②登録者数1人の弱小VTuberを、なんで茹でようとしたんですか?
日下鉄男
プロット
◯世界観
舞台は現代日本。
ある日、VTuber『ザリガニ太郎』の元に殺害予告が届く。
犯人はVTuberに憧れる1人の女の子だった。
彼女は何故、
登録者数1人の弱小VTuberに過ぎない自分に殺害予告をしたのか?
困惑するザリガニ太郎に向かって、
殺害予告の犯人、
アルギニンのサプリメント2500mgを飲んだばかりの口で、
こう言った。
「私とVTuberユニットを組んで、バズりませんか?」
◯主要キャラクター
■
性別:男 年齢:17歳 身長:170cm 一人称:俺
【概要】
本作の主人公。高校2年生。
『ザリガニ太郎』という名で個人VTuberをしている。
【容姿】
ボサボサの黒髪。猫背。
全身から陰の者オーラを放つ。
【性格】
イキリ系のコミュ障陰キャ。
一見すると弱々しく見えるが、根はプライドが高く陰険なイキリ野郎。
親しい相手を前にすると根っこのイキリな部分が現れる。
好きな物はオタクコンテンツ全般。
3年前からVTuber沼にハマる。
最推しは企業Vの『
【VTuber活動について】
アバター名:ザリガニ太郎
アバターのデザイン:ザリガニ
リアルザリガニよりもデフォルメされている。
VTuber活動を始めたのは、氷乃ミィカにお近づきになるため。
だが、コミュ障なので配信中は全く喋らない。
本物のザリガニは喋らないので、喋らなくていいと思っている。
【セリフイメージ】
慣れていない相手に対して
「あ、はい……いえ、あ、大丈夫です。はい……」
慣れている相手に対して
「俺の生命活動を邪魔するなよ、雑魚が(イキリザリガニ)」
VTuber活動時:ザリガニ太郎
「……………………」
「……………………すっ(息継ぎ)」
■
性別:女 年齢:16歳 身長:145cm 一人称:わたし
【概要】
メインヒロイン。女子校の1年生(慧とは別の高校)。
慧に殺害予告をした張本人。
母子家庭であり、母親が家にいないことが多いため、
その寂しさを紛らわすためにVTuberを見始める。
結果、Vの世界に憧れを抱くようになる。
【容姿】
銀髪碧眼ツインテール。貧乳。身長はミニマム。
私服は母親が買い与えているが、
母親の『効率重視』思考により、袖余りのぶかぶかなものばかり着ている。
(大きい方が身長が伸びた時に買い換えなくていいから)。
【性格】
メスガキメンヘラ。
慧のことを陰キャ雑魚ザリガニと煽るメスガキだが、
煽った直後に自己嫌悪に陥って死にたくなるを繰り返す情緒不安定な女の子。
好きな物はVTuberコンテンツ全般。
嫌いな物は母親から貰う大量のサプリメント。
【VTuber活動について】
アバター名:イナガキユキ
デザイン:文学少女
黒髪ロングヘア。長い前髪で目元が隠れている。
知的そうな眼鏡を掛け、横に分厚い本が置いてある。
慧とユニットを組むために陽菜が作ったVTuber。
設定された性格は自称『知的な文学少女』だが、
素の陽菜の性格が強く出ており、教養人感はほぼない。
無理矢理難しいことを言おうとしたり、
文学知識の知ったかぶりをして、馬鹿をさらけ出している。
【セリフイメージ】
生身
「わたしの天才脚本を以てすれば、雑魚ザリガニをバズらせるなんて朝飯前です! ……すみません。言い過ぎました。ビッグマウス罪で死にます」
VTuber活動時:イナガキユキ
「三島の金閣寺? も、もちろん読んでますよ! 寺が燃えるんですよね!?」
■
【概要】
慧が惚れている大人気女性VTuber。
企業Vであり登録者数は50万超え。
ゲーム実況や雑談配信が主な活動。
歌配信やカバー・オリジナル曲の歌動画も出す。
【VTuberとしての設定】
300年後の未来からやってきた未来人という設定。
