第40話 足で探す


「その条件ですとこの辺りとなりますね」


「なるほど。実際に物件を見せてもらうことは可能ですか?」


「はい、もちろんですよ」


 4つほどに物件の候補を絞ったあと、実際にその物件の場所に向かうこととなった。当たり前だが、この世界の不動産屋では詳細な物件の見取り図や写真などがないため、物件の詳細を知るためには、現地まで自分の足で行き、自分の目で確かめなければならない。




「ここが1軒目となります。この物件は大通りに面しているので、冒険者様を相手に商売をするなら、とても良い場所だと思いますよ」


 不動産屋の主人である40代くらいの男性とリリアと一緒に1軒目の候補となる物件へと向かった。


「うん、なかなかいい物件なんじゃないか。テツヤ、ここにしないか?」


「……う〜ん、立地はなかなかいいと思う。結構大きな通りに面しているし、街の入り口からも近い。ただ店が少し狭いのと住居の部分が少し狭いかな。これだと賃貸の金額が少し割高になるし、もう少し広い店舗がほしいところだ」


「そ、そうかもしれないな。一旦保留にしておいて次に行こう」


「そうだね、ちょっと時間はかかるけれど、他の物件も見せてもらおう」


「かしこまりました。それでは次の物件を案内しましょう」


 多少は街の中を歩くことになるが、店舗の場所や間取りは今後の商売でとても重要になる要素だ。物件すべてとは言わないが、できる限りいろんな場所を見ておきたい。




「こちらが次の物件になります。こちらですと立地はあまり良くないものの、店舗や居住スペースがとても広くなっております」


「おお、確かに先程の店舗に比べると倍以上広いな。これならたくさんの商品を置けそうだ。テツヤ、ここならいいんじゃないか?」


「……う〜ん、店舗や居住スペースの広さは十分だな。むしろ少し広いくらいだ」


 店舗の広さもかなり広く、特に2階にある住居スペースには台所と居間にトイレ、小さな部屋が3つと家族4人でも住めるくらいのスペースがあった。


 リリアと俺が一緒に住むとしたら、最悪俺が居間で寝るとしても、もう1部屋が必要になる。そういう意味だと、どんなに小さくてもいいから、部屋は2部屋ほしいところである。その意味ではこの店舗は十分すぎるほど条件を満たしている。


「ただ立地があんまり良くない。大きな道からだいぶ離れているし、入り組んだ場所にある。これだとこの店を見つけること自体が難しそうだ。それに人通りも少ないから、悪いことをするやつらにちょっかいを出されやすそうなんだよな……」


「そ、そうかもしれないな。次の店舗に案内してもらうとしよう」


「そうだね。とはいえ、賃料も考えるとさっきの店舗よりもこっちのほうが良さそうだ。こうやって候補の店舗を比べていって一番良い場所に決めるとしよう」


「うむ」


「それでは次の物件に案内しますね」




「お客さんのご要望と先程の2軒の店舗候補を見た時の反応ですと、おそらくこちらの物件が一番気にいられるのではないかと思います。最後の1軒はこちらの物件よりも少し劣ってしまうかと」


「なるほど。確かに今までの中では一番理想的な物件ですね!」


 案内された店舗は1軒目の店舗よりは人通りの少ない場所であったが、そこそこ人通りのある場所だ。他の料理屋や服屋などのお店も近くにいくつかあることから、ある程度のお客さんが来てくれそうである。


 そして2軒目の店舗候補よりも小さいが、1軒目の店舗候補よりは大きい。それに2階の住居スペースには台所、トイレ、居間、小さな部屋が2つと、リリアと一緒に住むということになっても最低限のプライバシーは守れそうだ。


「それに小さいですけれど、裏庭があるんですね」


「ええ。日々の鍛錬やちょっとした物置なんかにも使うことができますよ」


 この店舗には小さいながらも裏庭があった。そしてその向かいの家には広い庭があるので、裏庭にテントを張ってキャンプの気分を味わいながら煙の出る料理をしても、洗濯物に煙が当たるなどといった迷惑をかけることはなさそうだ。


「うむ、確かにここが一番いいかもしれないな。テツヤ、ここにしてはどうだ?」


「うん、他の2店舗と比べてここなら文句はないな」


「おお、それならここで決定だな」


「いや、確かに今のところこの物件が一番よかったけれど、残りのひとつも見てみるよ。それに商業ギルドに聞いた他の不動産屋でもいくつか物件を見てみる予定だからね」


「そ、そうなのか……」


「店舗を決めるのは結構大きな決断だからね。足を使って確認できるところは確認しておかないと」


 ネットもないこの世界だからな。良い物件を探すなら足を使って一つでも多くの店舗候補を回るしかない。物件を探すような能力はないから、営業と同じで足と手数を武器に物件を探していくしかない。


「なるほど、店の場所を選ぶというのは大変なんだな……」


 リリアはあんまり物件選びとかには向かないかもしれないな。根が真面目だから、お店の人の言うことをすべて信じてしまい、相手が悪意を持っていたら簡単に騙されてしまいそうである。俺がしっかりしないといけないな。




 そのあと商業ギルドでおすすめされた不動産屋も回り、結局15軒以上の物件を回ってみたが、この物件以上のものはなかったので、この店舗に決めて契約をした。


 長い間お世話になった、ご飯の美味しいこの宿とも今夜でお別れだ。明日はお店としての準備をする前に、台所や寝具など、居住スペースの準備をする予定だ。

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