第193話 注文住宅
「あとさらに理想を言えば、今ある店みたいに庭があったり、広いベランダなんかもあると嬉しいですね」
先ほどまでの話題を逸らしつつ、個人的な要望をもうひとつ出した。
今ある店には狭いながらも裏庭がついている。休みの日にはのんびりとアウトドアチェアに座ってのんびりとしたり、従業員のみんなと料理を作って食べたりしている。それに燻製料理はいつも庭で作っているからな。
あの時間は結構好きなんだよね。理想を言えば、新しい物件にも庭かベランダが欲しいところだ。それにもしも店と隣接する中庭とかだったら、営業中は実際に販売しているキャンプギアを設置して見てもらうのもありだ。
確か元の世界ではそういったアウトドアショップも多かったからな。特にアウトドアチェア、マット、寝袋あたりなんかのキャンプギアは実際に実物を見て判断したいというのもあるからな。
「ふむ、庭かベランダか」
「それとこれもできればなんですが、風呂なんかもあるととても助かりますね」
現在のお店には風呂がついていない。普段は汲んだ水で身体を拭き、数日に一度庭で簡易的なシャワーを使って身体を洗っている。シャワーでも十分と言えば十分なのだが、やはりたまには風呂に入りたくなるんだよね。
とはいえこの世界の、しかも駆け出し冒険者が多く物価の安いこのアレフレアの街で風呂の付いた家なんてほとんどないことは理解している。だからこっちの方は本当にできればでいい。
「……テツヤ、さすがにそれは難しいんじゃないのか?」
「さすがに風呂は難しいかな。風呂については本当にできればという感じですね」
「ふ~む、この街でそこまでいろいろな設備が整った店舗用の物件はあまりないかもしれないな。そもそも風呂がある家自体の数がそれほどあるというわけではないんだよ」
やはりそうか……予想した通り、風呂や中庭のある店舗用の物件というものは難しいのかもしれないな。
「それでしたら、むしろ土地だけ購入して、建物は好きなように設計して建てるのもいいかもしれませんね」
「おう、それがいいかもしれんな」
「あっ、そんなこともできるんですね」
元の世界でいう注文住宅みたいなものか。なるほど、確かにそれなら俺の希望する店舗を自由に作ることができるらしい。
「……でもやっぱりその分結構なお値段がするんですよね?」
「まあ新しく店の建物を丸々建てるわけだから、すでにある店よりは高くなってしまうな。テツヤさんの店なら間違いなくお金を貸してくれるところはいくらでもあるだろうが、あまり多額の借金をするのも良くはないだろう」
「ええ、テツヤさんのお店はちょっと特別ですからね。お金を借りる際も気を付けないといけませんよ」
「そうなんですよね~」
ブライモンさん、マドレットさんの言う通り、うちの店は他にはない特別な商品を扱っているからな。お金を貸してくれる場所はかなりありそうだけれど、借りるところを間違えると商品の権利とかを主張してきそうだもんな。
そもそもうちの店の商品は俺のアウトドアショップの能力で仕入れを行っているので、仕入れルートとか商品の作り方とかを担保にはできないんだよな。それにその場合は賃貸ではなく、土地を購入して建物を建てるから、結構な金額が必要に決まっている。
「ちなみにその場合だとどれくらい掛かりそうな感じですか?」
「そうだな、今の店の倍から3倍の広さの土地となるとこれくらいで……その上に新規で建物を建てるとなるとこれくらいか」
「ああ~なるほど……」
うん、当然金貨数千枚にはなるよね……
この街だけでなく、王都やいくつかの街に商品を卸すようになって、これまでに結構な金額を稼いできたわけだが、さすがにそれだけの金額を一括で支払うことはできない。
リリアの腕を治すための完全回復薬のお金を稼ぎたいということもあるが、それを抜きにしても手が出ない金額だな……
それに完全回復薬は俺個人の問題だから、うちのお店のお客さんや従業員のためにも、まずは店を大きくすることが優先される。
「さすがにそこまでの金額となると厳しいので、今ある物件で探してもらえればと思います」
自分の思った通りの店を建てるのも夢はあるが、それにはたくさんのお金が必要である。風呂付きで庭のある店舗兼自宅がほしかったが、現実とは厳しいものだ……
「ああ、了解だ。まずは候補となる物件を探してみるとしよう」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「テツヤお兄ちゃん、冒険者ギルドの人が来たです!」
「ああ、ありがとうフィアちゃん」
営業中に冒険者ギルドの職員さんが来て、時間のある時に冒険者ギルドへ来てほしいとのことだった。
ふむ、もしかしたらグレゴさんの件で何か進んだのかな? 今日の営業が終わったら冒険者ギルドへ行ってみるとしよう。
「テツヤさん、リリアさん、いつも足を運んでいただいてすみません」
「おう、テツヤにリリア。毎回悪いな」
「いえ、うちの店で大事な話をするものちょっと怖いですから気にしないでください」
うちの店で重要な機密事項を話すのはちょっと怖いから、俺の方からもむしろ冒険者ギルドで話をしたい。こういうのは慎重すぎるくらいがいい。
「王都のルハイルから連絡があってな。いい話がひとつと、テツヤにとっては何とも言えない話がひとつあるんだが、どちらから聞きたい?」
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