にずぶぬれで帰って来ちゃって。寒かっただろうに。お汁作ってあげなきゃ」
どちらも、どう考えても父と祖母の口調だった。しかも、その姿が脳裏に映し出されていたし。なのに、口調がおじいちゃんの声だった。
――これ、神のお告げってやつ?
そう考えてしまうと、頭が痛くなってきた。霊感とか何もなかったのに。
「ごめん、今日もう寝る」
「あ、ちょ」
家族の返事を待たずに、私はゆっくりと階段を登って行った。
翌日、私は少し寝不足のまま自転車を漕いでいた。
「あ、ミカちおはよ!」
そうあだ名で声をかけてきたのは、ショートカットヘアーのニヤニヤした女子だった。私の生涯の親友、
「おはよー、純ちゃん」
私はちゃん呼び。純にそれと言ったあだ名が思い浮かばないのが要因だ。
「あ、もしや寝不足? 絶対夜中までパスタ食べたでしょー」
やっぱり、親友は分かってるのだ。
「て、なぜにパスタ」
「え? 何でだろ」
ハハハハハと二人で自転車を漕ぎながら談笑していた。
「じゃ、なんで寝不足なの?」
理由は知っている。神からのお告げを聞いたからだ。親友に、隠すことは何もないよね。
私は、遅れる覚悟で自転車を脇に止めた。
「ほほぉ、なるほど。ミカちは超能力を得たわけか。ふむふむ。つまり、その人の考えていることが神のお告げとなって分かるってことなんだろね。『エスパー・カンナ』ならぬ『エスパー・ミカコ』じゃん」
彼女はビックリするどころか、興味津々で聞いていた。
ちなみに、エスパー・カンナとは最近流行ってる超能力者の女の子が主人公のアニメだ。
「すごいね、超能力。せっかくだからさ、龍星君が私を思ってるか思ってないかを超能力で教えて!」
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