年齢は16歳(未来時点で)。
彼女の元いた未来は災害疫病戦争のトリプルコンボで終わっているので、
崩壊した未来を救う手がかりを得るために現代へとやってきた。
【容姿】
ウェーブのかかったセミロングの金髪。
身長142センチの小柄な体型。
売れっ子イラストレーター描き下ろしのクソカワ美少女。
頭にはカチューシャをつけ、黒の魔女風ローブを着ている。
未来人設定なので、カチューシャもローブも色味や質感がサイバー。
ゲーミングPCみたいにピカピカ光る。
【性格】
美少女の皮をかぶったおっさん。
好きな物はラーメンと女体観察。
未来人なのに都内のラーメン屋についてやたらと詳しい。
ゲーム配信で美少女キャラが出ると「一緒にお手手繋ごうね」とキモい発言を連発。
未来の世界を救うために来た未来人という設定を度々忘れ、
「早く未来救え」とリスナーによく突っ込まれる。
リスナーのことは「オタ猿くん」と呼んで馬鹿にしている。
未来人からしたら現代人は全員猿にしか見えないから。
(そういう時だけ未来人設定を思い出す)。
歌が上手く、たまに歌配信や歌動画を出した時は、
普段と違って、透き通るような美しい歌声を披露する。
その度に「氷乃ミィカの清楚な妹が現れた!」とリスナーにいじられる。
クソカワ美少女のガワと声から繰り出されるおっさんムーブ+歌の時だけ清楚になる二重ギャップが受けて、大人気Vとなった。
【中の人について】
名前:
性別:女 年齢:17歳 身長:162cm 一人称:私
氷乃ミィカの中の人。高校2年生の女の子。
黒髪ロングヘア。長い前髪で目元が隠れている。
細身だが胸でかく、太もも太し。
灰色の長袖ブラウスに黒のロングスカートという彩度と露出の低い装いを好む。
その外見は何故か、
陽菜のVTuberである『イナガキユキ』のデザインと似ている。
【性格】
陰キャ。慧と違ってイキリ要素もない完全無欠のコミュ障ド陰キャ。
自己評価が低く、常にマイナス思考。だが勉強はできる優等生で、
何かを始めるときは徹底的にリサーチとインプットを行う。
氷乃ミィカを始めた時も
与えられたミィカの設定を徹底的に分析・研究し、
理想のミィカに成りきった。
【セリフイメージ】
中身
「あ、ご、ごめん……リアルで、ひ、人とお話するの、ひ、久しぶりで……」
VTuber活動時:氷乃ミィカ
「どん兵衛うめえ。こんなうめえもん食ってたら世界救う気無くすわ!!」
◯物語構成
・全7章構成(文庫1巻、約12万文字を想定)。
【プロローグ】
ある日、主人公、葦原慧は殺害予告を受ける。
その日は、VTuberのザリガニ太郎として配信活動をしていた。
『震えろザリガニ。4月15日にお前を茹で殺す』
日課のゲーム配信中、チャット欄にそんな予告が。
何かの悪戯かと思ったが、同一垢からのチャットは続く。
『茹で死にたくなかったら、15日の0時に城崎台公園に来いby氷乃ミィカ』
それを見て怒りがこみ上げる慧。
氷乃ミィカは大人気Vであり、慧の最推しだった。
その名を騙って自分に殺害予告をするなんて許すまじ。
心のイキリが恐怖を上回る。
15日の0時は今から35分後。
慧は配信を中止して指定された場所に向かう。
城崎台公園は慧の地元の公園。
到着した慧は、女の子を見つける。
彼女は手にナイフ等は持っておらず、無防備。
女の子は自分が殺害予告の犯人だと言い、自己紹介。
名は、三見陽菜。年齢は16で、慧の1つ下。
陽菜は自分のスマホ画面を見せる。
そこには陽菜のVTuberアバター『イナガキユキ』のイラストが写っていた。
それは、まだ初配信も行っていない、作ったばかりのアバター。
次いで陽菜は唐突に水筒を取り出し、
中に入っているアルギニンのサプリメント2500mgを飲んでから、
意を決したように口を開き、
