4-4 誰ガ為のダイバーシティ
貯まった
「またドン勝を逃した。次こそは……」
平日の真っ昼間からFPSを遊べるなんて最高だ。両親が仕事で家に居ないことをいいことに、昨日の夜からぶっ通しで続けている。楽しいからというよりも、払った金額分は遊んでやるという強い意志で次のマッチングを申請する。
マッチングが完了するとメンバーの一覧にyoyuというプレイヤーがいた。げっ、この前の奴だ。今回は最初からボイスチャットをしているようで、ネームプレートにミュートのマークがない。
「よろしく」
「よろろー」
もう一人のチームメンバーが挨拶をしたらyoyuが挨拶を返した。声も聞き覚えがあり、同一人物なのは確実だ。俺も挨拶をしたが何も言われなかった。まあ、一度ボイスチャットで話しただけだし覚えてないのも当然か。被害者のほうは嫌な記憶として覚えているが、加害者は被害者のことなんてすぐに忘れてしまうもの。それならそれでやりようはある。
キャラクター選択画面に移るが見た目がアレなせいで、どれを選んでも全くやる気が起きないのが、ある意味すごい。前回遊んだ時は高校で色々あって気にしていなかったが、どのキャラクターも本当にデザインが残念すぎる。
メリハリのない地味な装備をした男スカウト、全然かわいくないおばさんスナイパー、どの層をターゲットにしたのかわからないオカマ風のサポート役キャラ。娯楽のゲームに
今回はサポート役一択。オカマを操作するのはこの際気にしない。何と言っても他のキャラクターよりもグレネードが多く持てるのが最高。戦場に飛び込むと何度か敵チームと戦闘になり、チームメンバーの一人が戦闘不能。タグ回収も難しく、復帰は絶望的だろう。
偶然とはいえ前回と同じ状況になりつつある。生き残っているチームは俺たちを入れて九チーム。残り二チームになったらyoyuが動くと考えていいだろう。それでも一応警戒を怠らずに移動していると、目の前を走っていたyoyuが俺の後ろに回り込んだ。嫌な予感がして回避行動を取った瞬間、今まで走っていた場所に銃弾が飛んできた。
「……避けるなんて、超ムカつく」
「狙って射つのは誤射って言わないぞ……って、また撃ってくるな!」
「別にダメージないんだから当たっても問題ないっしょ」
「そっちがその気なら俺だって考えがある」
持っているのがフルオートのサブマシンガンだからか、前回のような精密さがなく走っていれば余裕で避けられる。避けられるものの残弾をここで消費されると後で困る。それを知ってか知らずかyoyuは俺を狙い続けている。
仕方ない、まだ早いが行動するか。今まで温存していたグレネードをyoyuの足元へ投下する。数秒後、爆発と同時にyoyuのアーマーが半分消し飛んだ。FFでは味方にダメージが入らないが、こうした投擲アイテムは自分を含めた全てのプレイヤーに効果があるのだ。
無駄に弾を消費されることに比べたら安いものだ。どうせ他のチームを倒せばアーマー回復アイテムくらい簡単に奪える。これで懲りたらもうやらないだろう。
「もう激おこだかんね。絶対当ててやるし」
最後にそう言い残すとyoyuはボイスチャットを切って攻撃を始めた。もちろん対象は俺。仲間内でそんなことをしていれば敵から見つかるのは確定的に明らかで、yoyuの弾が無くなる前に俺たちのチームは全滅した。仕返しができて気分よくメニュー画面に戻ると、爆速でフレンド登録が飛んできた。相手の名前を見るとyoyuだった。粘着されるのは最悪だが――
「まあ、どうせ明日
それに、最近もっと粘着質な相手が近くにいるから、この程度気にならないというのもある。椅子に座ったまま背伸びをして、長時間ゲームをして固まった体をほぐしていると、窓から何かが入ってくる音が聞こえてきた。
「……なあ七海。自宅待機しろって言われただろ?」
「玄関から入ってないから大丈夫。ここも私の家みたいなものだし、休校で毎日暇なんだもん。それに、この前はここで一緒にテストを受けたでしょ」
