④オクリオオカミ

南紀和沙

プロット

◯参考作品

『闇狩り師 キマイラ天龍変』(原作:夢枕獏、作画:伊藤勢、徳間書店)


◯世界観

文明滅亡後の日本を舞台に、二重人格主人公と不死ヒロインによる不老不死の謎を解く旅物語。


・浄土(じょうど)

九真野灘の西南にあるという楽園。

もとは龍が統治する島であったが、現在は八百比丘尼と呼ばれる尼僧が統治している。人魚と人狼と天人(人魚を喰った人間)が住まう。


・穢土(えど)

日本国のことを、浄土から見て言う言葉。

日本側からでも、自虐的にこう呼ぶことがある。


・九真野(くまの)

日本国南部にある地域。この土地の別当(支配者)は、浄土への道を司る。


・人狼(じんろう)

浄土にて龍たちがバイオテクノロジーから生み出した兵隊。暴力装置。

穢土に棲む狼と人間とをかけ合わせた結果、自律性と強靭さを併せ持つようになる。安全装置として「夜雀」というサブ人格を与えられている。高い回復力を持つが、不死ではない。人魚の肉から生成した毒で殺すことができる。


・龍(りゅう)

異界からやってきた上位存在。

蛇のような姿にツノを持つ。人間型であることも。


・人魚(にんぎょ)

龍の眷属。奉仕種族とも。

美しい女の顔と肉体、巨大な魚の下半身を持つ。

魚部分は碧色の肉をしており、食えば不老不死となる。

龍の不老不死を支える食料として生み出された。始祖龍の唾液と血を浄土の土に埋め、数千年かけて生み出された肉からクローン技術によって増やされた。


・五衰の怪物(ごすいのかいぶつ)

単に「五衰」と呼ぶことが多い。

浄土へと至った人間のうち、人魚を食べて幾星霜過ごしたのちに怪物となったもの。人間を食べる。翼・多脚・熊の爪・鰐のような口を持つ。美しき怪物。

九真野の地では、参拝者を襲うことが多い。


・放免兵(ほうめんへい)

もとは都の検非違使が、罪人を放免して使役する者のこと。

九真野においては、別当たるタンスイのもとで働く罪人兵たちのこと。



◯主要キャラクター

・チガヤ

主人公①。漢字は「千茅」。

人狼。

正義感と責任感が強い。くそ真面目な性格。

長く熊野に封印されていたため、記憶の一部が混濁している。

実は彼の方がサブ人格であり、その実態は人狼の安全装置サブ人格「夜雀」である。

大剣「濤波ノ剣」を自在に操る。


・イチイ

主人公②。漢字は「一葦」。

チガヤのサブ人格「夜雀」。あだ名は「千疋狼」。

実は彼が主人格。長く封印されていたせいで、人格が大剣に閉じ込められてしまった。ふだんは蛾のかたちをした根付の中にいる。

竹を割ったような兄貴分な性格。


・ツバキ

ヒロイン。漢字は「椿」。

明るく健気な性格。

八百比丘尼シイラの娘。長寿であり回復力も高いが、不死ではない。人魚の肉でできた「碧鈴」を持っている。

白椿のうつろ舟に乗せられて、穢土へとたどり着いた。九真野別当の養子として育てられるが、浄土渡海に失敗したとき、養父に疎まれ殺されそうになった。幸い死ななかったものの、彼女が生きていることを知った養父から追われている。


・八百比丘尼シイラ

ツバキの実母。

人魚の肉を食べた人間「天人」にして、奇跡的に五衰の怪物にならなかった「真人(しんじん)」。

人魚たちを支配する「無間ノ鐘」を司る。

龍たちが去ったあとの浄土を、八百比丘尼として統治する。


・鈴木タンスイ

エネミーキャラクター。ラスボス。漢字は「湛水」。

九真野別当。天人を自称し、八千代の寿命を誇るといわれる。

人々の願いを叶える「無間ノ鐘」を、浄土に住む八百比丘尼から譲り受けたと言われ、多くの者から喜捨を受けている。

妻のニシキとともに浄土へ渡ったことがある。ニシキが五衰と化して追放されたことに絶望し、穢土へと戻る。その折、ツバキを殺している(と本人は思っていたが、ツバキは死なず失踪したのが真相)。

