第201話 新しいお菓子


「かあああ~! やっぱこの冷えたエールはうめえな!」


「いやあ、ギルマスの持ってきてくれたこのエールも本当においしいよ。それにグレゴさんのおすすめのこっちのお酒もおいしいね!」


「うむ、そう言ってもらえると持ってきた甲斐があったわい。それにしても、このローストビーフとワインはよく合うな!」


 バーベキューも進み、自然と酒のみのグループに分かれて、燻製した料理やローストビーフなんかと一緒に酒を楽しんでいる。


「本当にうまい。この街ではこれほどうまい酒は中々手に入らないからな」


「ええ、それに料理がとてもおいしいので、ついついお酒が進んでしまいますね!」


 お酒を飲むのは冒険者ギルドマスターのライザックさん、ランジェさん、鍛冶工房のグレゴさん、ドルファ、ベルナさんと俺の6人だ。


 ライザックさんの差し入れのおいしいお酒をランジェさんの氷魔法で冷やして、ベルナさんとフェリーさんが持ってきてくれた素材で俺が料理と合わせる。うん、今更ながら、このバーベキューで食べる料理とお酒が一番おいしいかもしれない。


「それにしても、キングボアの肉は本当にうまいですね。この野性味あふれる肉の味はドラゴンとはこれまた違って、エールとワインによく合うなあ」


「ふふ、気に入ってもらえて良かったですわ。お肉はまだまだ山ほどありますから、いくらでもおっしゃってくださいね」


 今回もまたベルナさんとフェリーさんがお肉を差し入れてくれた。以前にもらったドラゴンの肉ほど白いサシは少なかったが、その分ひとたび噛めば噛み応えのある肉から野性味あふれる肉汁が溢れてくる。


 バーベキュー用に薄く切って焼くよりも、多少の厚みを持たせて焼いて、アウトドアスパイスやアウトドアソースを掛けて食べると本当においしかった。


 ちなみにキングボアとは、その名の通りワイルドボアよりも遥かに大きなイノシシ型の魔物だ。フェリーさんの収納魔法から出して見せてもらったけれど、その大きな肉塊からも、キングボアの大きさが見て取れた。


「こいつはまた酒に合うよなあ! キングボアはこの辺りにはいねえから、自分で調達するには面倒な魔物なんだよ」


「さ、さすがフェリーさんにギルマスだ。俺の実力だと、キングボアは少し手に余るだろうな」


「僕も正面から戦うのはちょっと嫌だね。敏捷性は勝っているけれど、あの巨体には僕の攻撃力だとだいぶ時間が掛かっちゃうし、何度も斬りつけるから、こんなに良い肉の状態で倒すことはできないよ」


 どうやら、キングボアはドルファとランジェさんの手には少し余る魔物らしい。話から察するに、BランクからAランク冒険者相当の魔物なのだろう。


 ……うん、ワイルドボアにすら勝てない俺なら瞬殺だろう。


 そんなおいしい食材を駆け出し冒険者が集まるこのアレフレアの街で食べることができるんだから、ベルナさんとフェリーさんには感謝だな。


「テツヤお兄ちゃん。あの、えっと……」


「テツヤ、そろそろデザートがほしい」


「ああ、確かにそろそろだね。了解だよ」


 こちらでお酒を楽しんでいると、フィアちゃんが遠慮がちに俺に話しかけようとしていたところをフェリーさんがズバッと言う。フィアちゃんも遠慮せずにいいのにな。


 確かにそろそろデザートを用意しても良い頃合だ。バーベキューだとついつい多く料理を作りがちになってしまうから、まだお腹の空いている状態からデザートを用意してあげた方がいい。


「ランジェさん、手伝ってもらっても大丈夫?」


「うん。例のやつを作るんだね、任せておいてよ!」


「例のやつ?」


「フェリーお姉ちゃんもびっくりすると思うよ!」


 今日のために、事前にランジェさんには新しいデザートを作る手伝いをしてもらった。うちのお店の従業員はすでに試食済みだが、フェリーさんや他のみんなは初めて食べるデザートになるからな。




「うわっ、なにこれ!? 冷たくてとってもおいしい!」


「うん、冷たくて甘くて、口の中で溶けていくぞ!」


「こんなお菓子は初めて食べたぜ!」


 ニコレ、ファル、ロイヤ達は今回のために作ったデザートを驚きながらもおいしそうに食べている。


「うわあ~おいしい! テツヤお兄ちゃん、これはなんてお菓子なの?」


「これはアイスクリームっていうお菓子だよ、アルベラちゃん」


 ランジェさんの氷魔法によってミルクと卵と砂糖を加えたものを冷やすことによってできたミルクのアイスクリーム。それにチョコレートバーを刻んで混ぜたチョコレートのアイスクリーム、イチゴの果物を刻んで混ぜたストロベリーアイスクリームを作ってみた。


「……甘くて冷たくて、とってもおいしい!」


「氷菓子とは違って、柔らかいですわ!」


「うん、ゼリー飲料もヒンヤリとしておいしいが、こっちのアイスクリームという菓子はもっと冷たくておいしいぞ」


 フェリーさん、ベルナさん、リリアもおいしそうにそれぞれのアイスクリームを食べている。やっぱり甘いものが好きなこの3人はアイスを気に入ると思っていたよ。


 事前にリリアやランジェさんから聞いていたように、他の街でもまだアイスクリームはないみたいだ。そもそも氷魔法を使える人が少ないもんな。


 いつものデザートもいいのだが、なんとなくバーベキューをする際は前とは一味違うものを作りたくなるものである。

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