第44話 看板


 朝ごはんを食べたあと、リリアと一緒にフィアちゃんの家へと向かった。今日はそのまま商店へ行き、お店のオープンに必要な物を購入していく予定だ。


「おはようございます、レーアさん、フィアちゃん」


「あら、テツヤさん。おはようございます」


「テツヤお兄ちゃん、おはよう! あれっ、リリアお姉ちゃん!?」


「ああ、フィアちゃんにはまだ伝えていなかったけれど、リリアが護衛兼従業員として一緒に働いてくれることになったんだ」


「リリアです。レーアさん、フィアちゃん、どうぞよろしくお願いします」


「リリアは元Bランク冒険者なので、とても頼りになりますよ」


「Bランク冒険者!? 女性なのにすごいのですね。娘がご迷惑をかけることがあるかと思いますが、何卒よろしくお願いします」


「はい、お任せください。テツヤとフィアちゃんは私の命に代えても守ります!」


 リリアが格好良すぎて困る。女性が女性に惚れるというのも分かる気がするな。でもフィアちゃんはともかく俺はリリアの命に代えなくてもいいからな。


「リリアお姉ちゃん、これからよろしくお願いします!」


「ああ、こちらこそよろしく頼む。お店の従業員としてはフィアちゃんのほうが先輩だからな。いろいろと教えてほしい」


「は、はい! フィアも頑張ります!」


 この2人なら大丈夫だろう。フィアちゃんの母親であるレーアさんにご挨拶をしてから、リリアとフィアちゃんと一緒にお店へと向かった。




「そうか、フィアちゃんはそうやってテツヤと出会ったのだな」


「はいです! お母さんが倒れちゃった時に、テツヤお兄ちゃんが助けてくれました。リリアお姉ちゃんはテツヤお兄ちゃんが出した依頼で知り合ったんですね?」


「ああ。この街で護衛依頼というのはなかなか珍しいんだ。それに新人冒険者も一緒の護衛依頼ということだったからな。護衛依頼は普通の依頼とは異なって、私にもいろいろと教えられることがあるから、あれば受けるようにしているんだ」


 そういえばあの時も俺やロイヤ達にいろいろと教えてくれながら護衛をしてくれていたよな。そうやって普段から駆け出し冒険者の役に立つような依頼を受けているのもリリアらしい。


 そんな感じでリリアとフィアちゃんが話をしながら買い物をしていった。この様子なら2人とも一緒に仲良く働いていけそうだな。




「ここが新しいお店だよ」


「うわあ〜おっきいです! それにとっても綺麗ですね」


 いろいろな買い物を終えてお店まで戻ってくる。いろいろなお店に寄ってきたこともあって、お昼は屋台で簡単にすませてきた。


 フィアちゃんが借りた店舗を見るのは初めてだ。元いた屋台とは違って全然大きいし、昨日リリアと一緒に多少は掃除をしてあるから、ある程度は綺麗になっている。


「中も結構広いから、屋台とは比べものにならないくらいの商品を置けるようになっているよ」


「はわわ、たくさん覚えることがありそうです!」


「商品の値段は一覧にして会計の場所に置いておくし、それぞれの商品棚にも値段は書いておくから、ゆっくりと覚えていけば大丈夫だよ」


「私も接客業をするのは初めてだ。それに見ての通り片腕だからな。護衛のほうは大丈夫だと思うのだが、店のほうは少し不安がある」


「普段のリリアの対応で十分丁寧だから大丈夫だよ。確かに会計は少し難しいかもしれないけれど、品出しや店内の見回りやお客様対応とやることはいろいろとあるからね。手伝ってくれる人がひとり増えてくれただけでとても助かるよ」


 2人ともいろいろな不安はあるようだが、この2人ならすぐに慣れてくれるだろう。接客のほうは問題ないと思うのだが、お店を出すとなるといろいろな問題が出てくるだろう。


 一応駆け出し冒険者を相手にしている商店とはできるだけかぶらないような商品を置くつもりだが、それでも何かしらのトラブルはあるだろうからな。2人の接客よりも、むしろそっちのほうが心配である。


「それじゃあもう少し内装を綺麗にしたり、買ってきた値札とかを配置していこうか」


 そのあとは3人でお店の内装を準備していく。元々この物件にあった商品用の棚に商品の値札を付けていった。




「やっぱり俺が書くの?」


「そうだな、この店はテツヤの店なのだからな」


「はいです! テツヤお兄ちゃん、頑張って!」


 一通り店の中の準備が終わって、残るはお店の看板を残すだけとなった。一応こちらの世界の文字は、日本語で書こうとすると自動的にこちらの世界の文字に変換されるのだが、そもそも文字を書くのが苦手なんだよなあ。


 昔から習字の授業とかが一番苦手だった。バランスよく文字を書くというのが難しいんだよな。とはいえ、リリアの言う通り、一応は俺の店である。ペンキのような塗料を買ってきており、何度かはやり直せるから頑張るとしよう。


「……よし、こんな感じでどうだ?」


「うむ、いいと思うぞ!」


「はい、とっても上手ですよ!」


 何度か書き直したが、俺も納得できる看板が出来上がった。こちらの世界でアウトドアショップという文字が書いてある。


「あとはこっちの小さいほうだな。こっちはみんなで書こう」


 店の正面の上部に設置する看板とは別に店の入り口に設置する小さな看板には、この店には何が売っているかを表す絵などを描くのがいいらしい。アウトドアショップといえば、テントのイメージが強いのだが、こちらの世界ではまだテントは売っていないので、この店の看板商品でもある方位磁石の絵をみんなで描いた。


 元々商店としての商品棚などが置いてあったのは助かった。これであとは商品さえ置けば、立派なお店として営業を開始できるようにまで準備はできたな。

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