第18話 おすすめ商品がこちら!


「さあていよいよ最後の商品となりました。当アウトドアショップ一番のおすすめ商品がこちら!


 これは方位磁石といって常に同じ方向を示す道具でございます。これさえあれば、この街の先にある森で迷ったとしても、方向に迷うことがなくなる優れものだ。あの広い森で活動をする冒険者に特におすすめの商品ですよ!」


「なに! 本当に森で道に迷うことがなくなるのか!?」


「ええ。昨日森まで行って確認してきましたよ。こっちの赤い針が森の奥の方を示しているので、もし森に迷ったら、反対の針の方へ進み続ければ街のほうに戻ることができます」


「すげえじゃねえか! 俺は一度あの森で迷ったことがあるんだ。あん時は運良く助かったが、これがあればもう迷わなくなるんだな!」


「へえ〜、俺も毎日のようにあの広い森に入るからな。念のために持っておいた方がよさそうだな」


「すごいな、確かにどれも同じ方向を向いている。どういう仕組みなんだ?」


 机に置いてある方位磁石はすべて同じ方向を示しているし、試しに方位磁石を振っても、すぐに針は同じ方向を示す。


「これは魔法のような磁力という力を使った道具になります。磁力によってどこにいても、針がこの世界の同じ方向を示すのですよ。しかも魔法と違って壊れない限り、半永久的に使うことができます」


 詳しい磁力の仕組みについては詳細を省く。魔法のある世界だし、魔法みたいなものと言っておけば大丈夫だろう。というか俺自身も地磁気などの詳しい仕組みまではわからないしな。


「へえ、壊れない限りは使えるのか。そりゃ便利だ!」


「あの森ってどこも同じような景色なのよね。これがあったら便利そう!」


「この便利な方位磁石がたったの銀貨2枚だ! ただし注意が一点。あの森には使えましたが、正しい方向を示さなくなる場所がごく稀にあるのでそこだけは注意してください」


「あの森で使えるそれくらいなら安いもんだな。ひとつくれ」


「仲間の分も買ってやるから3つくれ」


「ひとつちょうだい」


「毎度あり! さあさあ、アウトドアショップ、本日オープンだよ! いろいろ見ていってください!


 おっと、そっちのイカした鎧のお兄さん、せっかくなんで見ていってください! あっ、そこのスタイルのいい美人なお嬢さんもぜひ見ていってくださいね!」


「………………」


「………………あれ、リリア?」


 そこにいたスタイルのいい美人なお嬢さん、それは昨日お世話になったBランク冒険者のリリアであった。






「ふう。ようやくお客さんが引いたか。そろそろ店を閉めよう。待っていてくれて悪いね、リリア」


 ありがたいことに、あのあと結構なお客さんが店の商品を買ってくれた。あとで売り上げを計算してみるが、おそらくは結構な額になっただろう。


 リリアは店を開いてすぐに来てくれ、お客さんが大勢いるのを見て安心してくれたのか、一度店を離れた。そして少し前にまた店まで戻ってきて、お客さんがいなくなるまで待ってくれていた。


「ああ、それは構わないさ。……それにしてもさっきとは本当に別人のようだな。店が開いた時に見ていたが、本当によく回る口だと感心したぞ」


「あはは、さっきまでは俺もテンションが上がりきってたからね。ああいう時は恥ずかしがってたら余計に駄目だから。それにリリアも昨日とは全然違う格好をしていたから、全然気付かなかったよ」


 先程は実演販売をしているときのハイテンションのままにリリアを褒めちぎったあと、リリアは顔を赤くして目を逸らしてしまった。昨日の凛々しい姿とのギャップがあって、より一層可愛く見えてしまったな。こんなに綺麗な女性なのに、あまり褒められ慣れてないのだろうか?


「ああ、朝に手頃な依頼がなかったから、今日はオフにしたんだ。さすがの私でも、オフの日くらいは重い防具を着て出歩かないさ」


 今のリリアの格好は、防具姿とはまったく違っていた。昨日は長袖長ズボンの上に金属製の胸当て、足当て、肩当て、小手を身につけていたが、今日は長袖にロングスカートだった。


 昨日は冒険者の格好をしていて綺麗というよりは格好いいという印象だったが、輝く金色のショートカットも相まって、今日の姿はまさに美人なお嬢さんという印象であった。


「リリアは背が高くてスタイルがいいから、冒険者の格好でも今の格好でもどっちもよく似合っているよ」


「……もう店は終わっているし、世辞を言う必要はないんだぞ」


「いや、店をやっている時からお世辞なんて言ってるつもりはないぞ。こういう客商売だと、自分が本気でお客さんの良いと思っているところを褒めてあげたほうがいいんだよ」


 こういう客商売では太っている人に痩せているとか、あからさま過ぎるお世辞は言わないほうがいい。それよりもお洒落な服をきているねとか、笑顔が可愛いねとか、綺麗な指や肌をしているねとか、本気で自分が思っていることを言ってあげたほうが向こうも嬉しかったりするらしい。


 まあこれについては完璧な正解なんてない。あからさまなお世辞が嬉しい人もいるだろうし、こちらが良いと思っていることを逆に気にしている人もいたりするからな。


「そ、そうなのか! あ、いや、ゴホンッ。何はともあれ、お店のオープンおめでとう」


 また少し顔を赤くして照れているみたいだ。……その様子は見ていてとても可愛らしいのだが、悪い人達に簡単に騙されそうで少し不安だな。まあ騙されたとしてもリリアなら大抵の場合はなんとかなりそうだけど。


「ありがとう。とはいえ、まだ屋台を借りているだけだから、正式なお店じゃなくて仮オープンといったところだね。これからもっとお金を稼いで、自分の店を持つことが当面の目標かな」


 さらに理想を言うなら、お店はすべて従業員に任せてお金を稼ぎ、俺は街で食べ歩きをしたり、キャンプをしてのんびりと過ごしたいです、はいダメ人間です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る