第17話 アウトドアショップ仮オープン!


 道を歩く冒険者達が足を止める。よしよし、掴みは上々。これだけ冒険者のお客さんがいるんだ。何人かは足を止めてくれると思っていたよ。


「そこのイケメンのお兄さん! そんなに綺麗な女性とパーティを組んでいるなんて、羨ましいことこの上ないね! その幸運に免じてちょっとだけ見てってくれませんか! 絶対に損はさせないよ!」


 足を止めてくれた男女の冒険者のカップルらしき人達に声を掛ける。ちなみに羨ましいというのは、俺の心の底からの本音である。


「へえ〜、イケメンて俺のことか」


「やだ〜、綺麗ですって!」


「なんだなんだ?」


「冒険者のための店だって?」


 冒険者カップルの他にも何人か足を止めてくれた。


「ここに取り出しましたるは、どこにでもあるように見えるスプーンとフォーク。しかし、そんじょそこらのスプーンやフォークと一緒にしてもらっちゃあ困る。なんとこれは簡単に折りたたみができるスプーンとフォークでございます!」


「「「おお〜!!」」」


 みんなにも見えるようにスプーンとフォークを高く持って半分に折りたたんだり、元に戻したりする。そもそも市場では金属製のスプーンやフォーク自体が珍しかったうえに、市場ではなかった折りたたみ式のスプーンとフォークだ。目立たないはずはない。


「金属でできているから丈夫で長持ち。しかも折りたためば、ほらこの通り。このコップに収まって場所も取らない優れものときたもんだ!」


「「「おお〜!!」」」


 なんだかんだで見てくれている人達もノリが良くて助かるな。こういう実演販売は見ている人達も反応してくれるとやりやすい。


「なんと今ならこのスプーンとフォークがそれぞれたったの銅貨8枚、そしてこの金属製のコップがたったの銀貨2枚ときたもんだ。さらにこの3点セットをすべて買ってくれたら、銀貨3枚と銅貨6枚のところを割引きして、銀貨3枚と銅貨3枚だ! 持ってけ泥棒!」


「ちょっとそのスプーンを見せてくれ! ……ほう、確かにこれは場所も取らないし便利だな。コップのほうも丈夫で、しかも綺麗な金属製じゃねえか。セットで買った!」


「買った! 俺もセットをひとつくれ!」


「俺も買った!」


「毎度あり!」


 ふっふっふ、見たかこの話術! まさかブラック企業で鍛えられてきたセールストークが異世界で活かせるとは思ってもいなかった。市場には売っていなかった折りたたみ式のスプーンとフォークに、普通のコップをセットで販売すると安くなるから、みんなそっちを買いたくなってしまうよな。


 ちなみに悪徳商法ではないぞ。コップのほうも市場で売っている値段と同じくらいで、品質はこっちの方がずっといいからな。


「続いての商品はこちら! これはカラビナと言って、簡単に取り外しができる金属の輪っかだ。こうやって通すだけで簡単には外せなくなる。このリュックの横にも取り付けられるし、複数付けることもできる優れもの。他の店では売っていない限定品、なんとこれがたったの銀貨1枚の特別価格で販売だ!」


「確かにこんな物他の店では見たことないな。なるほど、こりゃいろいろと使えそうだ。3つくれ!」


「紐を結ぶよりもずっと楽みたいね。2つちょうだい!」


「毎度あり!」


 なんだかどこかの通販番組みたいになってきたな。ここでしか売っていないとか特別価格とかに弱いのはどこの世界も変わらないらしい。


「さあて続いての商品は当店目玉商品のこちら! 格好いい剣と盾を持ったそこの強そうなお兄さん、これはなんだと思う?」


「俺か? もうおっさんだってのに、口のうまい兄ちゃんだな。……う〜んあれか? 小さいみたいだから隠し武器にでもなるのか?」


「おっと残念! でもお兄さんが間違えてしまうのも無理はない! 実はこれ、ファイヤースターターといって火打ち石の代わりになる代物だ。おっと、こんな小さい物なんかが、火打ち石の代わりになるわけがないと思ったそこのあなた!


 ここに取り出しましたるは麻紐という繊維の細い植物で作った紐でございます。これをちょいちょいとほぐして、その上にこの棒をガリガリと削ります。そして最後にこの棒を思いっきり何度か擦ると……ほらこの通り!」


「「「おお〜!!」」」


 金属製の皿の上に置いた麻紐に火が付いた。さすがに火は危険なのですぐに水をかけて消す。


「最初はコツがいるけれど、慣れてしまえばこのひ弱な腕の俺よりも、屈強な力をお持ちの冒険者様のほうが楽に火をつけられること間違いなし!


 こちらの火がつきやすい麻紐とセットでなんとたったの金貨2枚、金貨2枚での販売ときたもんだ! 本当に申し訳ないが、この商品は1日たった3つしか売れない限定品の先着順さ。さあさあ早い者勝ちだよ!」


「ほう、他で売っている火打ち石よりも安いじゃねえか! 兄ちゃん、売ってくれ」


「俺もくれ。そろそろ新しい火打ち石を買うところだったんだ!」


「俺も買う!」


「俺もほしい!」


「おっと申し訳ないが、こちらの立派な耳をした獣人のお兄さんのほうが少しだけ早かったみたいだ。明日も同じ時間くらいに店を開くから、今日買えなかった人はぜひ明日も足を運んでみてくださいな!」


 先着で手をあげてくれた3人にお金と引き換えに商品を渡す。やり方が分からなかったらいつでも聞いてくれとも伝えておいた。


 うむ、個数を限定することによって、購買意欲を高め、他のお店に迷惑をそれほどかけず、明日のお客さんも呼び込みもできて一石三鳥だ。……悪どいなどと言ってはいけない、これも商売戦略というものだ。

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