偽物の無間ノ鐘を所持している。


・鈴木ニシキ

エネミーキャラクター。漢字は「錦」。

九真野で最強最悪の五衰の怪物。

タンスイの妻だった者。ツバキの養母。

流産した子を浄土へと流したときに、ツバキを見つけて養育する。

人喰いの怪物になった今も、ツバキを気にかける。無間ノ鐘の音が鳴るたび、人間の心を失っていく。


・シロク

エネミーキャラクター。

タンスイ直属の放免兵部隊の隊長。もとは親殺しの山賊だった。

イチイの強さに惚れ込み、人狼に成る道を探る。

肉体は普通の人間にしては頑健、精神も強靭。


◯物語構成

・全4章構成(12万字)


・第1章 九十九髪の乙女、狼に出会う

 現代社会が滅び去り、遺構として存在する世界。


 白髪の少女比丘尼・ツバキは、九真野の中で追われていた。彼女は「オクリオオカミ」を探していた。古い祠に転がり込んだとき、放免部隊の追手たちがツバキを追い詰める。しかし現れた五衰の怪物・ニシキによって、追手の一部が殺される。

 祠に封じられていた人狼イチイの活躍により、追手とニシキは退けられる。追手で唯一生き残った放免兵シロクは、ニシキとイチイの戦いを見て、その強さに惚れ込んでしまう。


 落ち着いたイチイはチガヤに代わる。チガヤはツバキを保護し、話を聞く。


 穢土日本には人魚の肉があった。

 「五衰の怪物」の驚異に晒された日本人。50年前から、人間は、人魚の肉を摂取することで不老長寿と驚異の回復力を得ていた。畿内南部、九真野で人魚の肉を摂取した「八百比丘尼」が各地を歩き、九真野別当のタンスイは、辺境の男ながら王のごとき生活をしている。タンスイはみずからの肉を植えた人間「放免兵」と「無間ノ鈴」を使役して五衰の怪物への対抗策とし、浄土への道を管理していた。


 ツバキはタンスイの身内であり、五衰の怪物は元は人間だと知っている。

 ツバキは五衰の怪物となった養母を人に戻す方法を探すため、浄土へ向かうことが必要なのだと言う。


 しかしツバキはタンスイから疎まれ、追われる身。「タンスイの追手を払い、浄土へと導いてほしい」と請われ、イチイのもうひとつの人格――チガヤは了承する。


 タンスイの管理する土地に入り、「浄土門前」たる九真野の様子を見る。多くの旅人が逗留し、「人魚の肉」を得るため善行を積もうとしている。一方で取り残された人々がスラムを作り、暗澹たる生活をしていた。

 襲い来る五衰の怪物や追手を追い払う。


 ツバキはチガヤに心を許す。旅を始めて7日後の双月の夜、チガヤはイチイに変わり、ツバキを襲おうとする。ツバキはイチイを拒みかけるが、イチイはツバキが同族であることを悟る。さらにツバキは話をすることで、イチイに気に入られる。


 翌朝、イチイはチガヤに戻った。チガヤからイチイの話を聞くツバキ。九真野へと入っていく。


・第2章 浄土へ向かいたるその因縁

 そんな中、シロクの手により、五衰の怪物の巣へ追い込まれるチガヤとツバキ。チガヤはツバキを護って傷つき倒れ、ツバキは囚われてタンスイのもとに送られる。タンスイと問答するツバキ。


 時間軸は過去の話となる。

 70年前、タンスイは五衰の怪物の謎を突き止めようとしていた。その過程で、五衰の怪物に襲われる。妻のニシキが流産し、死産となった子を海へと流した。そこで拾ったのが、赤子のツバキである。うつろ舟に乗せられたツバキに持たされていた碧色の肉。それは人魚の肉であった。ツバキが人間でないことを悟ったタンスイ。ツバキに教育と訓練を与える。


 55年前、タンスイは15歳になったツバキを遺し、浄土へ向かうことにする。そこに五衰の怪物を人間に戻すすべがあると信じていた。

 ニシキはツバキに、ツバキが持っていた人魚の肉を加工した鈴を与える。彼女の来た元がわかるものとして。


 そしてタンスイは妻のニシキとともに浄土に渡った。浄土に渡って、浄土の秘密を得たタンスイ。人狼や人魚の肉、五衰の怪物の秘密を得る。人狼とは人魚を食べた人間、人魚とは水死体から生成されるもの、五衰の怪物とは人魚の肉に適合できなかった人間である。