「私とVTuberユニットを組んで、バズりませんか?」
と慧を誘った。
【1章】
なぜ自分に殺害予告をしたのか。
なぜ自分とVTuberユニットを組みたいのか。
その2つを問う慧に、どっちも理由は言えない、と陽菜。
そんな相手とユニットを組むなんて無理でしょ、となる慧に、
氷乃ミィカに近づきたくないんですか、と陽菜は言う。
慧の推しがミィカであることを陽菜は知っていた。
理由は慧が『ザリガニ太郎』用のTwitter垢でミィカに応援リプしたり、いいね欄がミィカまみれだから。
陽菜「あなた、わかりやすすぎです」
だからあの時、ミィカの名で俺を誘い出したのか。趣味が悪すぎると慧は引く。
二人でユニットを組んで人気Vになれば、
ミィカとコラボしてお近づきになれるチャンスも生まれるはず。
だから自分と組もうと説得してくる陽菜に対し、慧はそれでも首を縦に振らない。
すると陽菜は、
「あなた、童貞ですよね?」と言う。
もう外見から喋り方から全部童貞にしか見えないと。
そして彼女は、もし半年以内に登録者数が30万いかなかったら、
罰ゲームでわたしを犯してもいいですよ、と宣言。
バズれば推しV。バズらなければ童貞卒業。
陽菜「どっちに転んでもお得でしょ?」
この女、頭がおかしい。
慧はそう思った。
そんな頭のおかしい人間が何故か自分に殺害予告をしてきて、
自分と同じ地元の人間で、
そんな女の前に生身で出て行って、身バレされた。
謎だらけの危険人物。もし今断って危害を加えられたら最悪。
慧は、自身の安全のために彼女の要求をいったん吞むことに。
受け入れた振りをした上で、こいつの動向を探り、
自分に危害を加えようとしてきたら、その時は警察に突き出せば良い、と。
自己保身のためと言い聞かせる慧。
だが同時にこうも思っていた。
この頭がおかしい状況を楽しんでやろう。
その先にもしかしたら本当に、
ミィカに近づけるチャンスが訪れるかもしれない、と。
こうして、殺害予告の犯人と被害者は、
VTuberユニットとして始動することになった。
翌日。ディスコードに通知。交換した陽菜のアカウントから、長文が来る。
そこにはユニットを組んで配信活動をやるにあたっての台本が書かれていた。
彼女の持つ『イナガキユキ』のアバターは、初配信もしていない。
そんな人間にいったいどんな台本が書けるんだ、と半信半疑で読む慧。
しかしそれは、想像以上にまともだった。
台本は『不仲営業』という一文から始まっていた。
恐らく、あなたはわたしのことをまだ警戒して、嫌悪している。
わたし自身もあなたのことは別に全く好みじゃない。
なら無理に仲良くする必要は無く、罵倒しあおう、と。
互いの相性の悪さを逆に利用することによって生まれる凸凹コンビのシナジー。
それを面白さに昇華させる。そんな台本。
これはいけるかもと踏んだ慧は、
ソロのザリガニ太郎配信アカウントを削除し、
陽菜と共同管理のVTuberアカウントを作り直す。
新たなアカウント名は『文学少女とザリガニ』。
そして2人は、ユニットVTuberとして始動。
台本を元に
『文学少女とペットのザリガニ(仲が悪い)が罵倒し合いながらゲーム実況をする』
配信活動を始める。
最初の1週間、登録者数は全く伸びない。
が、とある配信中にザリガニ太郎(慧)が文学少女のイナガキユキ(陽菜)の眼鏡を挟んで割ろうとして、ユキがザリガニをその場で焼いて食って吐き出すギャグをやったワンシーンが切り取られ、バズる。
チャンネル登録者数を一気に伸ばし、1万まで行く。
VTuberの登録者1万という数字は、動画配信サイトでの上位3%。
収益化も通り、勢いに乗った両者は配信量をどんどん増やす。
最初は陽菜という人間に対して警戒心バリバリで、
変な動きを見せればすぐに110番の準備をしていた慧だったが、
