第5話 俺に状況を説明しろ!
「うおおおおおおお、なんじゃごりゃあああああっ!」
眩い光量に包まれるイクトは顔を引きつらせて叫ぶ。
身体をコの字にして後方に飛んで行く。
撃ち出されたのは実体弾ではなく粒子ビーム。
粒子に加速と圧縮を重ねに重ね一本の熱線として撃ち出す非実弾の武器であった。
圧倒的な破壊力を持つ輝きに化け物は包まれ、悲鳴をあげることなく消失していく。
ライフル銃握るイクトも無事では済まされず、右腕が肩の付け根からちぎれ飛びそうな激痛が走り、発射反動にて壁際まで弾き飛ばされる。
そのまま背面を強かに打とうならば脊髄損傷は免れない。
だが、運良くそこに置かれていたシートに背面をぶつける形で着席し難を逃れていた。
「げほ、げほげほっ!」
激しくせき込みながらもイクトは生きていた。
右腕から激しい痺れが走り、欠損したような激痛に囚われる。
震えながら伸ばした左手で右肩を掴み、何度も触っては繋がっていることを確認する。
近場で眩い光量に晒されたことで両目がチカチカする。
鼓膜も耳鳴りがして周囲の音を拾えない。
この程度で済んだのは幸運か、それとも悪運か、どっちだ。
「やっ、やったのか……」
それがフラグ発言だとしても言わずにはいられない。
時間と共に視聴覚が戻ってくる。右腕の痺れが消えていく。
ただ若干震える右手はライフル銃を硬く握りしめ、剥がそうと剥がれずにいた。
「え、え……?」
網膜に映り込む光景がイクトからライフル銃を剥がす思考を奪い去る。
化け物の姿は一欠片もなく、部屋を仕切っていた壁すら消失しては外の景色を丸裸にしている。
「何だ、よ、この光景は……」
壁より広がる光景にイクトの思考は驚愕の鎖に縛られる。
黒だった。
光一つない黒き世界が目の前に広がっていた。
「宇宙か? いや、もし仮にここが宇宙なら俺は今頃、気圧の変動で真空の宇宙に引きずり出されているぞ」
ただ黒き世界が広がるだけ。
そよ風一つなく、吸い込まれることなど一切ない不可解な現象を目の当たりにしていた。
「今度は何だ?」
唐突に鳴り響く鐘の音にイクトは身構えた。
正午を知らせるように鳴り響く鐘は周囲に変化を与えていく。
まず破壊された壁が映像の逆再生のように元通りとなる。
消失したはずの化け物が復活する。
ただ復活するだけでは終わらず、化け物から一人一人と人間が分離していく。
異様なまでの光景にイクトは愕然と突っ立っているだけだ。
気づいた時には、脱ぎ捨てたはずの白衣をジャージの上から羽織ったイクトと眼前に倒れる一〇名の大人たちがいた。
後、開いたままのドアより夏祭りにある綿飴のような物体が廊下に転がっている。
「ぬるぬるが、ない、だと」
イクトは咄嗟にライフル銃を構えるが、その手からいつの間にか放れ、元あった場所にかけられている。
手放した記憶はなく、勝手に手から離れるとは思えない。
驚くべきは白衣を濡らすぬるぬるがまったくないことだ。
洗濯した記憶などない。できる状況でもない。
ふと廊下に転がった綿飴が動く。
イモ虫のように床を這えば、近場に倒れる大人に迫る。
ギョロリとした一つ目が綿飴の奥より現れた。
「こいつまさか!」
イクトは怖気が走る先より行動に走る。
すぐ手元にあった金属板を掴めば、一つ目綿飴めがけて投げつけた。
後はハエが潰されるように、一つ目綿飴は金属板に潰されて霧散する。
廊下に金属質の音が響き、静寂が流れていた。
「なんなんだよ、こいつは……ここは……」
愕然とただ状況に呟くしかない。
訳が分からずとも、分からないからこそ行動するしかない。
「そうだ。リコは――いねえ! 一発で分かるチビっ子がいねえ!」
化け物に喰われていた――と思ったが誰も彼も大人ばかり。
一発で見分けられる小さき体躯は誰一人とて該当しない。
「おい、起きろよ! なにがどうなってんだ!」
イチカはすぐ側で倒れる大人たちから情報を得んと、その頭を蹴り飛ばした。
生きている証明として呻き声が漏れようと残念、目覚めるにはまだ少し時間がかかるようだ。
「いいから、さっさと起きて、俺に状況を説明しろ!」
そして白き空間に往復ビンタの殴打が響く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます