Re:Re:トラ猫ワルツ
ほわりと
一缶 一ノ瀬愛良とフレンド機能
一話 ラブコメは唐突な出会いから始まるもの
1-1 現実はセーブができない
初めて遊んだゲームは、親父が暇つぶしで遊んでいたスマホのソーシャルゲーム――いわゆるソシャゲだった。
俺が生まれる前から続いている、長寿シリーズのテーマパークのようなゲームで、登場キャラクターたちはそれぞれのナンバリング作品からの参戦。
たとえば王様から魔王を倒せと命令された勇者だったり、世界の終焉を阻止する使命を背負っている巫女だったり、幼馴染と共に空賊団に混ざって旅をして世界を救うことになる青年だったり。
どの主人公も目的こそ違うが、それぞれ決まって世界を救っている。何回世界が危機に晒されているんだと思われるかもしれないが、RPGにはよくある王道展開だから指摘するのは野暮というもの。
そんなキャラクターたちを過去や未来、さらには別の世界からガチャで召喚してクエストに挑むのが
画面の中のキャラクターを操作することで、自分がその世界を冒険している気分になり、子供ながら熱中して毎日のように楽しく遊んでいた。
簡単に説明するなら操作性や強化システムに問題があり、その上、キャラと装備、消費アイテムがランダムで排出される闇鍋ガチャが不評で、良いところがひとつもないのが特徴のゲームだった。
そんなゲームを楽しく遊んでいたと言ったな。あれは嘘……ではなく、あの頃は本当に楽しくて遊んでいた。様々なゲームに触れた今では、なぜ熱中していたのか不思議で仕方ない。それでも思い出補正のお陰か楽しかったという記憶は鮮明に覚えている。
薄々感づいているゲーマーもいそうだが、LLLはサービス開始から半年もしないで爆死した。つまりは
でも、スマホのゲームなんて星の数ほど存在する。
LLLがサ終した後も親父のスマホを借りて、様々なゲームを勝手にインストールしては遊んだ。もちろん無課金で。まあ、クレジットカードが登録されていなかったから課金できなかっただけで、登録されていたら間違いなく課金していた自信はある。
あまりにもスマホを占有するものだからサンタクロースが見かねたのか、はたまた誰かさんが我慢の限界だったのかは知らない。ある年のクリスマス、枕元に一台の家庭用ゲーム機が置かれていた。
だが俺の元へ来たサンタさんは相当なうっかり者だった。いざ遊ぼうと箱から出してテレビに繋いだら、ゲームソフトがどこにもなくて遊べなかった。あの時の絶望も鮮明に覚えている。うっかり者のお父サンタめ、本体だけでどうしろというのだ。重いから漬物石くらいにはなりそうだが、それは本来の用途ではない。
あの時はサンタを恨んだが、きっと予算の都合だったのだろう。ゲームソフトは両親からのクリスマスプレゼントとしてLuna Location
ルナというタイトル通り、月をテーマにしたファンタジーRPG。略称はエルエル派、ルナロケ派がネット掲示板で日夜激しい抗争を繰り広げている。まあ、半分冗談だが。ちなみに俺はエルエル派である。
ゲームを遊ぶために
エンディングまでクリアすると他のゲームソフトをお小遣いで買い、またクリアすると別のものを買う。宿題もせずにゲーム漬けの日々を送っていると母さんコントローラーを何度も取り上げられた。
「遊んでいないで、ちゃんと勉強をしなさい。ゲームばっかりしているとバカになるわよ!」
いつものように母さんに怒られていると、見かねた親父がフォローしてくれた。
「昴が宿題を済ませたのは一緒にいた俺が見ていたし、遊びくらい好きにさせればいいじゃないか。それに、ゲームはバカじゃ作れないんだから、その怒り方はないだろう」
その言葉を聞いた子供の頃の俺は、両目を大きく見開き驚いた。ゲームは遊ぶもの。ずっとそう思っていた。そして、母さんと言い争っている親父に疑問を投げかけた。
「おとうさん……ゲームって、作れるの?」
「ああ、もちろんだ。いっぱい勉強をすれば昴にだって作れるぞ。ゲームは賢い大人たちが本気で作っているから面白いんだ。昔は一ビットの容量を節約するために、ひらがなとカタカナを同じ文字で表現したり、タイトル画面のグラフィックを削ってだな……」
その後の親父のレトロゲーム雑学は母さんの説教よりも長かったが、子供の頃の俺の耳には全く入ってこなかった。ゲームは作れるんだ。それがきっかけで熱心に勉強をするようになり、テストでいい点を取ったご褒美として初めてのゲーム制作をした。
最初は小学生がパソコンを持つのは早いと言われて親父のパソコンを借りた。ゲームを作るといっても本格的なプログラミングをするわけではない。ゲーム制作ソフト「ゲームを作ろう!」――通称「ツクロー」で作る、なんちゃってプログラミング。それでも小学生の頃の俺には、学校のプログラミング授業よりも魅力的に映った。
最初に作ったゲームは、勇者が魔王を倒すだけの簡単なもの。今思えば駄作も駄作、クソゲーもいいところなのだが、子供の頃の俺は神ゲーが誕生したと確信してアイツに遊んでもらった。
