第2話 宝石姫は優雅に立ち去る。

 どうしようもない事態ですが、赤毛の王太子は更なる醜態を重ねます。


「そっ、それにお前は、かっ彼女に数々のいやがらせを、し、しただろう! わわわかってるんだぞっ」


 よほど興奮しているのか、泣きそうにさえ見える情けない顔です。

 もともと平均未満の容姿が、見ていられない醜男になってしまってます。


 その場にいた貴族たちは呆れかえりました。

 王太子の目も当てられない駄目さ加減に対してはもちろんですが、それだけではありません。

 宝石姫がエミリーごときに嫌がらせをするなどありえないからです。

 筆頭大貴族である公爵家の子女が、ふけばとぶような子爵家の娘に嫌がらせする必要などありませんから。


 周囲の貴族達は期待しました。

 宝石姫の苛烈な反撃によって、王太子も、エミリーとかいう女も、彼女の実家も破滅することを。

 王家そのものの破滅さえ予感した者達すらいたかもしれません。

 この機会に宝石姫を手に入れよう、嫁に迎え入れようと算段していたものもいたでしょう。


 ですが、真の淑女である宝石姫は、この事態においても淑女でした。


 背を、ぴん、と伸ばして辺りを見回すと、美しい楽曲のような声で告げたのです。


「殿下のご意志、確かに承りました。臣として従うまででございます」


 そして、豪奢なドレスの裾を両手でつまみと深々とお辞儀をすると、優雅に立ち去ったのでした。


 それは、これ以上赤毛の阿呆に恥をかかせまいとする、おもんばかりであったのでしょうか。

 それとも王国一の貴族の子女として、抗弁すること自体が見苦しいと考えたのでしょうか。

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