彼女のVTuber演出家・台本化としての実力は本物だと認めざるを得なくなる。
じゃあなんでそんな人間が、
俺に殺害予告をしたあげくユニットを組もうと言い出したのか。
その疑問が拭えぬまま、しかし、日に日に盛り上がるコメント欄を見て、
慧は、配信活動を本気で楽しむようになっていく。
【2章】
ある日、配信が始まっても陽菜がディスコードに現れない。
なので、その日はソロ配信をする慧。
アクシデントにあたふたと対応する慧をリスナーは面白がる。
放送後、陽菜からDM。
そこには「水……」という一文と陽菜の自宅住所が記されていた。
慧は陽菜の家に行く。
ドアは開いており、中に入ると陽菜がリビングで倒れていた。額は熱い。
家族は見当たらない。仕方なく陽菜を自室のベッドに寝かせ、介抱。
意識を取り戻した陽菜は、ここ数日体調が悪くて倒れてしまった、と言う。
両親はと慧が聞くと、うちは片親で母は仕事が忙しくていつも家にいない、と。
次いで陽菜はLINEを開き、母親に『日報』を提出。今日1日どう過ごしたか、体に異変はないか、等。こうするとあの人は安心するので、と冷たい声で陽菜は言う。
日報には体調不良のことは伏せてあった。
部屋の中にはサプリメントの類が無造作に置かれていた。
家庭環境が荒れていることを察する慧。
前回の配信は高熱のせいで意識を失って出られなかった、と彼女は慧に謝る。
慧は気にするなと言って、陽菜の介抱を続ける。
夜も更けた頃、熱が下がった陽菜がベッドに寝たまま、慧に問いかける。
「どうして、氷乃ミィカを推してるんですか?」
ここで氷乃ミィカの設定説明。
未来人+性格おっさんの美少女VTuberであること。
クソカワ美少女のガワと声から繰り出されるおっさんムーブ+歌の時だけ清楚になる二重ギャップが受けて、大人気Vへなったこと等。
ミィカが、自分が触れた初めてのVだと慧は言う。
今までアニメや漫画好きのオタクだったが、
それらとは異なり、2次元美少女のガワを被っているのに、中の人の素が思いっきり出てくるVというコンテンツの特徴に慧は衝撃を受けた。
え?未来人設定忘れるの?みたいな。
そのギャップで興味を持ち、ミィカの配信を見ているうちに、彼女の歯に衣着せぬ物言いが、まるで旧知の女友達と接しているような気持ちになって、
その距離の近さが心地よくて、配信を次々見るようになってどハマり。
ミィカの何もかもが好きになる。
慧「俺は女友達が欲しかったんだ」
自分は陰キャで性格も悪くて友達もいなくて、
でも女友達というものに憧れていて、
だから、ミィカは俺の女友達だと慧は語る。
陽菜「よくそんなゲロキモいこと言えますね」
慧「推しを語る口ならば誰にキモいと言われようと止まることはない」
そこで陽菜は本質的な質問を慧にぶつける。
陽菜「ミィカの性格が……中の人の素が思いっきり出てるってどうしてわかるんですか?」
慧「彼女の配信を聞いていればそれくらいわかる」
陽菜「今の配信を聞いても……そう思いますか?」
思わせぶりなことを言う陽菜。
次いで、慧も陽菜に尋ねる。
どうしてVTuberをやろうと思ったのか、と。
陽菜「そりゃあ、わたしもVが好きだからです」
家には〝声〟がなかった。母親はずっと家にいなかったから。
声を求めてネットを漁ってたらVTuberに出会った。
それはアイドルよりも身近で、家族よりも遠い、
丁度良い距離感で声を届けてくれるバーチャルな存在。
VTuberの配信を見てるだけで、寂しくなくなった。
だから、自分もそれに憧れて、
誰かに〝声〟を届けたくなった。
慧「丁度良い距離感……なるほど。お前も女友達が欲しかったのか、俺と一緒だな」
陽菜「一緒にしないでください。あなたほどVに夢は見てはいないので」
