第十五話 魔法
「魔法はどうするの?」
アンニーナが剣の相手をしてくれながら聞いた。
「だよな。魔法を使えないんだろ? どうするつもりなんだ?」
「うーん、そっちのほうが実際問題だよなぁ……」
一応そっちも考えては来た。しかしどうやっても竜騎士に向いているとは思えない戦い方。不合格になる未来しか見えない……。
「魔法は使えない。使えないけれど、他の人が使うのは分かるんだ」
「「使うのは分かる?」」
「そう」
ディアンもアンニーナも意味が分からないといった顔。
「他人が魔力を溜めるのは感じるんだ」
「「魔力を溜める……」」
この国の人々は魔法の使い方をよく分かっていない。誰に教わるでもなく、いつの間にか自然に使えるようになるからだ。
皆、自然にいつの間にか掌から炎が出たり、水が出たり、治癒をすることが出来たり……。使う魔法は様々だが、皆、意識せずに自然に使っている。
俺は自分が使えないからこそ、なぜそんな簡単に魔法が使えるのか、なぜ内なる魔力を外に放出出来るのか、ということを考えた。
必死に人々を観察した。目を凝らして魔法を使う瞬間を観察した。魔法を使うことは出来なくとも、魔力を感じることは出来ないものかと必死だった。
そしてあるときふと、ほんの僅かに何かの動きを感じたのだ。ほんの少しの気配。魔法を使おうとしている人間の掌にエネルギーが集中しているのを感じた。すると予想通り、次の瞬間その人間の手から魔法が飛び出すのだ。
それからは何度もその動きを感じるように集中して観察するようになった。そうすると皆、一様に魔法を使おうとする瞬間、発現させるであろう部位に魔力が集まっていく流れを感じるようになったのだ。
「ということは?」
アンニーナは意味が分からないといった顔。
「なるほど! 魔力が集まる瞬間が分かるということは発現する瞬間が分かるということか!」
「そういうこと」
「え? なに? どういうこと!?」
ディアンは納得していたが、アンニーナはいまだ意味が分かっていない。
「つまり発現する瞬間が分かるから躱しやすくなるということだよ」
「!! なるほど!!」
ようやく理解出来たらしいアンニーナが声を上げた。
「でもそれって……」
ディアンは申し訳なさそうな顔だ。
「うん、躱しやすくはなるけど、所詮躱すだけ。こちらから攻撃は出来ないし、防御も出来ない。俺は逃げるしかないんだよ。ハハ……」
「リュシュ……」
「…………」
諦めの乾いた笑いしか出なかった。
ディアンもアンニーナも同情の目を向ける。居たたまれない気分にはなるが、もう十年で自分のことは理解したつもりだ。これが俺なんだ。誤魔化しようもないし、今さら言い訳をしようとも思わない。
これが「俺」だ。
「だからと言ってさ、諦めるつもりは全くないから」
そう言いニッと笑って見せた。そう、諦めるつもりはない。十年間色々考え試し、必死に訓練してきたことは無意味ではないと思うから。
竜騎士なんて無謀だとは分かってる。でも今までやってきたことは無駄じゃなかったと思いたいから。まだ諦めるわけにはいかない。
「俺は試験を受けるよ」
「リュシュ……、そうだな! 頑張れ!」
「ありがとう、ディアン」
「私は負けないからね! 私こそ絶対竜騎士になるんだから!」
「ハハ、うん、もし模擬戦で当たっても手加減はしないでくれよ」
「あったりまえでしょ!!」
アンニーナとそう言い合い笑い合った。
アンニーナとは剣での模擬戦、そして魔法での模擬戦と、両方の訓練に付き合ってもらった。アンニーナは剣技も素晴らしいものだが、魔法の威力も半端なかった。
さすが様々な武勇伝を語っていただけはある。
ラナカはカカニアで一番の強さを誇っていた。今現在ラナカよりも強い人間は見たことがないが……。アンニーナも負けず劣らずの強さだった。
ラナカは炎を扱っていたが、アンニーナも炎、ディアンは言わずと知れた治癒魔法。
良いなぁ、俺も使ってみたかったな……。いや、いやいや、だからもうそれはさ、この十年で嫌というほど分かってることだから!
アンニーナの魔法をぼんやり眺めながらぼーっとしていると、それを察したのかなんなのか……、キーアに激突されました。
『キーアも炎使えるー!!』
「ぐふっ」
炎を吐き出しながら、思い切り体当たり状態で腹に激突され悶絶。地面に蹲りましたとさ。
死ぬわ!!
そんなこんなで五日間みっちりと訓練し、そして迎えた試験当日……。
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