「なにこれ、つまんないっ! こんなの作っていないで一緒にお外で遊ぼうよ!」
アイツはそう言うと、呆然と立ち尽くす俺の手を力任せに引っ張って外に連れ出した。そんなことはない。俺が作ったゲームは面白い。絶対に面白いんだ。
その日の夜、両親に黙ってゲーム投稿サイト「ゲーム集まろう!」――通称「アツマロ」に作ったゲームをアップロードしてみた。結果は当然のことながら全然遊ばれない。所詮、小学生が作った自称神ゲー。レビューがついたとしても星ひとつ。コメントがついたとしても、
『星ゼロにしたかった』
『遊ぶ価値なし』
『クソゲー』
と、書き込まれた。この時ばかりはアツマロのマスコットキャラクターである、あつマロの笑顔が、どことなく俺を馬鹿にしているように見えた。いや、今もそれは同じか。悪評がつくたびに何度あのアホ面をボロ雑巾のように絞ってやろうと思ったことか。
とまあ、そんな感じで俺――
「……最悪な気分だ」
今まで嫌な夢を見ていた気がする。それが悪夢だったことは覚えているのに、内容が全く思い出せない。夢は覚めたら忘れるもの。それでも思い出せないと喉に小骨が詰まっているような、もどかしい気分になる。
今から寝れば同じ夢を見ることができるかもしれない。そう思って枕代わりにしている腕を組みかえて二度寝をしようとした瞬間、急に目の前が眩しくなった。
どうして今日に限ってカーテンを開けっ放しで寝たんだと、心の中で昨日の俺に悪態をつく。だからといって眩しさが緩和されることはない。寝起きで重い頭を動かして顔の向きを変えると、カチャカチャという小気味いい音が耳に響いた。
ん? カチャカチャ?
今更ながらベッドにしては妙な肌触りだ。撫でるように指を動かすと、再び鳴り響くカチャカチャという無機質な音。材質はプラスチックだろうか。それに、このほどよい打鍵感はタクタイルのそれだ。そんな感想が出てくるものといえば一つしか思い浮かばない。つまり、いま俺が寝ているのはベッドではなく――
「こんな環境で二度寝なんかできるかよ」
最悪な気分のまま最悪な睡眠環境から起き上がると、最初に視界に入ったのは液晶ディスプレイ。腕を置いていたのは予想通りパソコンのキーボード。どうやら今日もゲームを遊んでいる途中に寝落ちしていたらしい。その証拠に、起動しているゲームのチャット欄には猫が入力したような意味不明な文字列が入力されている。
最後はキーボードの「T」が連続入力されていたようで「っっっっっっt」で終わっている。連続で「ぺ」が入力されていたら、変な名前で
幸いなことにエンターキーは押されていなかったため、チャットとしては発言されていない。画面外まで伸びている
レフィーニャ:おーい、起きてる?
レフィーニャ:反応がない、ただの寝落ちのようだにゃ
レフィーニャ:おやすみにゃー
System:レフィーニャがログアウトしました
タイムスタンプから十分くらい返事を待っていたらしい。いつものことながら申し訳ない気持ちでいっぱいになる。既にログアウトをしているレフィーニャさんには読まれることはないが、なんとなく「おつおつ」とチャットを返すとゲームを終了した。
ゲームを終了したことでフルスクリーンが解除され、画面右下に表示された数字を見た俺は、つい二度見をしてしまう。動揺しながら目を擦って確認するが結果は変わらない。
「あれ? 俺の見間違い……だよな?」
いや、落ち着け俺。まだ慌てるような時間じゃない。そ、そうだ。これはきっと夢なんだ。頬をつねってみると、これが現実であるという確かな痛みを感じる。どうやら今日が四月八日であるのは紛れもない事実。
俺の焦りを嘲笑うかのように現在の時刻を知らせる数字が、また一つ進んだ。ああ、これはあれだ。今日は遅刻確定だ。
「どうして今日に限ってスマホの目覚ましが鳴らなかっ……あっ、そうか。昨日まで休みだったから目覚ましを切っていたのか……」
こんなことなら
そんな冗談を考える余裕があるなら早く支度するべきだ。でも、もう急いでも間に合わな――いや、今から家を出ればギリギリ間に合うはず。俺は手早く高校の制服に着替えると、バタバタと音をたてながら慌てて階段をかけ降りた。
―――――――――――――――
今回のゲームネタ【ふっかつのじゅもん】
セーブデータが保存できなかった時代に、ドラゴンなRPGで採用された画期的なセーブシステム。前回遊んだ時に表示されていたパスワードを入力すると、その状態からゲームを再開することができる。現在のように気軽にスマホで写真を撮れる時代ではなかったため、一文字でも間違えて紙に書いておくと前回の努力が水の泡なんてことも。
とあるナンバリングでは、最後に「ぺ」を連続で使用するネットで有名なふっかつのじゅもんがある。それを入力すると、強くてニューゲームのような状態で始まるという裏技ではあるものの、主人公たちの名前が変な名前になるため友達に見られると裏技の使用がバレてしまうという欠点があった。
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