蟄伏のオオカミ様
@wildness
プロローグ
時は平安の末。
世は地獄であつた。
飢饉、火の災い、盗賊の繁茂、都の腐敗。
だがその中でも、花は咲いてゐた。
穂は実ってゐた。
若葉は芽吹いてゐた。
──筈だつた。
「
少年の声が、暗闇の中を奔つてゐた。
「私に!私に何も云はぬのは何故ぢや!」
返事は帰つてこない。
「後ろめたう思ふておるのぢやろう!お父上を一人にし、私を裏切ることを!」
・・・・・・
「炉よ!あの親孝行で優しいお前は何処へ逝つてしまふたのぢや!戻つてくるのぢや!」
少年は独り、暗闇に取り残されてしまつた。
「・・・・・・人が変わつてしまふたやうぢや。まるで、物怪に取り憑かれたやうな」
少年は絶望した。
冷たい夜風が吹き、赤とんぼが舞い、暗闇さへも彼を慰めてはくれなかつた。
硬い地面が跪いた膝を酷く傷つけた。
もう何も、実らぬ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます