第28話 乾杯


 そのあとレーアさんとフィアちゃんと話し合って、今後の就労条件についていろいろと決めた。基本的にはお昼から夕方まで働いてもらい、休みも取ってもらうようにした。


 レーアさんも数日後から職場に復帰することもあり、給料は金貨1枚では多すぎるので、明日からは銀貨5枚となった。それでも半日働いた子供に支払う給料としてはかなり多いらしい。


 そしてこのあと友人の冒険者達とご飯を食べに行くので、レーアさんも一緒にどうかと誘ったところ、今日はまだ体調が完全に治ったわけではないとのことだった。お見舞いに持ってきていた市場で買った果物を渡して、家を後にした。


「優しいお母さんだったね」


「はい!」




「お〜い、テツヤ、こっちだ!」


 ロイヤ達と待ち合わせていた場所へ行くと、すでに3人は来ていた。


「待たせちゃったみたいで悪いな」


「いや、ちょうど俺達も今来たところだ。ほら、ニコレ」


「う、うん……フィアちゃん、この前は本当にごめんね! 私ちょっと興奮し過ぎちゃったみたいなの。もう前みたいに怖がらせないように気を付けるから許して!」


 ニコレがフィアちゃんに向かって頭を下げる。


「大丈夫ですよ、ニコレお姉ちゃん。フィアは気にしてないですから!」


「フィアちゃん! 可愛い上になんて優しい子なの! すう……はあ……大丈夫、私はもう同じ過ちを繰り返さないわ!」


 ……そこには深呼吸をして、よくわからない何かと戦っているニコレがいた。まあなんとか自分を抑えられそうで何よりである。


「それじゃあ料理店に移動しようぜ」




 5人で移動して料理店に移動してきた。……というか俺が泊まっている宿だった。


 というのも、冒険者ギルドには大きな食堂があるのだが、冒険者の数自体も多いため、いつもかなり混んでいるし、あんまり子供が来るような場所ではないらしい。それに俺もロイヤ達もこの街に来て日が浅く、おすすめやいきつけの料理店などがまだない。


 それならご飯もそこそこ美味しくて、そこまで混んではいない俺の宿のお店で、料理を楽しもうという話になったのだ。


「すみません、今5人で食事はできますか?」


「あら、テツヤさん。今日は大勢一緒なのね。大丈夫ですよ、そちらの席にどうぞ」


「ありがとうございます」


 宿の女将さんに案内されて席につく。俺達以外のお客さんは1組だけで、そこまで混んでいる様子はなかった。もっと遅くなって、宿のお客さんが晩ご飯を食べる時間帯になったらもっと混んでくるだろう。


「それじゃあ乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 木製のコップを掲げて乾杯をする。ロイヤ達はお酒を飲まないし、遅くならないうちに解散する予定だが、フィアちゃんを家まで送って行く可能性があるため、俺も今回はお酒はなしだ。


 果汁のジュースで乾杯し、ワイルドボアの煮込みや角ウサギのシチュー、串焼きや焼いた魚など様々な料理を楽しんだ。


「うん、確かにこれはうまいな!」


「ああ、俺達の宿の料理よりもうまい!」


「ええ、本当!」


「とっても美味しいです!」


 どうやらこの宿の料理は異世界から来た俺だけでなく、こちらの世界のみんなにも美味しいと感じられるらしい。


「そんだけうまそうに食ってくれりゃあ、作った甲斐があるってもんだ」


 この宿の主人であるマッチョなおっさんも、みんなに料理を褒めてもらって満更でもなさそうな顔をしている。


「おっちゃん、この煮込みすっげーうまいよ!」


「俺もこの煮込みが一番好きかな。あ、この煮込みと串焼きもうひとつずつおかわりで」


「あいよ!」


「いいなあ、テツヤはこんな美味しいご飯を毎日食べているんだ」


「そういえばニコレ達はどこに泊まっているんだ?」


「俺達は安宿街に泊まっているんだ。飯もついているけど、ここの宿ほどうまくはないな」


「でもその分宿代はこのあたりよりも安いぜ。新しい武器や防具を揃えるまで、もう少しあの宿で我慢しないといけないな」


「そっちのほうの治安は大丈夫なのか?」


「ああ、一応貴重品は常に肌身離さず持っているし、この街の治安はそれほど悪くないからな。今のところ問題はない」


 どうやらロイヤ達は安宿街に泊まっているらしい。ロイヤ達は戦闘力があるからいいけど、俺は戦闘能力が皆無だからな、多少高くてもより安全なこちらの宿にしておこう。あと飯もうまいしな。


「それよりもフィアちゃん達のほうはどうなの? お店に変なお客さんは来たりしていない?」


「みんな優しいお客さんばかりですよ。フィアが失敗しても、笑って許してくれる人達ばかりでした!」


「そうなんだ! 優しいお客さんばかりでよかったわね」


「……………………」


 たぶんその中で一番変なお客さんはニコレだった気がする、とはさすがに言えなかった。


「今のところ方位磁石をたくさん買って転売しようとしていた人くらいしか、変なお客さんはいなかったな。クレームもないし、逆に方位磁石のおかげで道に迷わなくなって助かったって、お礼を言いに来てくれたお客さんがいて嬉しかったな」


 何人かのお客さんはファイヤースターターや方位磁石がとても便利だったと、わざわざお礼を伝えに来てくれたのだ。


「確かにこの方位磁石は凄い便利だからな。もう冒険者の半数は持っているんじゃないか?」


「おお、そうだったら嬉しいな。そんな感じでうちの店は順調だ。フィアちゃんが働いてくれるおかげで、人手不足もなくなってとても助かっている。ちゃんとお金の計算もできるし、接客もできるから本当にありがたいよ」


「へえ〜フィアちゃんはその歳で計算ができるのか。それは賢いな」


「そ、そんなことないです!」


「いえ、フィアちゃんは凄いわよ。ロイヤは未だに計算が苦手なのよね」


「うぐっ……いいんだよ、別に計算なんかできなくても!」


「今はいいけれど、この街を出たら騙されたりして、いいカモになるだけだぞ。無料の勉強会もあるし、この街にいる間に計算や文字の読み書きはできるようになっておいたほうがいい」


「うう……」


 ロイヤにも弱点があったようだ。明らかに勉強とか苦手そうだもんな。


「そうだ! そういえばテツヤから頼まれていたものを持ってきたんだ!」


「……話を逸らしたわね」


「……時間の空いた時に引っ張ってでも連れて行くとしよう」


「ああ、そういえば忘れていたよ。ありがとう、助かった」


「でもこんなの何に使うんだ? なんて?」

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