第39話 物件探し


「むっ、すまない。少し遅くなってしまったようだ」


「いや、ちょうど今来たところだよ」


 う〜む、露出の少ないロングスカートだが、リリアにとてもよく似合っている。リリアは背も高くてスタイルが良いから、本当に外国人のモデルさんみたいだ。


 ……非常に残念なことではあるが、デートの待ち合わせなどでない。昨日から屋台でやっていたお店を閉めて、今後は店舗を借りてお店を開こうと思っている。そのため、今日は借りる店舗を探しにリリアと不動産を回る予定だ。


 ありがたいことにリリアがうちのお店の従業員として働いてくれることになった。そのため、店舗を借りる時に、この街に住んでいるリリアにもついて来てもらうことになった。元の世界で家を借りた経験はあるが、こちらの世界での賃貸の常識についてはまったくわからないからな。


 一応午前中には商業ギルドに行って、店舗を借りる際の注意点などを聞いてきた。この街は冒険者だけでなく、商人にもそれなりに優しい街らしく、商業ギルドの職員さんがいろいろと丁寧に教えてくれた。


 そういえば冒険者ギルドマスターには会ったが、商業ギルドマスターにはまだ会っていない。たかが一店舗の店長が会う機会はあるのかはわからないが、どんな人なのかは少し興味があるな。


「それでテツヤ、どんな店を借りる予定なんだ?」


「そうだな。とりあえず予算は月で金貨10枚から多くても20枚くらい。冒険者ギルドでお店の告知もしてくれる予定だし、立地条件よりも家賃の安さや店の大きさを重視したいところかな」


 この街で屋台を始めてしばらくしてアウトドアショップのお店の名前も多少は知られてきている。そして、今後は冒険者ギルドで方位磁石を販売して、お店の告知もしてもらえるので、ある程度街の入り口や冒険者ギルドから離れた場所でも、冒険者のお客さんは来てくれるはずだ。


 それとお店の他にも俺が住む住居スペースが必要になる。少なくとも台所とトイレは必須だな。本音を言うと、お風呂もほしいところではあるが、この世界のお風呂は貴族や大商人くらいしか持つことができない贅沢品だ。さすがに今の予算でお風呂付きの住居なんて借りられない。


「なるほど。店の良し悪しはよくわからないが、住居については多少アドバイスをできそうだぞ」


「それは助かるよ。そういえばリリアは今どこに住んでいるの?」


「ああ、この街に来てからはずっと宿を借りているんだ。ちょうどあっちのほうにある宿だな」


 リリアが指差した方向はこの街の高級宿がある方向だ。さすが元Bランク冒険者である。


「理想は一階がお店スペースで、2階は住居スペースみたいに別れていると良いんだよなあ」


 こちらの世界ではそういった店舗も多い。まずはそんな間取りの店舗を探してみようと思っている。


「ふむふむ。よくわかったぞ。では不動産に行くとしようか。おっと、ひとつ言い忘れていたが、


「………………ん?」


「どうした?」


 ……俺の聞き間違いかな? その言い方だと俺だけでなく、リリアも店舗に住むように聞こえるんだけど?


「いや、まさかとは思うんだけど、リリアも一緒に住むなんてわけないよね?」


「何を言っているんだ? 店の護衛をするなら店に住むのは当然のことだろう?」






「こんにちは」


「いらっしゃいませ。おや、若いお客さんだね。新婚さんで新居の相談かな?」


「し、新婚などではないぞ!」


「そ、そうかい」


 ……一緒に住むのは問題なくて、不動産の店主に新婚と言われるのは恥ずかしいのか。リリアの感覚はよくわからないな。


 お店の護衛というものは営業時間の最中だけだと思っていたが、営業時間外も含まれる場合もあるらしい。確かにこの世界では警備会社なんてものはないだろうし、本当に気をつけるべきなのは、日中より夜間の泥棒や強盗などだ。


 大きな商店などでは交代で夜も店の護衛を雇っているらしいが、うちの店でそこまでする気はなかった。営業時間中の俺やフィアちゃんの身の安全さえ守られれば、最悪泥棒には入られてもいいと思っていた。


 しかし、リリアがお店に住み込みで働いてくれれば、それは最大の泥棒や強盗に対する抑止力となる。さすがに元Bランク冒険者が住み込みで働いているお店にやってくるやつらはいないだろう。たとえそのことを知らずに夜に店へ侵入してきたとしても、すぐに気付くとリリアは言っていた。


 それにしてもリリアは男と一緒にひとつ屋根の下に住むということが分かっているのだろうか? もちろん冒険者なら男女関係なく野営をしてきただろうし、俺なんかが力尽くで襲おうとしても一瞬で返り討ちにあうことは間違いない。


 それでも男として見られていないのなら、それはそれで少し悲しい……でも新婚と間違われて照れてはいるんだよなあ。う〜ん、よくわからない……


「実はお店を開こうと思っておりまして、商店用の店舗を探しています。住居付きの店舗をいくつか見せてもらいたいのですが」


「はい、店舗用の物件ですね。少々お待ちください」

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