第四十九話 嫉妬心

「ま、まあ、私たちのことはそのへんで良いじゃないか! 強化係の話をしよう!」


 ルニスラさんは慌てて強化係の話に戻した。少し照れた顔が幼さも見えちょっと可愛い。いや、まあ、人の奥さんですけどね。


「強化係はほぼ竜騎士たちとの訓練ね。訓練係を経て人間に慣れた竜たちが今度は戦いのための訓練に入るのが強化係。今ここにいるのはほとんど騎竜になる前の竜たちだけど、竜騎士との相棒が決まった子たちも強化係に一緒にいるわ。大体は出払っていないけど、国境から王都に戻って来たり、城の護り担当時間を終えた子たちは一緒に過ごしたりしてるかな」


「強化係まで成長すると竜たちも賢いから私がすることはほとんどなかったりするんだけどね、アハハ。他の係より断然楽させてもらってるわ」


 そう言ってルニスラさんは笑った。

 確かに今見ているだけでも、強化係の竜たちはとても落ち着いていて、ルニスラさんが側にいなくとも、大人しく待っている。教育係や訓練係とえらい違いだな。

 チラリと訓練係のほうへと目をやると、ヴァーナムさんの怒声が響き渡っていた……大変そうだな……ハハハ。




 一通りの説明を聞き終わると、良い時間になってきたから、と控えの間で昼食にしようということになった。ルニスラさんはまだ少しやることがあるから、と、アンニーナたち新人も一緒に連れて行ってくれ、とログウェルさんに頼み、竜たちの元へと戻った。


 アンニーナたちとも一緒に俺たちは控えの間へと向かう。あぁ、試験を思い出すな。物凄い複雑な気分になるが……まあ、それはもう終わったことだし気にしないようにしないとな。

 しかしルニスラさんは竜騎士から育成課にか……、せっかく竜騎士になったのに育成課とか……、いや、育成課を見下しているわけじゃない! それは違うんだけど、竜騎士になりたかった俺からしたら、なんというか……羨ましいし、妬ましいし……で、複雑な心境になってしまう……。

 ルニスラさんは全く悪くないんだけどさ。あー、なんか俺ってほんと小さい人間で嫌になる! 情けない!


 そんなことをモヤモヤと考えていると、フェイに心配されてしまった。


「どうしたの? リュシュ。なんか眉間に皺寄ってるけど」

「え? あ、いや、ごめん、なんでもない、アハハ」

「そう?」

「うん、大丈夫!」


 これは俺のただの情けない嫉妬心だしな。あまり友達には知られたくない。元々情けない俺でもやっぱりそこは見栄でもなんでも強がっていたいんだ。


「そういえばアンニーナは?」


 側にいないな、と、キョロッと見回すと、やはりというかなんというかディアンの側にいた。しかしそのディアンの側にはシーナさんが……。うわぁぁ、アンニーナがめちゃくちゃ怖い顔……。


 フェイも苦笑している。


「な、なにやってんの、あの三人」

「控えの間に向かうときに、アンニーナがディアンと並んだんだけどさ、なぜだかあのシーナさんだっけ? あの人がディアンにピッタリとくっついて歩き出してさ」


 フェイが苦笑しながら話す。ちょっとドン引き状態だ。


 シーナさん……なにやってんの!? い、意味分からん。さっきまで俺にびったり引っ付いて歩いてたくせに。いや、シーナさんに引っ付いて欲しいわけじゃなく! 決してそういうわけじゃなく!! 違うからね! いや、誰に言い訳してんだか。


 明らかにアンニーナを挑発してそうなシーナさんにドン引き。あれ、分かってやってんのかな。だとしたら最低じゃん、ちょっとちょっとシーナさん。


 そう思っていたらどうも違うような……。ディアンにピッタリとくっついて歩いていたかと思ったら、今度はアンニーナにビタッとくっつき出した。な、なにやってんの……。

 アンニーナが凄い変な顔になっている……ブッ。


 アンニーナがそろそろ限界を迎えそうだ、と思った矢先、シーナさんは鼻歌を歌いながら今度はネヴィルにもビタッと引っ付き、ネヴィルが真っ赤になった……いや、青ざめてるのか? 分からんな。そしてさらに俺たちのほうへくるりと方向転換しやって来た。

 ポカンとしたアンニーナとディアンが視線を送る中、今度はフェイにビッタリと……。


「ちょ、ちょっと、シーナさん! さっきからなにやってるんですか!?」


 明らかな不審者だ。フェイの顔が引き攣っている。


「おい、変人行為はいい加減にしないと捕縛するぞ!」


 ログウェルさんがシーナさんの頭のお団子を鷲掴みした。


「ちょっとくらい良いじゃないか。新人くんたちの魔力を感じるかの実験だ」


 ま、魔力か……。さっき俺と話していたことをすでに実践しているわけだな。なるほど。

 まあとりあえずディアンに引っ付いていたのはアンニーナを挑発するためじゃなかったか、良かった。修羅場になるかと思ったよ。

 アンニーナもあからさまにホッとした顔をしていた。一触即発な雰囲気だったもんな。良かった良かった。いや、でもあの不審者行為はやめてもらいたいが……。


 シーナさんの怪しい行動に引きつつ、控えの間で昼食を取り、そしてそのまま解散となった。

 俺とログウェルさんは教育係へ、シーナさんとディアンは治療院へ、アンニーナとフェイとネヴィルは演習場へと戻って行った。アンニーナはディアンとシーナさんをかなり気にしながら仕方なく戻って行ったのだが……。

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