第26話 月巫女編 入団式

今日は入団式の日!

俺は御手守師団の本部がある八重椛やえもみじ山に来ていた。

こんな深い山奥に大きな木造の建物があるのだから驚きだ。

玄関に入って名を名乗ると広間に案内された。

「あっ!蒼蒔!久しぶり!」

「幽姫!また会えたな!」

幽姫は先に広間に通されて椅子に座って待っていたようだ。

広間を見渡すと俺たちと同じ試験を突破した

九重日ノ丸と野伏鈴も席に着いていた。

俺も席に座って待つ。

しばらくすると付き人に連れられて腰の曲がった白髪頭の老人が広間に入ってきた。

「ごほん、やあやあ皆の衆元気かな?」

このじいちゃんは誰だ?

「わしが御手守師団団長の御伽詠おとぎうた國亜くにつぐじゃ」

この人が団長!?

「こんな今にも死にそうなヨボヨボの爺さんが頭なのか」

日ノ丸が言いやがった!怒られるぞ!

「こら!新入り!!この人はすごい人なんだぞ!なんたって元最強の怪手使いだからな!」団長の付き人が怒る。

この人が最強!?そうは見えないが、、。

「よいよい、若い時は荒々しいぐらいがちょうど良い。わしも現役を引退して長いからのう。すっかりおじいちゃんになってしもうた。」

「じゃがのう」

和かだった団長の雰囲気が変わる。

「新顔に団長が舐められるようじゃ組織が崩れかねないからのう」

ずぅぅうん!!!

「「っ!!?」」

威圧的な怪気が蒼蒔たちを突き抜ける!

あの年齢でなんて怪気だ!

圧倒され過ぎて息が出来ない!動けない!

「ふぉっふぉっふぉっ!」

すぅぅぅう

団長の怪気が引っ込む。

はぁはぁはぁ、恐ろしいじいさんだぜ。

「チッ!」

舌打ちをした日ノ丸も冷や汗でいっぱいじゃないか。

「これから御手守師団についての説明をしていくぞい」

団長は何事も無かったかのように淡々と説明を始める。

「まずは階級についてじゃ。御手守師団の階級は5つある。上から

【桜、梅、桃、松、竹】じゃ。新入りの4人は【竹】から始まることになるのう。」

階級か〜どうせなら出世してみたいものだな。

「一番階級の高い【桜】に所属する隊士を特別に【桜華衆おうかしゅう】と呼んでいる。任務時には隊を率いる隊長になることが多い人達だから覚えておくと良いぞ。」

桜華衆ってかっこいいな!みんなすっごく強いのだろうか。

「それと怪異物についてじゃが怪異物は日本全国に分布しておる。わしらの仕事は怪異物を殺して国民を守ることじゃ。だから日本中を走り回る覚悟はしておくことじゃな」

ということは御手守師団の隊士は全国に散らばっているってことか。

「とりあえず知っておかなければならないことはそれぐらいかの?あとは任務の指令がくるまでゆっくり過ごして良いぞ。」

初任務は何だろう!心が躍る。

「さてと、千早稲蒼蒔、白雲幽姫、九重日ノ丸、野伏鈴、お前たち4名を正式に御手守師団の隊士として認める。」

ついに俺は隊士になった。これで人々を護れる。嬉しさが込み上げてきていた。

「これで入団式は終わりじゃが何か質問はあるかの?」

九重日ノ丸が手を挙げる。

「俺の師匠、元桜華衆の

五月女さおとめ 鶴丸つるまる】を殺した怪異物を知ってるか?」

日ノ丸の師匠、殺されたのか。

団長は少しの沈黙の後答えた。

「怪異物の名前は不明じゃが、

王属おうぞく怪異かいい十會じゅっかい】と呼ばれる奴らのどれかであろう。」

ん?なんだ?十會って

「あの!その王属怪異十會ってなんなんですか?」

今まで黙っていた野伏鈴が質問する。

「怪異物は組織化されていることが分かったのじゃ。つまり奴らには王がいるってことじゃな。その王を守っているとりわけ強力な力を持った10体の怪異物を王属怪異十會と呼んでいるのじゃ。さらにその10体には序列があっての壱から拾の番号をそれぞれ持っているようじゃ。」

