なのはな流ミルフィーユの食べ方
松田未完
プロローグ
あ、これは夢だ。
見渡す限りの星空。幾重にも連なる星々の光が空に大きな河を作っている。きらきら瞬いていて、まるで星のシャワーを浴びているみたいだった。
澄んだ空気の中でこんなにいい景色を見ているのは、旅行か何かでこの場所に来ているから。
夜空を眺めるなんて楽しいことしかないはずなのに、私はなぜか泣いていた。
泣き声に聞き覚えがある。きっと四歳ぐらいの私だ。迷子になったらしい。
ママ! パパ! 叫ぼうとしたものの、悲しい気持ちが強すぎて泣くことしかできなかった。
声を出しすぎてえずき始めた私は、倒れ込むように地面へと手をついてしまう。
過呼吸で苦しい。立てない。もう声も出なくなっていた。
くしゃっと潰されたコーヒーの空き缶が風で転がってくる。私もあんな風に死んじゃうの?
いやだ。まだ生きたい。
だけどもうダメ。目の前が暗くなりかけた時──、
「大丈夫!? 落ち着いて!」
誰かが抱き起こして座らせてくれた。
星明かりの下で見たその顔は整っていて、目には真っ直ぐな光が浮かんでいた。背が高くてしっかりした体つき。
「ママのところに連れて行ってあげるからもう大丈夫。ほら、ゆっくり息しようね?」
背中をさすられながら呼吸をコントロールされると、普通に空気が吸えるようになった。
こんなところに交番の人なんていないし、根拠もない。しいて言えば青い服が似ている。だけど私は無条件で思い込んでしまった。
「おまわりさん、ありがとう」
泣き止んだ私にジュースを飲ませて落ち着かせると、その人は私を抱っこしてママとパパのところに連れていってくれた。
「なのはな!」
ママに抱きしめられる。パパに頭を撫でられた。もう大丈夫。
お礼を言おうとしたら、あのお巡りさんはいなかった。
その代わりに違う人がいる。誰だろう? 違う。人の形はしているけれど、化け物だった。
そいつが私ににじり寄ってくる。
気づいたらママもパパもいなくなっていた。あのお巡りさんもいない。
ギョロリ。化け物に見つめられた私は悲鳴を上げた。
「やめて! たべないで!」
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