第064話 ドラゴンゾンビ
邪竜との戦闘を覚悟したクリエス。大深林を抜け、南北を繋ぐ街道へと出ていた。
『あら?』
急にミアが声を上げる。強者たる彼女が普通の魔物に反応するはずがない。まだ邪竜はずっと遠くにいるはずなのに、クリエスは不安を覚えてしまう。
「ミア、どうした? まさか邪竜の気配でも感じたんじゃないだろうな?」
クリエスが聞くと、ミアは首を横に振った。この様子であれば、とりあえずは安心しても良さそうである。
『実は私の使い魔が一体失われたようです。そこそこ強かったはずなんですけど』
「んん? 使い魔って、出しっぱなしなのか?」
確かチチクリは召喚されていた。しかし、召喚が喚び寄せるという意味合いなら、この大地のどこかにいたことになる。
『悪魔は魔界から喚ぶこともあるのですけれど、基本は出しっぱなしです。かつて可愛がっていたヒュドラゾンビとかも。放置場所に設置した召喚陣で喚ぶのですよ。地縛霊となったとき、大半をリリースしましたけどね……』
「危ねぇ奴だな? ヒュドラなんかが出没したらパニックどころじゃ済まないぞ?」
『ヒュドラゾンビは五体ともリリースしていませんし、大陸の南西にある島でおとなしくしてますよ。基本はアンデッドですから食事も必要ありませんし。まあゾンビなので島は完全に毒素で汚染されているかと思いますけれど……』
聞いた話を鵜呑みにすると、ミアの使い魔が失われたなんて話には疑問しか残らない。何しろレベル200超えのチチクリが一番弱いと彼女は話していたのだ。
「その使い魔は勝手に死んだのか?」
『いえいえ、アンデッドですからね。以前に召喚したことのあるドラゴンゾンビですよ。殺しても死なないはずなのですが……』
益々意味不明である。殺しても死なないアンデッドがどうして消失したというのだろう。
「失われたのは間違いないのか?」
『もちろんです。魂レベルで繋がっていますからね。私からの魔力供給も途切れていますし……』
ミアは使役した魔物と今も繋がっているらしい。不意に魔力供給が途切れた彼女は使い魔が失われたことを確認しているようだ。
「なら討伐されたんじゃないか?」
『魔王候補にでも出会ってしまったのでしょうかね? ヒュドラゾンビと違って大陸内に放置していましたから。災難級以上はあったはずですけれど……』
クリエスは薄い目をしてミアを見ている。災難級以上もあるアンデッドを野に放っているなんて。千年間に亘って何の問題もなかったことの方が驚きであった。
「まさか命令とかしていないだろうな? 戦闘の……」
『基本アンデッドは生者を求めますからね。近付けば攻撃しますよ。でもあのドラゴンゾンビは丁度良い大きさの部屋に入れてあったのです。確か海に面した場所に放置された難破船でした。非召喚時は大部屋に仕掛けた魔法陣に縛り付けていたのです……』
一応はミアも歩き回らぬように命じていたという。しかしながら、余計に失われた理由が分からない。一般人に倒せるはずはないし、本当に魔王候補と出会ったとしか思えなかった。
「ま、災難が一つ減って良かったじゃないか? ドラゴンゾンビなんてこの世に必要ない」
『結構可愛いのですけどね。喜ぶと猛毒が漏れますけど……』
「最悪じゃねぇかよ……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
セイクリッドフレアを撃ち放ったヒナ。真っ直ぐに撃ち出された純白の光はドラゴンゾンビに直撃していた。
鳴き声はなく、ドラゴンゾンビはただ焼かれていくだけ。真っ白な炎によって全身を焼かれ続けている。
対するヒナは静かに眺めているだけだ。効いているのかどうかも不明であったのだから。
「お嬢様!?」
「落ち着いて。今し方、覚えたのよ。これが効かなければ、もう終わりだから」
程なく輝きが消失。と同時にドラゴンゾンビの腐肉が剥がれ落ちていく。最後は骨も崩れ始め、ゾンビ体であった巨体はただの亡骸に変貌していた。
「倒した……?」