互いのVへの想いを吐き出した後、いつものように軽口を叩き合う2人。
この日、慧と陽菜の距離が少し縮まった。
【3章】
それから1ヶ月。登録者は更に伸び、5万突破。
慧は承認欲求の毒に当てられ、毎日エゴサを行い、『文学少女とザリガニ』に対する褒めツイートをスクショで撮るモンスターに進化。
だが、視聴者が増えるのに比例し、アンチコメも増える。
それを非表示・ブロックしようとする慧を陽菜は止める。
アンチを制する者こそVを制する、と陽菜は言う。
後日。配信中、チャット欄にアンチが現れると、
ザリガニとユキは「ほら、お前のせいでコメントが荒れてきたぞ」「あなたのせいですよイキリザリガニ」と互いにアンチを出汁にして面白ネタ喧嘩を始める。
それが功を奏し、更に登録者を伸ばす。
配信後、陽菜の言う通りアンチを利用したら本当に成功したことに驚く慧。
ネットのアンチにお気持ち表明をするとそれを切り取られてさらに馬鹿にされる。
だったら全てをネタにして、数字に変えてしまえ、と陽菜は言う。
その後も、陽菜は登録者数を伸ばすために様々な配信作戦を駆使。
ショート動画の切り抜き師利用作戦や
流行のゲームを使って、他の配信者がやらないネタ配信作戦等。
それが功を奏し、登録者数はついに10万に。
動画サイト全体の0.4%まで上り詰めた2人。
そのタイミングで、陽菜が慧の推しに言及する。
陽菜「たぶん、氷乃ミィカの攻略ルート、解禁間近ですよ」
陽菜に促され、慧がザリガニ太郎名義のTwitter垢でミィカにリプライをすると、
今までと違って、返信が来るようになる。
「向こうも数字を見てますから」と陽菜は嫌悪を含んだ調子で言う。
慧がミィカにDMをすると、そっちにも返してくれるようになる。
そのDMの中で慧と陽菜は、ミィカからV界隈の大型コラボに誘われる。
ついに、慧は推しVに近づくチャンスを得た。
慧と陽菜はミィカや他の人気VTuberが集団で集まる大型コラボイベントに参加。
それは人気のレースゲーム(※元ネタマリカー)を人気V50人が競い合うというもの。
事前の練習試合で慧はミィカがいるグループに振り分けられる(陽菜は別グループ)。
12人のVで練習試合兼雑談。全員ライブ配信も行っている。
だが、慧は推しVの前ということもあり、コミュ障を発揮して話の輪に入れない。
ついに慧はディスコードをミュートにし、リスナーと会話を始めてしまう。
そんな彼にミィカが声を掛け、話題を振ってくれる。
ミィカへの好感度が更に上がる慧。
慧のリスナーも「陰ガニに手を差し伸べる陽未来人の図」「今日のミィカはおっさんじゃなくて陰キャに優しいギャルじゃん!」と各々の言葉でミィカを賞賛し、ザリガニ太郎(慧)をいじる。
練習試合中、ミィカは元々ゲームがうまくないため、常に最下位。
しかし本人はマイペースに楽しんでいる。
そんな彼女に慧は意を決し、ディスコード経由でDM。
このレースゲームを慧はやりこんでいたので、コツを教え、ミィカから感謝される。
これはいけるのでは、となった慧は、今度一緒に配信外でこのゲームやりませんか。本戦までにより詳細な攻略法を教えますよ、とDM。
ミィカから返信は返ってこなかった。
練習試合コラボが終わった後、
ミィカから返信が無かったことを慧が陽菜に伝えると、
「距離の詰め方おかしい! 優しくしてくれた女が自分に気があるとすぐに勘違いするオタクくん丸出し!」と駄目出しされ、馬鹿にされ、最後は笑われる。
だが、そのタイミングでミィカから「いいよー」とDMが来てしまう。
一転、舞い上がる慧。
一方、陽菜は、ふん、良かったですね、と嫉妬しているかのような態度を示す。
後日。約束の日。慧はミィカと配信外でレースゲームをする。
慧は有頂天。ここが人生のゴールか、となる。
最初は我慢していたが途中から辛抱溜まらなくなった慧は、
