【完結】煩悩まみれの聖職者(巨乳好き)と女子高生(悪役令嬢)だけで世界を救うって本気ですか?

さかもり

第一章 天界にて

第001話 巨乳好き聖職者クリエス

 天界が定めた第666番目の世界。アストラル世界と呼ばれるここは野山を平然と魔物が闊歩するような危険な世界であったけれど、住人たちは武器や魔法によって対処しており、一応はそれなりの文明を築いている。


 一見、平穏そのものであるアストラル世界だが、実をいうと存亡の機に立たされてもいた。


 その危機とは魔王と邪竜の同時発生。数多ある世界でも希有な災禍に見舞われようとしている。しかしながら、五十年以内に未曾有の災禍が高確率で訪れるなんて、世界に住む人々に分かるはずもない。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 アストラル世界にある二つの巨大な大陸。南側にある大陸はそのまんま南大陸と呼ばれており、北側も変わらず北大陸である。

 

 南大陸の中央に広大な領土を持つアーレスト王国は女神ディーテを崇める国の一つ。


 首都デカルネの大聖堂にはディーテ神を模した巨大な石像が設置されており、観光客にも人気のスポットとなっている。かといって早朝まで人の姿があるはずもなく、今は熱心に祈りを捧げる聖職者が一人いるだけだ。


「ディーテ様、どうかディーテ様に比肩するほどの巨乳な恋人ができますように……」


 あり得ない願いごとをしたのはクリエスという。彼はこれでもディーテ教の司祭である。


 女好きという聖職者にあるまじき難点があったものの、弱者に対する慈悲の心や併せ持つ強い正義感を教会は高く評価していた。まだ二十歳であったのだが、司教に推挙する声も多く、信徒たちの信頼も厚い。


「クリエス様!」


 クリエスが祈りを捧げていると、不意に聖堂の扉が開かれた。現れたのは紫色の髪をした美しい女性。しかし、何やら様子がおかしい。


「どうして私と別れるって仰るのですか!?」


 どうやら痴情のもつれであるようだ。ところが、クリエスは動揺することなく、慣れた様子で彼女に歩み寄っている。


「アリス、君は美しい。だが、駄目なんだ……」

「どうしてです!? 先日も愛してくださったではありませんか!?」


 問い質すようなアリスに、クリエスは長い息を吐きながら首を左右に振る。


「君のペチャパイでは駄目なんだよ――――」


 クリエスの返答にアリスは絶句する。呆けたように顔を振っては言葉にならない声を発するだけだ。


「そ、そんな……?」


 呆然としつつもアリスは鞄に手を入れる。

 キッと険しい表情をした彼女が取り出したもの。不気味に輝くそれは、あろうことか短刀であった。


「じゃあ、一緒に死んでください!」


 一瞬の出来事である。アリスは叫ぶや、躊躇いなく短刀を突き刺していた。


 将来を嘱望されたクリエスの人生はここで幕を下ろす。

 薄れゆく意識の中でクリエスは短い人生を脳裏にフラッシュバックさせ、更には悔恨というべき言葉を口にしている。


「きょ、巨乳ぅぅ――――」

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