プリンは好きですか?
修行を開始して3年が経過した。
思い返してみれば、辛い3年間だった。修行を決意したあの日、俺は自宅に着くなり、親にスライディング土下座をした。
『父さん、母さんお願いします! 一人暮らしをさせてください!』
『何言ってるの! うちにそんなお金はないのよ!』
『お金は必要ありません! 山に籠るので、自給自足します!』
『あなたは何を言ってるのよ!』
『まあ、待ちなさい母さん。隼人、なぜ1人暮らしをしたいんだい?』
父さんは俺の話を真摯に聞くため、まっすぐな目で見てくれた。小さい時から、父さんのこのまっすぐな目が好きだ。その誠意に俺はまっすぐな言葉で伝えるのが礼儀というものだろう。
素直に、誠意をもって、僕の想いを。
『まともな職に就くためです』
『『…………………』』
なぜだろうか、誠意をもって伝えたのにその後、説得するまで3日はかかってしまった。
最終的に危険があればマイクロチップが教えてくれるということと、何より俺が無能力であるという境遇を加味して、好きにさせてくれた。
今にして思えば、子供の願いとはいえよく許可を出してくれたものだ。
余談ですが、妹ができました。余談だけどね?
「3年……死ぬ気で特訓はしたけど、どれくらい通用するか……」
正直、普通の人間であれば負ける気がしないほどには僕の肉体も技術も仕上がっていた。筋肉がつきすぎて体が大きくなると無能力者とばれかねないので、筋肉は肥大化させない方法で鍛えた。結果、服を着ると普通の少年といった感じだが、実力は隠し持ったかっこいい感じに仕上がった。
しかし、それでも超能力に勝てる気がしない。
だってあいつら火を吐いたりするんだもん。いくら鍛えても勝てる気なんてしない……。
何度イメージトレーニングをしても、勝てたためしはない。
「やれることはやった……考えても仕方ないか」
どれほど考えても、僕にできることは全部行ったのだ。
きやがれ、化け物ども!
————――――――――――――――――――――――――
「死ぬーーー!!!」
時は進んで、試験会場にて俺は今死にかけている。
進みすぎかな? 少し前に戻ろう。
「ここがメガフロート……!」
羽田空港から2時間、太平洋沖に浮かぶ人工島、ギガフロート『アイビス』。中央にそびえる巨大な建造物が、管理タワー。そのタワーを中心に街が広がっている。経度はちょうど東京と同じになるそうなので、ここには四季が存在する。
「ここが海に浮かぶ人工島には見えないよな……」
このギガフロートには13の学園があり、俺はその中の『青海堂学園』の試験を受けに来た。この学園にして理由は単純で、過去の武術大会での優勝者が1人もいないからだ。武術大会は個人戦と団体戦があるが、青海堂からはどちらも優勝者が出ていない。必然、入学生のレベルは一番低いと予想したのだ。
筆記こそどこの高校でも入れるほどの自信があるが、実技だと誰にでも負けかねないのだ。
課題ばっかりだなあ。
ため息をついていると飛行機はギガフロートに着陸した。
今日はホテルで過ごし、明日の午前中に筆記試験、午後には実技試験だ。
久々の浮世なので、観光したい気分だが疲れを残しても仕方ないので今日はホテルに直行することにした。
「あ、ごめんなさい!」
モノレールに乗るべく、駅に進もうとしたとき、一人の少女とぶつかった。きれいなブロンドがよく似合う、碧眼の少女だ。この島には世界中から学生が集まるが、彼女は欧米の方から来たというのが一目でわかった。
とっさに、倒れそうな彼女の体を支えた。
「だ、大丈夫ですか?」
やべえ、久々の女の子との会話だ……。ついついどもってしまった。
にしてもぬめってる子だな……。
「って、なんだこれ!」
彼女を支えている、俺の腕のから黄色のスライムの様な物体が地面に垂れ流しになっていた。ほのかに甘いこれは……
「プリン?」
「あ、ごめんなさい! ごめんなさい! 能力が暴発しちゃった!」
彼女が状態を直すと彼女と接触していた僕の腕部分の服がなくなっていた。正確には、プリンになっていた。物体をプリンにする能力……なにそれ……。
「ぷっ」
「あー! 笑った!!! 私の能力馬鹿にした!!」
「ああ悪い、ぷぷっ、にしてもプリンに変える能力って」
「また笑った!!」
彼女はみるみるふくれっ面になっていく。
しかし、初対面の人に失礼な態度をしてしまったのは事実だろう。誤らなくては……。
「すみません、プリン女さん」
「あんた覚えときなさいよ!」
そう言って、プリン女は明らかな怒気を放って去っていた。
そのプリン女と再開したのは実技試験でだった。
実技試験の内容は、受験生同士のランダムマッチ。勝敗は関係ないので、重要なのは自分の実力を見せることだ。賢い受験生なら、マッチした対戦相手と協力して自分の実力を試験官に見せることだってできるだろう。要するに実践向きでない派手な演舞ができる。
いかんせん、自分は対人戦一本なので手を抜くわけにはいかない。相手には少し申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「俺の対戦相手は……プリミティ・リンリンってやつか」
女相手とは少々やりにくいが、これも試験だ。南無。
名前を呼ばれて試験会場に入ると、そこには昨日のプリン女がいた。不気味な笑みを携えて。
「やあ、昨日はどうも……」
「ええ、今日はよろしくね」
そして、俺は今死にかけている。
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