第152話 元パーティメンバー


「ああ、もちろん冒険者ギルドとしても最大限の報酬を約束しよう! 確かにこの方位磁石という道具はとてつもなく有益な代物だ。こちらでもいろいろと調べさせてもらったが、この方位磁石はダンジョン内だけでなく海の上でも使えるようだ。何の指針もない海の上ではこの道具がいかに素晴らしいものか、想像は難しくないだろう?」


 すでにそこまで調べているのか。確かに方位磁石が一番活躍できる場は何の指針もない海の上である。確か元の世界でも昔は太陽の位置から方角を見極める道具があったようだが、あれは雲があって太陽の位置が分からない時には使えないという欠点があったからな。


 俺も失念していたが、方位磁石を欲しているのは冒険者よりも海の商人だったのかもしれない。


「実はすでに大きな商店の一部はテツヤくんの店を調べ始めている。こちらとしても今後は大事な取引相手となるわけだし、テツヤくんが王都へ来た時に忠告しようと思っていたところだったよ」


 おう……思ったよりも事態は深刻だったらしい。確かに一商店が扱うものとしては大きすぎる案件だもんな。大きな商店が相手だと貴族なんかが出てくる可能性もあるし、さすがにアレフレアの街の冒険者ギルドだけでは対応しきれない可能性がある。


 それにしてもルハイルさんは冒険者ギルドマスターなのにこういった方面に関しても気が回るようだ。当然ルハイルさんも元は有名な冒険者だったとリリアたちから聞いている。同じ冒険者ギルドマスターでもライザックさんとはえらくタイプが違うもんだな……


「ご配慮ありがとうございます。私としてもちょうど良いタイミングだったかもしれませんね」


「商人や貴族というものは冒険者以上にお金には敏感のようだからね。そういえばテツヤくんも商人だったか。まあテツヤくんは商人という割に商人らしくはないようだ。おっと、これは誉め言葉だよ」


「ええ。自分で言うのもなんですが、私はあまりお金や地位には興味がありませんからね。私の命を救ってもらった冒険者たちの力になれて、のんびりとした生活が送れればそれでいいんですよ」


 こちらはお金や地位などでは動かないことをルハイルさんにアピールしておく。俺は適度に働いてのんびりとした生活が送れればそれで満足だ。


「……なるほど、やはり実際にテツヤくんと会えてよかったよ。こういった人となりは実際に会ってみないと分からないものだからね。納得したよ、ライザックのやつが気に入るわけだ」


「ルハイルさんはライザックさんとは同じパーティだったらしいですね。みんなに聞いた時は本当に驚きましたよ!」


 そう、王都の冒険者ギルドマスターであるルハイルさんとアレフレアの街の冒険者ギルドマスターであるライザックさんは元同じ冒険者パーティだったらしい。それを聞いた時はめちゃくちゃ驚いた。同じパーティのメンバーが、別の街の冒険者ギルドマスターを務めているってすごいことだよな。


 以前にライザックさんはルハイルさんを知っていた風だったが、元パーティメンバーならそれも当然だ。


「ああ。ライザックのやつは相変わらず悪人面をしているのだろう?」


「いえ……まあ……」


 なんともあいまいな言葉で返してしまった。確かにライザックさんと初めて会った時はどこのヤーさんかと疑っていたからな……


「まあ、あいつが顔に似合わず、いつも若手の冒険者のことを考えているやつだということは私も良く知っている。心構えは私よりもよっぽど冒険者ギルドマスターとして相応しいのだろうな……ただ、あいつは昔から考えなしに動くやつだったから少し心配でもあるんだ……」


 さすが元パーティメンバーだっただけあって、ライザックさんのことを良く知っているようだ。顔に似合わずか……うん、申し訳ないが俺もそこは否定できない。


「その点は副ギルドマスターのパトリスさんがうまく手綱を握ってくれているみたいですよ。少なくとも今のアレフレアの街は駆け出し冒険者にとって、とても過ごしやすい街です」


「それはいいことだな。王都も近くの街から様々な人や物が集まる賑やかな街だが、その分いろいろとしがらみが多いことが欠点だ。とはいえ、観光する分にはとても楽しい街だから、テツヤくんたちもぜひこの街で楽しんでいってくれたまえ」


「はい、従業員のみんなも王都に来られてとても楽しそうにしていますよ。改めてこの度は王都まで招待していただきまして、本当にありがとうございます」


「こちらこそテツヤくんとは長い付き合いになりそうだよ。これからもよろしく頼む」


 ルハイルさんと握手を交わした。まだ初見だが、ルハイルさんとはこれから長い付き合いになりそうな気がする。




 そのあとは今後の取引についてルハイルさんと話を詰めていった。


 方位磁石については他に漏らさないという条件で、うろ覚えの知識をルハイルさんに伝えた。この王都にはたくさんの鉱石があり、雷魔法を使える者もいるそうなので、まずはいろいろと試してみるらしい。


 方位磁石の外側の部分は俺がストアで購入した物を参考にドワーフがいる鍛冶屋へ依頼するようだ。このあたりはさすが異世界だなと感心した。


 方位磁石の作り方を教えた段階で、これまた結構な報酬をいただく。方位磁石が完成したら、ロイヤリティといった感じで売れれば売れた分だけ俺にも報酬が入ってくる契約となった。う~ん地図もそうだけれど、なんだかお金がものすごく入ってくるな……

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