第三十五話 寮

 寮の中へと足を踏み入れると、広いエントランスには先客がいた。


「あ、フェイ」


 あのとき一緒に合格発表をされていたネヴェルもいる。


「あ、リュシュ、君も寮の説明を聞きに?」

「あー、うん、フェイたちも?」

「うん、さっきまで女性陣も一緒に竜騎士見習いの説明を聞いてたんだ。アンニーナは女子寮の説明を聞きに行ったよ」


「あ、お前、落ちたやつ」


 グサッ。


「ちょ、ちょっとネヴィル、そんな言い方」

「あ、す、すまん」


「あー、ハハ、良いよ、本当のことだし、ハハ……」


 ネヴィル……馬鹿正直なやつだな……。

 不思議そうな顔のネヴィルになぜ俺がここにいるかを少し説明し、妙に納得した様子だった。


「さて、そろそろ良いか? お前ら同期だな! 仲良くやれよ!」


 ログウェルさんとフェイやネヴィルに付き添っていた竜騎士の人だろう男が、二人してニッと笑った。

 フェイとネヴィルは二階に、俺は三階に案内される。


「二階は全室竜騎士たちの階だな。三階は俺たち育成課と竜騎士が半分ずつほど分けて使っている」


 寮の玄関からエントランスを抜けると建物真ん中には広い中庭があり、ベンチなども置かれ憩いの場のような雰囲気になっていた。三階まで吹き抜けになっているのでとても解放感がありそうだ。


 階段で三階まで上がると中庭を取り囲むようにぐるっと一周出来るように部屋が配置されていた。


「お前の部屋はここが良いか……いや、駄目か?」

「ん? なんで駄目なんですか?」


 どうやら何部屋か空き部屋があるらしいのだが、どれも同じ方角に窓のある部屋らしい。


「んー、まあ仕方ないか。育成課の人数が減っているから部屋は余ってる状態なんだがな。まあ、その、こちら側の窓は女子寮が見えるんだ」

「え!!」

「恐ろしい目に遭うぞ……」

「え! あ、いや! え!? 恐ろしい目って女子寮に入ったらじゃ……」


 女子寮を見ただけで恐ろしい目に遭うわけ!? なんだよそれ!


「女子寮を邪な目で見たものは……」


 ログウェルさんはわざとらしくおどろおどろしく話す。い、いやいや、ちょっと、結局恐ろしい目ってのがなんなのか全く教えてくれないし!


「な、なんですか! 恐ろしい目って!」

「アハハ! 冗談だよ、冗談! 本気にするな、アハハ! ただ……」


 な、なんだ!?


「女騎士たちに半殺しの目に遭うだけだ! アッハッハッハ!!」


「…………」


 ガチで怖いやつだった……。




 部屋のなかは簡素なもので、木製のベッド、衣装棚、机と椅子、あとはトイレがあった。うん、いや、最高じゃないか! そりゃ、今まで住んでいたカカニアの家のようにはいかないが、それでも自分で働いて住めるんだ! 最高以外のなにものでもない!


「ほれ、鍵だ」

「あ、ありがとうございます!」


 あぁ、嬉しい! これはかなり嬉しいぞ!


「必要なものがあるならロナス商会に行けば大体なんでも揃ってるぞ」

「ロナス商会?」

「あぁ、他部署の寮との中間くらいの位置かな、ロナス商会の建物がある。ロナス商会はなんでも大体揃ってるからな。食料品や酒、日用品、机や椅子とかの家具やら魔導具。手紙や荷物の配達、その場にないものでもなんでも取り寄せてくれる。街に買いに行かなくても、そこで全てが揃う」


「へぇぇえ、凄いですね」


 手紙かぁ、父さんたちになんとか職に就けたことでも報告しようかな。うん、そうしよう。




 部屋の説明が終わると一階に戻る。


「一階には食堂と風呂場がある。どちらも基本的にはいつでも開いているから好きに使え」


 食堂では同様に部屋の説明が終わったのだろう、フェイとネヴィルがいた。


「あ、リュシュ。リュシュも大体説明は聞き終わったのかい?」

「うん、フェイたちはもうこれで解散なのか?」

「そうみたい。帰って荷造りしないと。明日からお互い寮生活だね、よろしく」

「あぁ、時間はずれるかもしれないけど、会ったときはよろしくな! ネヴィルも!」

「リュシュだな、あぁ、よろしく!」


 ネヴィルは見た目がいかつくて怖そうだが、ニッと笑うと少し幼げに見えた。


 フェイとネヴィルが寮をあとにしてから、ログウェルさんと二人で事務所までの道中、明日の予定を説明してくれた。


「明日朝一で寮に荷物を置いたら事務所まで来い。育成課の詳しい説明をする」

「分かりました」


 事務所に戻るまでに子供ドラゴン……おっと、忘れてた、竜だっけ。子供竜たちの騒ぐ声が聞こえて来た。


『お前変なやつだなー!』

『だよなー、人間なんかに懐いてさ』


『キーア、変じゃない!』


『変だろー』


『変じゃない!!』


「ちょっとあんたたち!! やめなさーい!!」


 ルーサの叫び声が聞こえた。

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