団長は肩を落として悲しそうに言う。

「鶴丸は強かった。桜華衆として部隊の隊長を務めて討伐に向かったが帰ってくることはなかった。彼が何番目の怪異物にやられたのかは分からぬ。」

「そうか、。」

日ノ丸が悔しそうな顔をしている。師匠の仇を取るために御手守師団に入ったのだろうか。

「それじゃあこれにて式は終わりじゃ!あとは各々自由に過ごされよ」

よーし、まずは本部の散策でもしようかと歩き始めた時。

バーーンッ!!

広間の扉が勢いよく開け放たれる。

驚いて扉の方を向くと酒樽を2つも担いだ大男がいた。

ん?この人どこかでみたことあるな?

「新入りども!今日はお前たちの入団を祝して宴をするぞ!!」

「こらぁ!!剛善ごうぜん!本部内で酒盛りをするなといつもいっとるじゃろうが!」

剛善、、あっ!第一試験の試験官の剛善ごうぜん武人たけとか!!

「まあまあ、じぃさんにも美味い酒飲ましてやるからさ!ははは!今日はめでたい日だからな!俺たちの仲間が増えたのだから!」

さあ!って言われて酒の入った升が配られる。

「それでは若い芽の入団を祝して!乾杯!」

えぇ!あの人酒樽ごと飲んでるよ!

酒が苦手な俺と幽姫は日ノ丸に升を渡した。

※未成年者の飲酒禁止は大正11年(1922年)の未成年者飲酒禁止法から始まる。

「付き合いきれんわい、わしは団長室に戻っとるぞー」

団長は付き人に連れられて広間を出て行った。

「ぷはぁーー!うめぇ!!」

マジかよ一気に酒樽をからにしやがった!

俺と幽姫の分も酒を飲んだ日ノ丸は顔を赤くして酔っていた。

「おっ武人ここにいたか。まーた新入りたちと酒盛りやってんのか。あまり新入りに飲ませ過ぎないでやれよー。」

青髪の女性、みなもと一花いちかが広間にやってきた。

「一花も飲むか?」

剛善が酒樽を一花の方に向ける。

「いや、私はいらん。」

「そうか〜じゃあこっちも俺が飲んじまうぞ〜」そういうと剛善は2樽目を飲み始めた。

「やれやれお前は本当に酒飲みだな」

一花が俺と幽姫の方を向く。

「おぉ!幽姫と蒼蒔!元気そうだな」

「一花ちゃんだ!」

幽姫が一花に駆け寄る。

「そういえば一花と幽姫って試験が初対面じゃなかったのか?」

「うん!一花ちゃんには小さい時にいっぱい遊んでもらってたんだよー」

「そうだったのか、だから俺たちのことずっと見てきたのか」

「いや?私は蒼蒔にも興味があったよ、おかげで面白いものも見れたしな」

一花は俺の方を見てふふふっと笑う。

「それはそれはよかったですねー」

まったく見せ物じゃないっての。幽姫に助けてもらわなければ喰われていたからな。

剛善は酒を飲み、日ノ丸は床に寝っ転がり、鈴はどこかへ消えていた。

「私はお前たち2人を本当に気に入ってるのだよ」

一花が幽姫の頭をなでなでしている。

あっ!ずりぃ!俺も撫でたい!

俺も幽姫の頭を撫で始める。

「むぅぅ、なんだか子供扱いされてる気分」

幽姫は不満げだったが。

「蒼蒔と幽姫は私の部下になるといい。可愛がってやるぞ〜」

「それいいね!ね!蒼蒔」

「ん、まあな」

幽姫が喜んでいたから俺も頷いた。幽姫と一緒に行動したいしな!

それに一花はきっと強い、教えてもらえることもいっぱいありそうだ。少し自由すぎる性格が不安だがな。

俺たち隊士は本部に隣接する寄宿舎に部屋を与えられている。

じいちゃんと離れるのは寂しいが、しばらくはここで生活することになりそうだ。

俺の新しい生活が始まる。


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