第12話 外見と中身

西暦2000年前後って、デジタル機器関連の進化が凄まじくて、携帯電話がPHSだったのがガラケーに変わって、どんどん新しいものに切り替わっていく時代だった。


当時、会社のデザイン部署で使用していたMacやソフトも、どんどんスペックが上がっていく。

ちょっと席外していたら妙な画像で固まっていたなんてことがまず無くなり、画像一枚表示するのに1時間かかっていたネット環境もあっという間に高速化していった。


ゲームセンターのゲーム筐体のビット絵がポリゴン化して、気づいたらなめらかな3D画像になってたのもこの頃。

それまでは映画会社くらいでしか使えなかった3Dソフトが、一般人でも扱える価格に下がり、自宅のPCでも動画を自作できるようになっていった。


デジタルハリウッドという専門校の夜間部に半年通ってたけど、これからは紙のデザインからWEBの時代、なんて講師に言われたのを思い出す。



オーネットでは相変わらずデータ交換のままで、1ヶ月にひとりかふたり、一度だけ電話で話せて、一度会える相手がいればいいほうだった。


マッチングあるあるで不思議だったのは、なぜかデータ交換がうまくいくときに限って、突然降って沸いたかののように複数が同時進行になるのだった。

ダメな時はまったく音沙汰がないのに、まとまる時にはやたら連絡が来る。

同時に三人抱えることもあった。


「世の中では、そういうのを三股って言うんだよ」と言われるんじゃないかとヒヤヒヤしてた。(;´д`)


まあ大抵は日にちをズラして約束して、一度会ったら終わり、なんだけども。



技術革新はどこも同じなのか、美容院でも髪の縮毛矯正の薬液が変わって、施術後の痛みが少なく、より綺麗なストレートがかけられるようになっていた。


学生時代、私の髪型はイジメの一因だった。なんせ南方系の人々のように一本一本がとても太く、よじれまくっていて、非常に毛量も多く、小柄な手の人ならば一掴みが片手で掴みきれないほど。

そのままだと真横に広がるのがお約束で、結んでも前髪はちりちりに広がって見た目が非常に悪い。ドライヤーでなんとかマシにまとめても、水泳の授業があると乾かすために結んだ髪を解かなければならず、そのひどい広がりようにケニヤ人と揶揄やゆされていたほどだった。

芸人さんで言えば、ニッチェ江上さんの髪質に近い。実際には、中学の頃は江上さんよりもっと広がっていたが。


成人して縮毛矯正をしても、いくらか真っ直ぐになるていど。しかも非常に施術代が高価で、頻繁に美容院へ行くこともできない。だから仕方なく一つに結ぶか、髪の上部半分だけでもまとめて結び、下は広がってても量が少ないぶん幾らか広がりがまし、といった髪型にするしかなかった。


男の人は短長の好みはあれど、確実にストレートのほうがウケがいい。

綺麗なストレートが自分に実装されてから、写真写りによるデータ申し込み数が如実に反映されたから、これは確実。間違いない。


年を経て、よけいに感じるようになったのだけど、ツヤのあるキレイな直毛は若さの象徴でもある。

髪を振り乱し、という表現があるけれど、年齢が上がると髪の毛量が減り、ツヤもなくなり、若い頃のようにスタイリングせずボサボサ広がり放題、なんてのが『おばちゃん化した女性の姿』なんだろうな、そりゃウケも悪いわ、と理解できる。



この自毛が広がりまくる髪型と、縮毛矯正をかけたあとで、ちょうど一度ずつ会うことになった人がいる。


実は一度会って、向こうからお断りされた。

だからデータを返送して終わったと思ってたら、1ヶ月くらい経って向こうから連絡が来たのよ。

たぶんだけどお断り期間に入って、他に会う人がいなかったんだろうね。


電話連絡は、データ返送したらしてはいけない決まりになっていたんだけど、ケータイに番号が残ってるからね……。

きっと暇だったんだろうな、もう一回会いませんか、って電話口で言われた。


どこで会ったんだったかな……横浜……みなとみらいだったかな。

シャレオツ飲み屋みたいな光景が記憶にあるけど、別の人の時だったかもしれない。


ただ、2回目に会った時、相手の表情が明らかに変わったんだよね。

縮毛矯正をかけたばっかりで、自分でもすごいきれいな直毛になったな、長年望んでも望んでも不可能だった、憧れのストレートになれた、って感動して涙が出そうになった記憶があるから。

自分でも、かなり格好が変わったという自覚はあった。


やけにチヤホヤされる態度に、なんで前回とこんなに違うんだ、って違和感があった。

「髪型変わって、ずいぶん印象が違うでしょ」って言ったら、うん、ってうなずいてた。


次も、という話が出た。

だけど……自分も会いに行きながらも、本来ならば会ってはいけない決まりなのだから、このまま継続する気持ちになれなかった。

ズルズル続けて、いざ断りたくなった時にどうすればいいか、データを返送するという明確な方法がないことが不安だった。気軽に決まりを破ってまで会おうとする人が、次にどう対応するか予測がつかなかったから。


なにより、外見だけで対応を変えるのを目の当たりにしてしまった。

中身を見ようとしてはくれなかったんだな、と感じた。


人々の安全を職務にする人なのにね。


職業って、人柄と関係ないんだなぁ。

そう思った。



続く。

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