第四十八話 強化係

「あー、じゃあ、これからよろしく頼む。リュシュだったか?」

「はい」


 ヴァーナムさんが頭をガシガシ搔きながら言う。その様子にリンさんはクスッと笑った。おぉ、笑うと美人だ。美人だからこそ無表情だとちょっと怖いんだよな。


「あいつは本当にめんどくさい性格をしてるから……まあ頑張ってくれ」

「ハハ……はい」


 苦笑しながら話すヴァーナムさん。まああの試験のときからすでにめんどくさいのは分かってるしな。めちゃくちゃ俺様だし、口悪いし……まあなんとかなるだろ。


 騎乗訓練があるときは連絡をもらうということになり、ヴァーナムさんとリンさんは竜たちの元へと戻って行った。




「さて、最後は強化係だな。ちょうど竜騎士見習いの新人たちもいるようだな」


 そう言いながら強化係の竜たちへと近付いて行く。訓練係にいた竜たちよりも落ち着きがある竜たちだ。さすがだな。大人な竜って感じか。


「おーい、ルニスラ!」


 竜たちの先にいる人間を大声で呼んだ。振り向いたその人はスラっと背の高い金髪灰色瞳の美人な人だった。

 ショートカットに短く整えられた綺麗な金髪が振り向いたときにさらりと揺れる。キリッとしたかっこいい女性だな。


 ん、金髪……ということは人間か? 今まで会った竜人の人たちは皆、濃紺や真紅や深緑の髪色ばかりだったしな。それってきっと鱗の色だよな。


 ルニスラと呼ばれた女性は竜騎士見習いたちを連れてやって来た。アンニーナとフェイとネヴィルだ。


 アンニーナがディアンを見付け、めちゃくちゃ嬉しそうな顔だな。フェイは落ち着きながらも俺たちを見て、ニコッと微笑んだ。ネヴィルも「おっ」といった顔で挨拶代わりに手を上げる。


「ログウェル、どうした?」


「昨日話しただろ? 新人のリュシュだ。それともう一人が治療師の新人ディアン」


 ペコリと頭を下げ挨拶をする。


「ルニスラは今、一人で強化係担当なんでな、俺も一応強化係の一員としてやっている」


「夫婦だしな!」


 シーナさんが背後からデカい声で言った。


「「「「「え? 夫婦?」」」」」


 新人全員で声がハモった。


「あー、ハハ、実はそうだ」


 少し照れながらログウェルさんが頭を掻く。


「私は強化係のルニスラ。よろしく。シーナが言った通り、私とログウェルは夫婦だけど、仕事はきっちりしてるから気にしないで」


 ルニスラさんはハハッと笑うとログウェルさんの背中をバシンと叩いた。

 ログウェルさんは竜人でルニスラさんは……人間だよな? 竜人と人間で結婚するもんなんだな。そう考えたことが分かったのか、ルニスラさんは苦笑しながら話した。


「私は元竜騎士でね、あ、人間だけど。見習いをやってたときにログウェルと知り合ったんだけどさ、育成課の話を聞いてるうちに竜騎士じゃなくて育成課になりたくなっちゃってね。団長とログウェルに頼み込んで育成課にしてもらったんだよ。ログウェルとはそれからの付き合いでね、まあ……、いつの間にやらこんな仲に、アハハ」


 ログウェルさんがめちゃくちゃ照れて顔を逸らした。めちゃくちゃガタイの良い男が照れている姿におかしくなり、思わずその姿に笑ってしまうところだった。危ない危ない。


「竜人と人間の結婚って結構あるんですか?」


 ふと疑問になったことを聞いた。


「王都では結構あるよ、まあ色々問題もあるんだけどね」

「問題?」

「あー、うん、寿命とかね」


「「寿命……」」


 ディアンもそこは気になったらしく、呟きが重なった。


「竜人は短くても百年以上は生きるからね。長いやつなんか何百年と生きる。だからどうしても竜人のほうがあとに残されてしまう。竜は番が出来ると一生その番とだけ添い遂げるからね。番が死んでしまったからといって他の相手を探すわけじゃない。だから人間と番うとどうしても先にいなくなってしまうことに耐え切れないやつが出てきたりする」


 ルニスラさんはログウェルさんを少し切なげに見詰めた。


「まあ私らはそれも分かってて夫婦になったんだけどね」


「耐え切れないやつって……その人たちはどうするんですか?」

「耐え切れないやつは……、人間の寿命が終わるころに一緒に寿命を終えることを望むやつがいるな……」

「一緒に寿命を終える……」


 アンニーナは小さく「えっ」と口に手をやり呟き、全員が無言になった。


「そ、そんなにしんみりしないで! そんな悲しいことじゃないんだよ! やっぱり一人生きていくのが辛いと思った竜人は寿命を終えることを望むが、一緒に逝くことが出来ることに喜んで幸せそうに最期を迎えているよ」


「それだけ竜人は長い時間を生きるから。終わりのときくらい自分で決めたいと思うのかもね」


 そう言ったルニスラさんは切ないような、寂し気なような、しかしどこか安心するかのような微笑みを見せた。

 今まで多くの竜人たちの死を見てきたのだろうか。それとも親しい竜人の死を見たのだろうか。ルニスラさんはログウェルさんとの人生に強い覚悟があるのだな、と感じた。


 ルニスラさんとログウェルさんは見詰め合って、お互いフッと笑い合った。


 良い夫婦だな。お互い信頼し合っているんだろうな。羨ましい、俺もそんな相手が欲しいよ……まあ、モテないから無理なんだけどね……シクシク。

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