第171話 洗いもの
「よし、とりあえず今度販売する商品はアウトドアスパイスとレトルトカレー、ようかん辺りにしておこうかな」
「うん、最初はそれくらいでいいんじゃないかな。あんまり多すぎても管理する側が大変だからね」
「ああ。商品は少しずつ増やしていけばいいと思うぞ」
ランジェさんとリリアと相談した結果、次に売り出す商品はこの3つに決まった。
……まあ、これらの商品はすべてアウトドアショップのレベルが4の時までに購入できた商品なんだけれどね。
俺達が王都へ行っていた間に、レトルトカレーとようかんを販売する際に使う予定であった保存パックを鍛冶屋のグレゴさんが大量に作っていてくれた。そのおかげで、ようやくレトルトカレーとようかんが販売できるようになったというわけだ。
この保存パックは液体を通さず熱に強い素材でできており、閉じる部分が2重になっているため、とても高い密閉性を持っている。そのため、この保存パックを煮沸消毒し、俺のアウトドアショップの能力により保存パックの中に直接レトルトカレーやようかんを購入すると、真空パックのようになってかなり長い期間保存ができるようになった。
「あとは今週中に保存パックや木筒を洗う人を雇いたいところだね」
今のところ、アルファ米、インスタントスープや棒状ラーメンのスープの粉を入れている木筒はアウトドアショップの営業が終了したあとに従業員で洗っている。しかし、それに加えて保存パックまで洗うことになると、かなりの時間を使うことになってしまう。
そのため、夜間に木筒や保存パックを洗ってもらう、いわゆるアルバイトを雇うことにした。
「今まではそれも結構な手間になっていたからな。他の者にやってもらえるのならば、それに越したことはないと思うぞ」
「夜の数時間だけなら、それほどお金もかからないと思うよ。ただ場所も毎晩借りるとなると、ちょっと面倒かもしれないね」
「確かに俺の能力は知られたくないし、この店の2階を使うわけにはいかないものな。その辺りもどうするかな……」
ランジェさんの言う通り、今まではこの店の2階の居住部分で洗い物をしてもらっていたが、2階には店で販売していない物があったり、俺達が食事をしたりする場所でもある。
一時的に雇うアルバイトの人を2階には入れたくないというのが本音だ。
「そうなると、どこかの飲食店なんかに頼むのがいいかもしれないね。お店の中に洗い場はあるから、この店から木筒や保存パックを持っていくだけでよさそうだよ。それにお皿を洗う経験も豊富だし、自分達の店の食器を洗うついでで、お小遣い稼ぎとして引き受けてくれるかもしれないね」
「「……あっ!」」
ランジェさんの言葉に、俺とリリアの声が重なる。どうやらリリアも同じことを思いついたのかもしれない。
「ひとつ心当たりがあるよ。飲食店というよりも宿だけれどね。とりあえず、明日聞いてみるよ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あらテツヤさん、お久しぶりですね。今日は2人?」
「お久しぶりです、女将さん。今日は食事じゃなくて、ちょっとご相談があってきました」
「テツヤお兄ちゃん、リリアお姉ちゃん、いらっしゃい! この前は王都のお土産をありがとう!」
「アルベラちゃんも元気そうだね。お土産を気に入ってくれたようでよかったよ」
「ああ、元気そうだ。すまないが、少しお邪魔するぞ」
今日のアウトドアショップの営業が無事に終了し、お店のことはみんなに任せて、リリアと一緒に俺がこの街に来て一番最初に泊まっていた宿へとやってきた。
まだ少し早い時間のため、店内はそこまで混んでいないようだ。もうしばらくすると、宿に泊まるお客さんの料理や、食事処としてこの宿を利用するお客さん達が増えてくるだろう。
女将さんに案内してもらい、この宿の厨房にいるおっちゃんのところへと案内された。
「おう、テツヤ。この前は王都の土産をありがとうな。アルベラもあの人形をすっかり気に入ったみたいだぞ。それに土産の菓子もうまかったぞ」
「それは良かったです。あとあの人形を選んでくれたのはフィアちゃんだから、明日お礼を伝えておきますね」
宿の厨房に行くと、マッチョな男の人がいた。このおっちゃんはこの宿の主人で、こんなにマッチョなのに立派な料理人なのだ。
なんだかんだでこの街に来てから、縁があって宿の料理もおいしいから、たまに晩ご飯を食べにきている。その関係もあって、王都へ行ったときにお土産をいくつか買ってきたが、どうやら気に入ってくれたようだ。
小学生くらいの年のアルベラちゃんには王都で売っていたぬいぐるみのようなものの中から、年が近いフィアちゃんに選んでもらったのだが、それも気に入ってくれたようでなによりだな。
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