第10話 心春と買い物

 学校が創立記念日でお休みのこの日、柚木は心春と待ち合わせてのため指定された駅前にやって来ていた。

 学校の最寄り駅よりも二駅先にあるこの駅は、新幹線も通っていてかなり栄えている。

 駅前にはショッピングモールやアニメ専門店、電気屋さんやデパートなどが立ち並び、朝の通勤時間のピークを過ぎた時間でも通行人はすごく多い。


 そのすれ違う人の中には、柚木の格好を見て不思議がるように首をかしげる人もいた。


「ううっ、やっぱこの格好じゃ……」


 そんな視線を何度か受け、やはり外行きの私服は必要だなと再確認する柚木。


 ほどなくして心春もやって来た。

 無地のパーカーにチェック柄のスカート、黒のソックスに黒のブーツ。

 心春の派手さがより鮮明になるような服装で、その恰好だけ見れば買い物に同行してくれることを頼もしくさえ思う。


 すれ違う人の視線を一挙に受けているのは心春の容姿からかな。


「お待たせー、いい天気で絶好のお出かけ日和じゃん……って、何で休みの日に制服?!」

「……出掛け際、妹にこれ以外は着てっちゃダメだと言われてな」

「ちょ、いったいどういう服装で来ようと思ったの?」

「これだ……」


 妹が撮った写真を恥ずかしくなりながらも心春に見せる。


「あはは、ウケる! やばっ、これはないっしょ。妹ちゃんグッジョブ!」

「うっ……」

「そんな顔しなくってもオッケーだって。今日からファッションもバッチシだよ。じゃあ早速買いに行こうぜ」

「どこ行くんだよ……?」

「まずはそこのモール行って色々見てみる、みたいな。あたしも欲しい服あるし……ちゃーんと調べてきたからばっちしコーデしてあげるよ」


 レッツゴーと柚木の手を引き心春に連行される。

 視界に映っていたショッピングモール。間近で見ると本当に大きく広く感じた。


「でっけえ……」

「柚木、初めてだった?」

「おう……すげえ数のテナントが入ってるんだなあ」


 こういう大きな施設があることは知っていたが、入るのは初めてでその広さにビックリする。

 クラスメイト達が良く放課後に繰り出している話は聞いていたし、案内図を見れば、シネコンや書店、ゲームセンターなどのテナントも当然入っていて、土日などは定期的に有名人を呼んでのステージイベントなども行われているらしい。


 これなら毎日来ても飽きないかもしれないとさえ思う。


 心春いわく今日は平日だから人が少ないというが、それでも老若男女で賑わっていると感じる。


「なあ、これで本当に少ないのか……」

「全然マシだよ、土日祝日とか、圧すごいし、駐車場もほぼ満車でさ、マジ激混みだからさ」

「マジか……」

「あはは、今度一緒に来てみようよ……さっ、まずは定番どころ行ってみよ」

「お、おお……」


 エスカレーターで二階へと上がると、目の前に柚木でも知っている衣料品専門店があった。

 入っている店舗の中でもその面積が広く、思わず声を出しそうになる。

 Tシャツやパーカー、シャツに至るまで揃わない物はなさそうで、柚木一人なら逆にどう選んでいいか迷いそうになるだろう。


「とりあえず無難なコーデしてみよっか……」

「うん……あっ、おい、これとか良さそうだけど、どうかな?」


 柚木は取った上下セットのルームウエアに心春は怪訝そうな視線を向ける。


「……まずはあたしが選ぶからとりあえず柚木はじっとしてて」

「お、おう……」

「うーん……柚木ってさ、背も高いし、スパシスの蓮君に似てね? あっ!」


 と、声を出したかと思ったら機敏な動きを見せ、あっという間に籠の中を目当ての物を入れたかと思ったら、「ちょっと着て見て」と手を引かれあっという間に試着室へ押し込まれる。


「あのさ、まずどれを着れば……」

「今のシャツ脱いで、その白いシャツと下はグリーンのパンツでオッケー」

「お、おう……」


 言われるまま着替えて、鏡を見れば私服ってこういうものかとも感じた。

 自分で着替え終わった姿を見ても悪くはない。


「どうかな……? って、なんで?」


 カーテンを開けると、いつの間にか店員さんが心春の隣にいてなんだか恥ずかしくなる。



「うひょう、蓮君来た、超いいっじゃん! それ絶対買おう」

「うわぁ、ばっちり、ばっちり蓮君です。スラっとしてるからすごくいいですね」

「でしょ、でしょ」

「俺も悪くないなと思うから、とりあえずこれは買うけど……」

「次はさ、その紺のシャツに黒のズボン、それに紺のニット帽被ってみて」

「うわ、うわっ、今度はカジュアルな捜査官みたいですね。ま、まさか……」

「ふふーん、りよたんの敵か味方かまだ明かされていない黒田捜査官、超イケてますよね。あたしの目に狂いがなければ蓮君以上が来るかも!」

「私、実は黒田捜査官が――」

「……着替えてみる」


 その後もなんだか暴走気味の心春と定員さんの提案を受け、何着か試着しては盛り上がる2人を見て、オタク同士惹かれたのか、仲良くなった理由は聞かなかったが、柚木はそのコミュ力すげえなと頭を掻く。

 それが落ち着いて、何着かはカジュルの物を選んでくれて柚木の買い物に心春は満足したようだ。

 ジーンズなどは柚木がサイズ調整に困らないようサイズで選んでくれたらしい。

 お財布の中が少し寂しくなるが、上も下も何着あった方が今後のためにいいだろうということで、似合うと言ってくれたものは全部購入した。


「ありがとうございました。またぜひおこしくださいませ~」


 店員さんに深々と頭を下げられ、なんだかVIPなお客様のような勘違いを起こしそうになる。


「はあ~、なんかすげえ疲れた……」

「おつ。じゃあ次はあたしの買い物にちょっと付き合って」

「おう」


 柚木の洋服選びがひと段落すると、心春は自分の物を買うらしく女性物が置いてある方へとやってくる。どうやら一通り買うものは決まっているらしく、悩むこともなく、


「今度は……うん、これしかないな……あたしはあなたと戦いたい!」

「なっ!?」

「うわっ、今の良きじゃん! 柚木もそう思うっしょ」

「えっ、ああ……」


 突然のことでビックリする柚木だが、心春は嬉しそうにはしゃぐのみで、自分に言われたのかもわからなくなる。

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