 五衰の怪物が人間に戻るためには、さらに人魚の肉を食べて適合した人間――人狼の肉を食べる必要があるというものだった。タンスイとニシキは人々を救うため、浄土に奉仕し、人魚の肉を得る機会を探る。


 5年後の50年前、人魚の肉を饗された日、タンスイは適合した。が、ニシキは即座に五衰の怪物へと変化してしまった。ニシキは人狼たちによって浄土を追放された。タンスイは海へと入水する。タンスイはそのまま穢土の海岸に流れ着いたが、絶望のあまり迎えに来たツバキを殺してしまう。ツバキの姿が、5年前とまったく変わっていなかったからだ。


 殺されたツバキは海を流れ、九真野の外へと流れ着いた。


 タンスイは八千代の寿命を得た天人、そして九真野別当として君臨した。タンスイは自分の身を使ってムゲンノ鈴と放免兵を作った。五衰の怪物たちを人間であると知りながら、狩り立て殺すために。

 10年後の40年前、再会したタンスイとツバキ。しかしタンスイは浄土も穢土も憎悪し、「すべてを私の手で管理する」と宣言する。反発したツバキを、タンスイは追放した。


・第3章 不老不死

 時間軸は現在に戻る。

 タンスイに捕らえられたツバキ。タンスイはツバキから碧鈴を取り上げ、棺桶のようなうつろ舟に閉じ込めて海上へと連れていく。


 チガヤは、シロクに褒章として与えられる。シロクは完璧な人狼になることを望んでいた。チガヤはシロクを言いくるめ、ツバキを追う。放免兵の権限で船を得る。シロクとチガヤがツバキの船に到達する。遠くから響く、真の無間ノ鐘の音。すると、人魚たちが船にむらがり、三人を浄土へといざなった。


 浄土にやってきたツバキ。そしてそれを追うチガヤ、シロク。チガヤは放免兵に襲われる。


 ツバキは浄土を統治する真の八百比丘尼シイラと面会し、「無間ノ鐘」と呼ばれるものが浄土にあることを知る。碧鈴の正体――無間ノ鐘を模したものだと知る。人狼や五衰の怪物の正体も知る。九真野に三体の月が昇る日に、碧鈴が鳴らされれば、五衰の怪物から人間の心が完全に失われると知る。


 八百比丘尼シイラはチガヤを排除しようとする。襲いかかる人狼たちを退けるチガヤとシロク。チガヤのもとへ走るツバキ。人狼たちを碧鈴で操作し、チガヤを救う。シイラの誘いを拒み、穢土へと戻ると宣言するツバキ。


・第4章 かくて人は旅立ちたること

 穢土に戻る三人。

 シロクは二人を置いて、タンスイのもとに戻る。ツバキとチガヤの二人が、碧鈴を狙っていると悟る。


 タンスイを探すツバキとチガヤ。大滝の上部に、タンスイの庵があるのを見つける。

 三体月の前日、タンスイとぶつかる。五衰の怪物・ニシキが現れる。ニシキの強大さに、タンスイは碧鈴を鳴らし、ニシキから人の心を奪おうとする。そこにツバキたちが現れ、邪魔をする。


 邪魔をしたツバキを殺そうとするタンスイ。わずかに残った心を動かし、ニシキはタンスイを殺そうとする。タンスイは瀧から落ちる。ニシキはチガヤに、自分を殺すよう願う。三体月が現れたのち、ニシキは人心を失って襲いかかる。チガヤはイチイに人格を変え、ニシキを倒す。


 滝壺から助かったタンスイは、やってきたシロクによって刺される。タンスイとシロクは殺し合うが、そこにチガヤたちが駆けつける。イチイに人格を変え、半分不死になっていたタンスイと戦う。ツバキの碧鈴を口にしたため、五衰の怪物と化すタンスイ。タンスイを倒すイチイ。重傷を負ったシロクは不死を拒み、死ぬ。


 抱き合うチガヤとツバキ。彼らのもとに、浄土から無間ノ鐘の音がふたたび聞こえる。浄土からのいざないだ。ツバキはいざないを拒み、チガヤとともに九真野を旅立つ。


・2巻への引き

 チガヤとイチイをもとに戻すための旅立ち。日本全国にいる五衰の怪物たちが吠える。不老不死となった者たちの不敵な笑み。龍の息吹を感じさせる。

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