正直に実感がない。大量の魔力ポーションを使い切るほど聖魔光を撃ったのだ。少しも効いた感じがなかったというのに、昇格した魔法では一撃だなんて信じられるはずもない。
『レベル289になりました――――』
唐突に届く通知。それはドラゴンゾンビの魂が消失した証拠である。ヒナが討伐し、魂強度を奪った事実を明確に伝えていた。
「嘘……?」
慌ててステータスを確認する。一度にレベルが250以上も上がるだなんて考えもしていないことなのだ。
【名前】ヒナ・テオドール
【種別】人族
【年齢】17
【ジョブ】聖女
【属性】光・火
【レベル】289
【体力】76(+15)
【魔力】370(+74)
【戦闘】73(+87)
【知恵】383(+76)
【俊敏】44(+8)
【信仰】407(+81)
【魅力】246(+49)
【幸運】159(+31)
【加護】ディーテの加護
【スキル】
[超怪力]戦闘値50%アップ
[華の女子高生]制服を着ているとステータス二割増
・ファイアー(100)
・フレイムアロー(45)
・プロージョン(100)
・ハイプロージョン(41)
・ライトヒール(100)
・ヒール(99)
・浄化(99)
・聖魔光(100)
・セイクリッドフレア(1)
ヒナはゴクリと息を呑む。本当にレベルが289になっていたのだ。スーテタスの伸びも半端ない。体力値や戦闘値こそ聞いていたままの伸び率だが、現状のヒナは明確に強くなっていた。
「お嬢様、どうかされましたか?」
呆然としているとエルサが声をかけてきた。完全に呆けていた彼女を心配したのだろう。
「ああ、それがレベル289になったのよ。ドラゴンゾンビを倒したら……」
「確か30とか仰ってましたね。魂強度を数値化したものは……」
エルサにはピンと来なかったのかもしれない。何しろステータスチェックは女神の加護によるものだ。自分自身のレベルを確認できないエルサにはその凄さが分からないのだろう。
「一度に259も上がったのよ? もっと驚いてくれてもよくない?」
流石に口を尖らせている。驚きを通り越して呆然とするしかなかったのだ。エルサにも同じような反応をして欲しかったというのに。
「いやでも、最後の神聖魔法は凄かったですね……」
「アンデッドにしか効かないみたい。聖魔光と同じ聖女専用の魔法だって。クリエス様の悪霊にも効くかしらね?」
ここでよく分からない話がある。クリエスとはヒナの想い人だという認識。その彼が悪霊とどう関係するのか。エルサは気になってしまう。
「クリエス殿は悪霊に取り憑かれているのでしょうか? 大丈夫なのですかね?」
「そうなの。それも二体。でもクリエス様はクレリックだし、何とかなっていると聞いたわ。ディーテ様は最終的にわたくしが悪霊を祓うことを望まれています」
「いや、クレリックなら自分で祓えないのでしょうか?」
疑問が増えていく。二体も取り疲れてしまう前に祓えなかったのかと。
「それが二体とも災禍級の悪霊でね。普通なら取り憑かれた瞬間に死んでしまうくらいの。クリエス様だから何とかなっているのでしょうね」
なるほどとエルサ。どうしてか益々クリエスに興味を持ってしまった。非常に強いというクレリック。それだけでもエルサは興味を抱いていたけれど、二体も悪霊に取り憑かれているなんて冗談にしか聞こえない。
「ねぇ、どこかにドラゴンゾンビいないかしら?」
ヒナは味を占めたようだ。もし仮にドラゴンゾンビが五体いたのなら、レベル1200も狙えるような気がする。
「あんな怪物がその辺りにいてたまるものですか! 私は二度とゴメンですからね!?」
死にかけたエルサは二度と戦いたくないという。彼女は何もできなかったし、足手纏いとなるのが間違いなかったからだろう。
「んんー、せっかく希望の光が射してきたのになぁ」
しかしながら、ヒナも理解している。先ほどのドラゴンゾンビは災難級だったはず。普通なら村や町が滅びたとしてもおかしくはないのだと。
再び小舟に乗り、二人は南大陸へと舵を取る。
クリエスが待つその地を目指して……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます