第137話 王都へ行くための準備


「よし、今日の営業も無事に終了だな」


 最後のお客さんを従業員達で見送った。今日は新商品である虫よけジェルの販売を始めたが、問題なく営業が終了した。


 予想通り、虫よけジェルはそこまでお客さんが殺到するというわけもなく、ほどほどの売り上げで終了した。虫もうざいが、我慢できないほどではないし、それにお金を払うほど余裕がある冒険者達も駆け出し冒険者が多いこの街では少ないのだろう。


「そういえばフィアちゃん、レーアさんには例の話を聞いてくれた?」


「うん。やっぱりお母さんはそんなに長い休みを取れないみたい……」


「まあ、それが当然だよね……」


 例の話とは、来週か再来週あたりにうちのお店の従業員全員で王都まで行けないかという話である。


 王都でのダンジョン攻略の役に立ったということで王都の冒険者ギルドから大金を受取ったし、今後はうちの店の商品を扱ってくれるということになるので、一度王都の冒険者ギルドへ挨拶に行こうという話になった。


 その間はこのお店も休むことになるわけだし、せっかくなら従業員のみんなも一緒にどうかという話になり、フィアちゃんの母親であるレーアさんにもお誘いをかけた。お店も順調だし、王都の冒険者ギルドからお金も貰ったし、当然費用はお店もちである。


 しかし、残念ながらレーアさんは別のお店で働いているため、長期の休みは取れないようだ。


「フィアも王都には一緒に行きたいんだけど、やっぱりあんまり長い間おうちを離れるのは難しいかな……」


「そっかあ……残念だけどしょうがないね」


 王都までの道のりはいくつかの街へ寄ると、馬車を使っても7~8日はかかる。それに王都でも2~3日滞在するとなると、往復で半月以上はこの街を離れることとなる。


 いくら戦闘が強いリリアやランジェさんやドルファがいるとはいえ、危険がゼロというわけではないし、半月以上まだ幼いフィアちゃんをレーアさんなしで預かるというのは難しいかもしれない。


「その分フィアちゃんとレーアさんにはお土産をたくさん買ってくるからね」


「うん! テツヤお兄ちゃん、ありがとう!」





「おう、テツヤにリリア。いつも悪いな」


「テツヤさん、リリアさん、いつもありがとうございます」


「いえ。こちらこそ、先日はアンジュのストーカーの件についてご協力ありがとうございました」


 例のアンジュのストーカーについて、結果的には俺とリリアのほうを狙って逮捕されたわけだが、あらかじめライザックさんとパトリスさんには協力をお願いしており、ストーカーが逮捕された時には事前にストーカー行為の相談を受けていたと衛兵に証言してくれた。


 幸いドルファがストーカーに対してやり過ぎてしまい、問題を起こして冒険者ギルドに迷惑をかけるようなことはなかったのでほっとしている。


「無事に解決したようでなによりでした」


「とりあえず2人とも無事だったからよかったが、今度からはもっとうちを頼ってくれてもいいんだぞ」


「今回はできれば手を出させたかったこともありましたからね。冒険者ギルドに来たら、さすがにあの男も手は出してこなかったでしょうから」


 さすがに何日も付きまとわれてはお店の営業にも差支えが出るからな。相手はひとりということだったし、リリアもいることもあって、ストーカーを挑発してあえて手を出させた。


「リリアさんがいれば、確かに大丈夫でしょうね。なんにせよ、みなさんに怪我がなくて本当に良かったです」


「ああ。違いねえ」


 どうやらライザックさんもパトリスさんもうちのお店をだいぶ心配してくれていたらしい。ありがたい限りだ。


「そういえば王都の冒険者ギルドから連絡が来ていたぞ。テツヤ達を歓迎してくれるってよ。護衛と馬車もあっちで用意してくれるって話だ」


「もう返事が来たんですね」


「手紙や連絡だけなら、馬車で移動するよりも早く送ることが可能だからな」


「なるほど」


 リリアの言う通り、馬車で移動するよりもだいぶ早いらしい。この世界にも早馬や伝書鳩的な連絡手段なんかがあるのかもしれないな。


「でも馬車や護衛まで出してくれるのはとても助かりますね」


「そりゃ、方位磁石や浄水器なんかを王都の冒険者ギルドに卸してくれるのなら最大限に歓迎してくれるだろ。例の王都のダンジョン攻略の際もだいぶ助かったって喜んでいたからな」


 そういえばライザックさんは王都の冒険者ギルドマスターと知り合いだと言っていた。王都の冒険者ギルドマスターはどんな人なんだろうな。


「ちなみに護衛にはベルナさんとフェリーさんが手を挙げてくれたようです。あのおふたりなら、テツヤさんとリリアさんも安心できるのではないですか」


「ああ、あのふたりならまったく問題ないな」


「ええ、ベルナさんとフェリーさんでしたら何度もお会いしているので安心です!」


 どうやら王都までの護衛はベルナさんとフェリーさんが引き受けてくれたらしい。2人ともAランク冒険者だし、人柄も知っているので、安心して護衛をお願いできる。それに実際にフェリーさんの収納魔法で商品を運んでもらう練習にもなるな。


「出発は来週で問題ないか?」


「はい、大丈夫です」


 すでにみんなの予定は聞いてある。フィアちゃんとレーアさん以外は全員参加できる予定だ。


「数日前に2人が来ると思うから準備はしておいてくれ。ちなみにあの2人なら王都までの片道は2~3日で行けるからな」


「えっ、そんなに早いんですか!?」


 マジか!? 普通の馬車の2~3倍の速さだぞ!


 そういえば2人がダンジョンを攻略して王都から帰ってくるのは本当に早かった。なにか特殊な移動方法でもあるのだろうか。


「そういえばテツヤは知らないんだったな。まあ当日を楽しみにしていてくれ」


 どうやらリリアはその移動方法を知っているらしい。それに片道がそれくらいで済んで、護衛がAランク冒険者の2人なら、もしかしたらフィアちゃんも参加できるかもしれないな。明日確認しておくとしよう。



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いつも拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます(*´꒳`*)


第5回ドラゴンノベルス小説コンテストの中間発表があり、この作品が中間選考を突破しておりました∩^ω^∩


これもみなさんが応援してくれたおかげです。

本当にありがとうございます!


2676作品中33作品の中に選ばれただけでも嬉しいのですが、ここまで来たらぜひとも受賞したいところですね!


フォローや★★★がまだの方は応援していただけますと嬉しいですo(^▽^)o

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