第百四十六話 万が一の作戦

 フェイ、アンニーナ、ネヴィルはもう一つの隠し通路に向かっていた。

 不気味な枯れた森を進み、少し小山になったところへ登って行くと、城の裏側が見える位置まで移動した。城を見下ろす形で一望出来る。


「空から侵入する場合の死角になる棟ってあれね?」


 アンニーナが指を差す。


「多分そうだね。確かにその裏手はほぼ死角だな」


 城の中心にあたるその棟は一際大きく高い。その背後にもたくさんの棟があるが、ほぼ正面からは見えないだろう。

 ちょうど真後ろにあたるところに屋上に竜を降下させられそうな棟がある。おそらくあれだろう。

 見張りが立つでもない。全くの死角。


 ナザンヴィアはそもそも空から敵がやって来るという認識がないのかもしれない。空からは隙だらけだ。


「空からのほうが圧倒的に楽そうね」

「うん、でもなにがあるか分からないしね。油断しないでおこう」


「おい、あれじゃないか?」


 ネヴィルが指を差した方向を見ると、小山になったところへ洞窟のようになっていた。入口自体は草や木で隠されてはいたが、よく見るとそこだけが違和感がある。


「開けてみるぞ?」


 ネヴィルはそう言い、こんもりと重ねられた草や木を取り除いていく。全て取り除くと人一人くらいが通れるか、というほどの入口が現れた。


 なかを覗いて見ると…………



「駄目だな、ここは……」

「うん」



 ネヴィルが溜め息を吐き、同じようにフェイやアンニーナも溜め息を吐いた。


 その入口は少しだけ窪みがあっただけで、なかは土砂崩れでも起こったかのように崩れ、とてもじゃないが人が通れる通路ではなかった。


 三人とも脱力したように溜め息を吐き、顔を見合せる。



「とりあえず戻るか。リュシュたちのほうはいけたかもしれないし」


「だね、戻ろう」



 その隠し通路は諦め、早々に戻った三人だが、集合場所にはリュシュたちの姿はなかった。



「なにかあったのかしら」


 しばらく待ってみても戻らないリュシュたち。


「とりあえずもう一つの隠し通路に行ってみよう」


 フェイはなにやら不安を覚え、急ぎリュシュたちが向かった隠し通路に向かう。森を素早く駆け抜け、地面に不自然に枯れ葉がない場所を発見する。


「これか!」


 ネヴィルはその扉に手を掛け開こうとするがビクともしない。


「!? なんだ!? どうなってやがる!? 開かねーぞ!!」

「「!?」」


「どういうことよ!? リュシュたちは!?」


 アンニーナが不安げな顔をする。フェイは顎に手をやり考え込む。


「罠?」


「「!?」」


 フェイの言葉にアンニーナもネヴィルもギョッとした顔。


「そんな!! 扉をこじ開けましょ!! どいて!!」


 アンニーナが掌を扉に向ける。


「炎で燃やしてしまえば良いのよ!!」


「ちょっと待って!!」


 今にも魔法を放ちそうになったアンニーナをフェイが止めた。手首をグッと抑えられ、驚き魔力を抑え込む。


「なんでよ!? リュシュたちが!!」


「罠だとしたら今こじ開けないほうが良い。僕らも捕まってしまったら意味がない。それよりも……」


「万が一のほうの作戦か?」


「うん」


 ネヴィルの言葉にフェイは頷いた。



 隠し通路へ向かう前に作戦を立てた。

 まずは二ヶ所の隠し通路を探索する。その通路を確認次第、集合場所に戻り情報を共有し対策を立てる。隠し通路が有効ならばその道を通り城内へ侵入。あの術が行われているであろう部屋を探す、という段取りだった。


 だが、万が一にもどちらかが敵に見付かった場合、もしくはどちらも敵に見付かった場合、その場を突破出来れば良いが万が一捕まった場合でも、お互いのチームを探さない。

 助けることを優先しない。まずは城へ侵入、あの術を止めることを優先だ。


 それが全員で決めたルールだった。


 どちらかになにかあった場合は、隠し通路ではなく空からの侵入へ作戦変更。そのままあの術の部屋を探索。もう一つのチームを助けるのは術を止めてから、もしくは作戦続行に支障がない場合のみ。




「分かってる! 分かってるけど……このまま見捨てるの?」


 アンニーナは泣きそうな顔だ。


「大丈夫だよ。リュシュは俺たちよりも最強の魔力に精霊王も付いているじゃないか。きっと自力でなんとかするはず」


 フェイは自分に言い聞かせるように拳を握り締め言った。


「リュシュが決めたことだしな。自分が助けられるよりもあの術を止めるほうを優先したいんだろ。行こう!」


 ネヴィルも悲痛な顔だが、しかし、自分を奮い立たせるように立ち上がった。


「アンニーナ」


 フェイに手を差し伸べられ、立ち上がったアンニーナは自分の頬を両手で打ち付けた。そして前を見据える。


「分かったわよ! 行きましょう!!」

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