第16話 一番の収穫


「それじゃあ今日はありがとう。みんなのおかげでお店で売る商品のいい調査ができたよ」


「俺達のほうがいろいろと勉強になった1日だったよ。むしろ俺達のほうが感謝しないとな」


「ええ。それに便利な道具もいっぱい売ってもらえたものね」


 カラビナやファイヤースターターや方位磁石などは、すでにリリアやロイヤ達に売ってあげた。いろいろとお世話になったし、今回に限ってアウトドアショップで買った原価の値段だ。実際にお店を始めたら、お客さんの前でみんなだけ特別に値下げなどはできないだろうからな。


「こういった依頼があったら、また声をかけくれ」


「いや、もう森に入る気はないからな!」


 今回は方位磁石や他のキャンプギアの確認がしたかったから護衛を雇って森の中に入ったが、もうこんなに危険なのはごめんだ。俺が冒険者として活動するのが難しいことも再確認できたし、もうあの森に入ることはないだう。


「リリアも本当にありがとう。おかげさまで怪我ひとつなく街まで戻ってこれたよ」


「こちらこそ売る予定の物を安く譲ってもらってすまないな。その代わりに明日からオープンするテツヤの店を知り合いに宣伝しておくよ」


「それはありがたいな。お昼くらいからオープンする予定だから、よろしく頼むよ」


 Bランク冒険者のリリアが宣伝してくれるんだ。今日割り引いて売った金額なんかよりも断然価値がある。


「テツヤが売ろうとしている物は本当に便利な物ばかりだからな。特にあの方位磁石というものは素晴らしかったぞ。ぜひ、冒険者全員に持たせたいところだな」


「リリアがそう言ってくれるなら自信が出てきたな。この街の人達には本当にお世話になってばかりだし、ちゃんとみんなの手に届くくらいの値段にするからさ」


「それはありがたい。私もこの街で多くの人達に助けてもらったものだ。個人的にもテツヤのことは応援させてもらうよ。何か困ったことがあったら、気軽に相談してくれ」


「ああ、その時はぜひ相談に乗ってくれると助かるよ!」


 この依頼で一番の収穫はリリアと出会えたことかもしれない。駆け出し冒険者達のことをとても心配してくれているようだし、とても良い人のようだ。何かあったら遠慮なく相談させてもらうとしよう。


 冒険者ギルドに依頼達成を報告して、みんなと別れて宿に戻った。そして今日のみんなの意見を参考にしつつ、明日何をいくらで売るかをじっくりと考えた。






 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 そして次の日、商業ギルドに向かい、屋台の貸店舗を借りる手続きを行った。借りる料金は1日銀貨5枚となっている。もっと場所を借りる料金が安い露天商から始めようかとも思ったのだが、リリアやロイヤ達の反応を見ると、たぶんいけるだろうと判断して、屋台の貸店舗から始めることにしてみた。


 それに屋台だと、もし商品が売り切れたとしても、こっそり屋台の裏側で、リュックの中から取り出すフリをして商品が補充できる。さすがにリュックに入りきらないほどの量だと怪しまれるから、そのあたりはほどほどにしておかないとな。


「おお、こりゃすごい!」


 手続きを終えたあと、実際に俺が借りる屋台の通りに行ってみた。元の世界の夏祭りとかでよく見かけるあんなかんじの屋台が何十軒も並んでいる。この街に来た時にもこの通りは通ったが、実際に自分が店をやる側になるとまた違う景色に見えるな。


 屋台のほうは料理を提供する屋台と、物を売る屋台の通りに別れている。俺が割り当てられているお店は、服を売っているお店に挟まれていた。両隣のお店はもうすでに商売を始めている。


 俺のお店のターゲットは駆け出し冒険者達だ。冒険者達は朝早くから依頼を受けて、昼から夕方ごろにかけて街へ帰ってくることが多いので、そのあたりの時間帯を狙っている。

 

「よし、こんなものでいいだろう。いよいよオープンといきますか」


 両隣のお店に軽く挨拶をしてから、屋台に商品を並べていく。今回は方位磁石、カラビナ、ファイヤースターター、折りたたみスプーンとフォーク、マグカップを用意してみた。


 値段についてはアウトドアショップで買った値段と市場調査で確認した値段から考えて付けてみた。他のお店で売っていないカラビナは仕入れが銅貨5枚なので銀貨1枚、方位磁石は仕入れが銀貨1枚なので、銀貨2枚にしてみた。


 これくらいなら食事2〜3食分なので駆け出し冒険者でも簡単に手が届くだろう。方位磁石はあの森で遭難する可能性が減るというなら、人命救助の役にも立つ。もっと高くしても間違いなく売れると思うが、俺も駆け出し冒険者のロイヤ達に助けられた身だ。この恩は駆け出し冒険者達に返していくことにしよう。


「さあて、いっちょやったりますか!」


 通りのほうには冒険者の格好をした人達も増えてきた。いざお店を始めるとなると多少緊張はするが、こういうのは恥ずかしがったほうが余計に駄目だ。


「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 冒険者達のためのお店、『アウトドアショップ』が本日オープンだ!」

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