ファン目線でミィカのこれまでの配信活動についての思い出を語り出す。
3年前のデビュー当時から自分はミィカを推していたこと。
デビュー初期のアクシデントやバズった配信等の思い出。
それを聞いたミィカも、あの日は裏でああいうことがあった、と当時の内情をこっそり慧に語ってくれる。それはもう詳細に。まるでメモでも取っていたかのように。
自分の過去配信をここまで覚えてるなんて、やはりミィカの配信にかける情熱は本物だと、慧は更に彼女をリスペクト。
そんな中、ミィカは慧にリアルで会わないか、と言い出す。
推しVとオフをして中身と対面することへの複雑な心情を抱く慧。
葛藤の末、慧はミィカとリアルで会うことに。
配信無しのオフコラボ当日。
待ち合わせ場所にて、中の人への想像を巡らせる慧。
とはいえミィカ自体が中の人の素がいっぱい出てる配信者だから、
きっとおっさんみたいな女の人が来るのだろうと思って、待つ。
が、やってきた中の人は、黒髪ロングヘアの目隠れ女子。
配信中のミィカの性格とは全く異なる――コミュ障ド陰キャだった。
【4章】
コミュ障を発揮したミィカ(中身)と慧は
互いに言葉の始めに「あっ」をつけて会話にならない会話を繰り返す。
最終的に、テンパりまくった両者は自分の本名と年齢を言ってしまう。
慧は深呼吸してようやく冷静さを取り戻し、
未だ「ご、ごめんなさい」と何故かひたすら謝り続ける彼女を落ち着かせ、
同い年だし、敬語じゃなくていいと言う。
その時、結心の外見に慧は妙な既視感を抱く。
その後、2人はレストランで食事。
食後、何かを決心する結心。
慧は結心にラブホテルへと連れて行かれる。
すわ、エチエチタイム突入かと思った矢先、
結心は慧をベッドに押し倒すと、その首にナイフを突きつける。
そして、言う。
結心「わ、私からミィカを、う、奪わないで……」
次いで、どうしてあなたの側にあの女(イナガキユキ)がいるのか、と結心は尋ねる。
ユキ? 陽菜のことか。それがどうした。あとナイフ怖いからやめてと言う慧に、
あの人は、ま、前の、だから、と結心は呟く。
直後、慧と結心がいるラブホの一室に陽菜が乱入。
陽菜は結心に跳び蹴りをかまし、慧を助ける。
結心は背後へと吹き飛び、ナイフを落とす。
次いで、陽菜はナイフを拾おうとする結心へと飛びかかり、押さえつける。
組んずほぐれつする両者。
今のミィカは私。邪魔しないでと叫ぶ結心。
そこで、真実が明かされる。
実は氷乃ミィカの『最初の中の人』は陽菜だった。
結心は2代目のミィカ。
事務所が1年前にユーザーに何の告知もせず、
サイレントで中の人を変えていたのだ。
新しくVTuberを始めたのは、私に復讐するためですよね、と結心は陽菜に言う。
復讐。そんなわけあるか。Vの転生なんてよくある話だ、と返す陽菜に対して、
「じゃあなんで私の外見に似せているんですか……!」
と結心は続ける。
結心と初対面時の既視感の正体を慧は理解する。
黒髪ロングヘア。長い前髪で目元が隠れている。
眼鏡は掛けていないが、それ以外の結心の外見要素は、
陽菜のVTuberである『ユキ』そっくりだった。
1代目と2代目。ふたりのミィカは組んずほぐれつを続ける。
そんな両者を引き剥がす慧。
次いで結心に詳しく事情を訊く。
結心はぽつりと語り出す。
慧と陽菜がユニットを組んで登録者数を伸ばした辺りで、
結心は『文学少女とザリガニ』を知った。
配信でユキの声を聞いて、即、初代ミィカだと分かった結心はガクブル。
ユキの外見があまりにも自分に似ている。怖い。
ミィカを奪った自分は彼女に復讐されるかも。怖い。
そう思った結心は、陽菜の本意を探るべく、先に相方である慧に近づこうとした。
(陽菜にいきなり近づくのは怖いので)