俺たちの高校――猫乃瀬高校は今、とある事情で休校になっている。部活も全て休みで生徒は全員自宅待機。最低限の外出は許されているものの、友達と遊ぶための外出は禁止されている。ちなみに七海の言っているテストというのは期末テストのことである。先月末に急遽休校になったものの、高校としては一学期の成績をつけなければならない。
休校してすぐにテストがなくなると喜んだのもつかの間、リモート授業用のタブレット端末が一週間たらずで届いた。二年生になりたての頃は憧れていたリモート授業だが、こんな形で実現してしまうとは想像すらしていなかった。
スマホの操作も出来ないポンコツ幼馴染にタブレット端末が操作出来るはずもなく、この部屋で操作方法を教えながら一緒に期末テストを受けたというわけだ。まさかその結果、俺の家に七海が入り浸るとは思いもしなかった。
慣れた手つきでスマホの電源を入れてトラ猫ワルツを起動する。スクロールする必要のないフレンドが一人だけのフレンドリストを確認すると、オフラインを示すグレーの文字でルカと書かれていた。
「……今日も遊んでいないのか」
こんなことなら最終ログイン日を表示できるようにすればよかった。オンラインゲームに稀によくいる厄介ストーカー化しつつある自分に嫌気が差す。でも、俺にはこれくらいしか連絡手段がない。
すればよかったといえば、御城さんとのフレンド登録もだ。あの後、忙しくて忘れていたためフレンド登録ができないまま休校になった。御城さんはパソコン版のフレンドのレフィーニャさんだから、ニャンタとしてパソコン版で聞けばいい。それはわかっていても、ニャンタだと言うタイミングを逃したせいで自分から言い出せずにいる。
「ねえ、すばるん。恋ガブの続きは買わないの?」
我が物顔でベッドを占領している七海が、手に持っている漫画を見せながら聞いてきた。恋ガブ――恋色カプリチオは一ノ瀬さんが薦めてきた漫画だ。内容は面白くて続きも気になったものの二巻以降はなんとなく買えずにいる。
「それは
「それなら、その人に貸してもらえばいいじゃん」
長いぼっち生活で貸してもらうという考えが抜け落ちていた俺は、七海のその一言に衝撃を受けた。カレーのことしか考えていない七海に気づかされるのは癪だが、本当にその通りだ。でも一ノ瀬さんとは喧嘩をしたのと、今後会うことができるかも怪しい。貸してもらうことは不可能だろう。つい苦虫を噛み潰したような顔をして、ぶっきらぼうに答える。
「……少女漫画なんだから、七海が買えばいいだろ」
「今月ピンチだから無理。すばるんがお金を出してくれるなら買ってくるよ。そうだ、来週から休校が明けるんだよね。やっとみんなと会えると思うとうれしいけど、この生活が終わるのもちょっと寂しいかも」
高校からの連絡がSNSだったら俺が教えようと思っていたが、その必要がなくなった。チラシもスマホに届く時代になり、自分宛ての郵便なんて本当にひさしぶりに届いた。休校の理由がアレだったから仕方がないが機械音痴の七海には助かる措置だ。
「他にもアンケートが送られてきたけど、今回のことって私のせいでもあるのかな」
「関係ないとは言わないが、気にするだけ無駄だと思うぞ。どうせ七海が入っていなくても変わらなかっただろうし」
「そうかな?」
「ああ、断言してもいい」
なぜならこの休校は、俺が行動した結果なのだから。
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今回のゲームネタ【ドン勝】
某バトロワのゲームで一位になった時に表示される勝利メッセージ。
当初は海外ゲームによくある誤訳だと思われていたが、開発スタッフへのインタビューで、わざと誤訳のようにしていたことがわかった。今では様々なバトロワゲームで一位になった時にもプレイヤー間で使われることがある。
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