第136話 虫よけジェル


 アンジュのストーカー問題が無事に解決し、今のところアウトドアショップの経営は順調そのものだ。


 保存パックに入れていたようかんとチョコレートバーは無事に2週間以上経っても痛まずに食べられることが確認できたので、グレゴさんに大量発注をお願いしつつ、冒険者ギルドのライザックさんとパトリスさんにも報告した。


 これで許可が取れて、ベルナさんとフェリーさんに依頼ができれば、王都とそこまでにあるいくつかの街にも保存パックに入れたようかんとチョコレートバーを販売できることになる。


 ちなみに方位磁石と浄水器はすでに冒険者ギルドに依頼をして、他の街の冒険者ギルドへ卸し始めた。


 こちらの商品は馬車で輸送をしているので、輸送費分このアレフレアの街で販売している料金よりも高くなってしまうのだが、どちらにせよこの街の物価はだいぶ安くなっているので丁度いいだろう。


 もちろんそれほど大量生産ができないという理由で最初の販売数は少なくする予定だ。ようかんとチョコレートバーに関しては、冒険者の生存率を上げるという目的もないので、かなり少なめにする予定である。


 他の街や王都にも甘いものを売っているお店はあるだろうし、他のお店に影響が出ない範囲にするつもりだ。あと単純に保存パックの洗浄と煮沸消毒の時間がかなりかかるため、それほど大量に用意できないという理由もある。


 ただでさえ日々のお店のインスタントスープや栄養食品の木筒の洗浄もあるので、そこまでは手が回らない。ようかんとチョコレートバーの販売を始める際には洗い物だけをお願いするアルバイトなんかを雇おうとも考えている。




「今日も朝早くから当店にいらっしゃいまして、誠にありがとうございます」


 週末の休み明けの日、いつもと同様に昨日と一昨日はお店を休んでいたため、週明けはいつもより朝から並んでいるお客さんが多い。そのため、新商品を販売するときは週明けの日にしている。


「お店を開く前に、本日より新しく販売する商品の説明をさせていただきます」


 今回も前回販売を始めた防水リュックと同様に事前の告知はしていない。というのも、今回の商品もそこまで需要があるか分からないからだ。確実に需要がありそうな場合以外はあえて告知をしなくてもいいと思っている。


 ちなみに防水リュックについては予想通り爆発的に売れるようなことはなかったが、口コミなどで少しずつ売れ始めてきた。やはり、今まで使っていたリュックが壊れて、その代わりに購入する冒険者が多い感じだな。


 多少割高にはなるが、新しいリュックを買うなら雨などに対応できるうちの防水リュックを購入するといった感じだ。


「今回販売する商品はこちら! 虫よけジェルになります!」


 そう言いながら小さな木筒の蓋を開けて、中に入っているジェル状の塗り薬をお客さん達に見せる。


「……虫よけってことはあれか、森の中にいる虫が近寄らなくなるのか?」


「はい。こちらのジェルには虫が苦手とする成分が入っておりまして、これを肌に塗りますと、しばらくの間虫が近寄り難くなります」


「「「おお~!」」」


 俺のアウトドアショップの能力がレベル4になった時、新しく購入できるようになった商品である。


 他にも定番の虫よけスプレーや蚊取り線香なども購入できるようになったが、スプレーをミスト状にする仕組みはこの世界では少しオーバースペックになる。


 蚊取り線香はテントを張って野営をする時などには効果的だが、駆け出し冒険者が多いこのアレフレアの街では野営をする依頼などはほとんどないため、森で使うのに効果的な塗るタイプのジェルを選んだわけだ。


「こちらは銀貨3枚での販売になります。大きな森で虫刺されにうんざりなそこのあなた! ぜひともこの虫よけジェルをお試しください!」


 虫よけジェルは銀貨1枚で購入できるので、いつも通り小さな木筒は再利用し、利益は銀貨1枚となる。


「確かにあの森は虫が多いから、とても助かりますね」


「でも銀貨3枚かあ……ちょっと迷うわね……」


 そう、確かに虫を避けられるのは便利だが、駆け出し冒険者にとって銀貨3枚という値段はそこまで安くはない。虫くらいだったら我慢しようと思えば我慢できるし、一部の余裕のある冒険者や虫が本当に苦手な冒険者達しか購入しないという予想だ。


 ちなみにこの虫よけジェルの効果はいつものようにランジェさんとドルファに効果を確認してもらっている。今回は個人差もあるかと思って、ドルファにも森に行ってもらって虫がいつもより寄ってこないかを確認してもらった。


 どうやらこちらの異世界の虫にも効果はあって、魔物を寄せ付けないなどの過剰な効果はなかったようだ。下手をしたら魔物まで寄ってこなくなるヤバい効果があるのではとも思ったが、そこまでの効果はなかったので少しほっとした。


「細かな説明もありますので、詳細は店内にあります説明を読んでからご使用ください」


 虫よけジェルは殺虫剤ほど毒性は強くないので、なめたりしても危険なことにはならないが、塗った肌に合わずに肌が荒れたり、幼い子供の敏感な肌には使わないようにといった注意書きが書いてある。


 それにすべての虫に効果があるわけではないし、その辺りは自己責任でお願いしますといった感じだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る