第187話 新商品


「まったくリリアもそうだけれど、テツヤもだいぶ奥手そうだもんなあ~普通に今日デートしない? って誘えばいいだけなのにね」


「その一言が簡単には出ないんだよね……それにもし断られたら2人でいるのがすごく気まずくなるし……」


 前世を含めて今まで彼女がいないどころか、女性と一対一でデートに出掛けたことがない俺にとってはそれだけでもかなりハードルが高い。男女含めて大勢で行動する分には普通に女性と話せるけれど、それはデートじゃないもんな……


 もしも断られたら、リリアは護衛として一緒に暮らしているわけだし、そのあとの生活がものすごく気まずくなることは確実だ。というか、デートに誘うイコール告白しているものと同じではないかとも思うのだが違うのか?


 ……この世界に来て商売の仕方なんかは十分に学んできたけれど、女心については相変わらずさっぱりだ。


「まあ、テツヤとリリアの場合は最初っから護衛として一緒に生活していたからちょっと難しいよね。うん、ちょっと僕の方でもいろいろと2人がそういう空気になれるように考えてみるかな」


「ありがとう、ランジェさん!」


 さすがランジェさん、恋愛方面では本当に頼りになるぜ! 師匠と呼ばせてもらってもいいっすか!


「僕もリリアとテツヤがうまくいってくれれば嬉しいからね。いろいろと考えてみるよ」


 どうやらランジェさんのほうで何か考えてくれるようだ。正直なところそれはかなりありがたいな。


「どちらにしても、今週は新しい商品を販売するのと、新しくここよりも大きなお店を借りようと思っているから、しばらくは忙しくなりそうだし」


「そういえば結局新しく店を借りることにしたんだね」


「ああ。そっちの方が置ける商品も大幅に増えるし、これまでにこの店では販売することができなかったサイズ違いや色違いの商品もいろいろと置くことができるからね」


 リリアのためにも完全回復薬を購入したいところだけれど、かなり値段が高いからもっとお金を稼がなければならない。そのためにもここは多少の出費をしてでも店を大きくした方がいいという判断だ。


 他にもちょっと考えていることがあるのだが、そのためには事前にいろいろとやらなければならないことがある。


「お店を移転するならしばらく時間が空きそうだね。そしたらその間に王都の方へ行ってみようかな。今度は冒険者ギルドマスターのルハイルさんにもちゃんと挨拶したいからね」


 そういえばランジェさんは王都の冒険者ギルドマスターのルハイルさんに会いたいって言っていたもんな。


「そうだね。どちらにしても店を移転する時にはもう一度王都へ行こうと思っていたから、またベルナさんとフェリーさんに王都まで一緒に来てくれないか聞いてみよう」


「そっちの方が断然早く王都まで着くから僕も助かるよ。まさかあんなに早く王都まで着けるとは思ってもいなかったからね」


 まだこれから試すことがうまくいってからだけれど、他にも王都ではいろいろとお願いしたいこともある。どちらにせよお店を移転する時にはいろいろと準備も必要だし、店をしばらく休みにしてまた王都へお邪魔させてもらうとしよう。


 さて、先のことを考えるのもいいが、まずは明日の新商品の販売からだな。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「本日も朝早くから当アウトドアショップへお越しいただきまして、誠にありがとうございます!」


 2日間の休みが過ぎて週が明け、今日もアウトドアショップの営業が始まる。今日から新しい商品の販売をすることもあって、朝から多くのお客さんが店の前に並んでいる。


 とはいえ今日は食品系ではないと予め告知してあるから、先々週ほどのお客さんが集まっているわけではない。……一応うちのお店は駆け出し冒険者へ役に立つ道具を発売している店だが、インスタント系の食品の方が人気はあるんだよね。


 今日はアウトドアショップのレベルが5に上がって購入できる商品の中から新たに2つの商品を販売する。


「さて、まず本日ご紹介する商品はこちらの『ドライシャンプー』となります!」


 俺が商品名をお客様に伝えるのと同時にいつも通りうちのお店の看板娘かつマスコット店員のフィアちゃんがお客さんに商品を見せてくれた。


「……なんだあれ、何かの粉か?」


「今回の商品は食品じゃねえって言っていたよな?」


「魔物相手に目つぶしでもするのかしら?」


 フィアちゃんがお客さんに見せてくれた商品はうちの店がいつも使っている木筒に入った粉だ。さすがにこれだけではお客さんも使い方が分かるわけないから、今回はクイズもなしですぐに答えを発表しよう。


「長い間髪を洗わずにいた時は髪がべたついたり変な臭いがする時はありませんか? そんな時にこのドライシャンプーの粉を少量手に取って、しっかりと頭皮全体になじませれば、べたつきや臭いを抑えることができます」

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