第208話 ポータブルピザ窯


 ポータブルピザ窯の後ろの部分には燃料ボックスという燃料の薪を入れる場所があり、そこから燃料を加えて窯を十分に熱してからピザを焼く。燃料については薪の他に木質ペレットというものを使用した。


 ペレットとは小粒という意味で、粉末状の木くずを固めた燃料となる。このピザ窯だけでなく、ペレットストーブというストーブの燃料としても使用できるものだ。


 熱したピザ窯へフィアちゃんとアンジュに手伝ってもらって作ったピザの生地をどんどん焼いていった。


「良い匂いだね!」


「ああ。焼けたチーズの香りがうまそうだな」


 ランジェさんとドルファがおいしそうに焼けたピザを見る。焼き立てのピザの香りがたまらない気持ちはよく分かるよ。


 さすがにピザの生地は発酵など時間が掛かるため、生地だけは予めアレフレアの街にいる時に作ってきた。


 それなら街で焼いたピザを収納魔法に収納して持ってくれば良かったんじゃないかと思うかもしれないが、こういうのは自然の中で作るからいいんだよな。それもキャンプの醍醐味である。


「外側はパリッとしているのに中はふっくらとしていますね! そこに酸味のある赤いソースと溶けたチーズが合わさって、とってもおいしいです!」


「おお、これはパンよりもうまいな! 肉とチーズとソースが下にある生地と合わさって最高だぜ!」


 アンジュとドルファが食べているのはピザと言えばこれのマルゲリータだ。トマトソース、チーズ、バジルソースに燻製肉の薄切りを少し載せたシンプルなピザである。


 ただトマトはあったけれどバジルがなかったので、バジルに似た香りの良い野菜で代用しているから、正確に言うとマルゲリータではないのかもしれないけれどね。


「ふむ、このピザはそっちの赤いのとはだいぶ味が違うな。こっちは濃厚なソースと肉の味でおいしいぞ!」


「こっちのはお肉がいっぱいでおいしいです!」


「うん、この甘辛い味がたまらないね! 下の生地には味が付いていない分、具とソースは濃い味なんだ。いやあ、これはお酒にもあって最高だよ!」


 リリア、フィアちゃん、ランジェさんが食べているのは照り焼きピザだ。トマトソースの代わりに以前王都で手に入れた醤油や砂糖をベースにした甘辛い照り焼きのタレを作って、それを肉の上にたっぷりとかけて焼いたピザだ。


 ちなみにその肉はベルナさんとフェリーさんが提供してくれた肉だから、アレフレアの街で購入できる肉よりも遥かにおいしい。ランジェさんの言う通り、味が濃い分お酒にもよく合う。今日は俺もちょっとだけお酒を飲んでいる。


「こっちのは甘くておいしい!」


「これは素晴らしいですわ! 塩気のある異なったチーズとマーブルビーの蜜の甘さが一体化して初めて食べる味です!」


 フェリーさんとベルナさんが食べているのはクアトロフォルマッジだ。イタリア語で4を指すクアトロとチーズを指すフォルマッジが示している通り、4種類のチーズをトッピングしたピザだ。


 実際にアレフレアの街で手に入るチーズの種類は3種類だけだったから、正確にはトレフォルマッジというのかもしれないが、細かいことはいいんだよ。ただ3種類のチーズをトッピングして焼くのではなく、焼いたピザの上にたっぷりのハチミツを掛けて食べるのもこのピザの特徴だ。


 アレフレアの街でハチミツは手に入らなかったが、ベルナさんとフェリーさんがマーブルビーという蜂型モンスターの蜜を提供してくれた。リリアから聞いた話によると、この蜜はかなりの高級品のようだ。砂糖が高価なこの世界ではそれに代わる蜜が高価になるのも仕方のないことなのかもしれない。


 一度テレビで見て作ってみたかったピザだが、生地のパリッとしつつふっくらとした食感と3種類のそれぞれのチーズの味に蜜の甘さが加わってなかなかの味だ。チーズとハチミツって思っていた以上に合うみたいだな。


 ……まあ、どのピザも結構なカロリーがありそうだけれど、俺以外はみんな運動もしていたことだし大丈夫だろう。フェリーさんはあまり運動をしていなかったようだが、魔法を使用するとお腹が空くみたいだからな。


「うん、なかなかいけるね。今度のお店は上の階に広いスペースがあるから、たまにはそこでパンやピザを焼いてもいいかもしれないね」


「おお、そいつは楽しみだぜ!」


「楽しそうです!」


 ポータブルピザ窯は販売しないと思うけれど、またみんなで集まってバーベキューをする時にピザがあってもいいかもしれない。


 しかし焼き立てのピザは本当においしいな。さすがに立派な石窯を作るのは結構な費用が掛かってしまうが、このポータブルピザ窯なら数万円で手が届くし、簡単に持ち運べるのも助かる。


 本当に最新のキャンプギアはどんどん便利で軽く進化しているからすごいよな。

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