慧のDMに応じ、大型コラボに誘い、リアルで会おうと言い出したのもそのため。
全ては慧の背後にいる陽菜が自分に何をするか探りたいから。
もしかしたら慧も陽菜の復讐の片棒を担いでいるかもしれない、というのもあった。そうして、慧に近づけば近づくほど、結心の疑心暗鬼は膨らみ、
ついには彼にナイフを突きつけるに至った。
真実を吐露した結心は続けざまに、
今は私がミィカなんですと叫んで、ラブホから飛び出す。
ラブホの一室に残された陽菜と慧。
その時、フロントから内線電話が掛かってくる。
結心は蔑んだ目で慧を見下ろし、言う。
陽菜「延長しますか?」
陽菜は慧を自分の家に連れて行く。その日も陽菜の母親はいない。
自室で陽菜は、
『事務所から借りっぱなし』のミィカのモデルデータをPCから読み込み、
かつてのバーチャルな
トラッキングされた動きや言葉遣いは、慧が初配信から追っていたミィカそのもの。
陽菜は「どうして今まで、2代目に変わってたことに気づかなかったんですか?」
「あなた、わたしが最推しだったんですよね?」と慧に冷たく問う。
陽菜は全てを明かす。
何故、慧に殺害予告をしたのか。
何故、慧と組んで『イナガキユキ』としてバズろうとしたのか。
陽菜「藤村結心が恐れていたことは、概ね当たりですよ」
1代目のミィカを事務所から辞めさせられた陽菜は、
2代目とそれを擁する事務所への復讐を決意。
ユキとしてバズって、登録者が30万に行ったら、
配信中に自分が1代目ミィカだとバラして、大炎上させてやろうとしていた。
ユキのデザインを結心に似せたのも嫌がらせだと陽菜は言う。
お前がミィカを奪ったのだから、わたしもお前の中身を奪ってやる、と。
なぜその復讐に自分を付き合わせたのか、と問う慧に、
あなたのザリガニ太郎がわたしのユキとユニットを組んだら、
変な化学反応が起きてバズりそうだと思ったからが半分。
もう半分は、あなたも結心や事務所の人間と同じくらい許せなかったから、と返す。
陽菜は慧のことをミィカ時代から知っていた。
Twitterで自分に何度もファンリプするザリガニ太郎というアカウントがあったことを。そのアカウントが個人でVTuberをやっていることや
ザリガニ太郎の中身がどんな顔をしていて、どこに住んでいるかも。
ミィカ時代に陽菜はリアルイベントを行ったことがある。
ミィカのガワを着て、
会場でモニター越しにリアルファンと1対1でお話するイベント。
そこにやってきた慧は自分をザリガニ太郎の中の人だと紹介。
ついでに本名と住所を暴露した。
推しの前でコミュ障を発揮した慧は、何を話せばいいかわからなくなった結果、
自分の個人情報をさらけ出してしまったのだ。
慧が自分の家の近場に住んでいるとわかった陽菜は、
あの日。慧に殺害予告をして、近所の城崎台公園に呼び出した。
ザリガニ太郎のアカウントは、
陽菜から結心に中身が入れ変わった後も、
ミィカにファンリプを送り続けていた。
そんな彼を陽菜は許せなかった。
陽菜「わたしを忘れて2代目に夢中になっているあなたを茹で殺したかった」
殺害予告は陽菜の本音。
でも殺すのは犯罪だから、
茹で殺す代わりに30万登録後の暴露配信で、
慧にも初めて自分が1代目のミィカだと伝え、
それでも慧は納得できずに尋ねる。
ミィカファンはたくさんいるはずだ。
何故自分が選ばれたのか、と。
それに対し、陽菜は、
あなたがソロでザリガニ太郎の配信をしていた時、
登録者が1人だけいましたよね、と尋ねる。
弱小VTuberだった頃の慧のチャンネルの
唯一の登録者。
それは自分だと陽菜は暴露。
それを聞いて、慧は思い出す。
自分もミィカデビュー時の1人目の登録者だったことを。
たまたま動画サイトを見ていたら、新着でミィカのアカウントができていて、
そのイラストを見た瞬間、びびっと着て、登録した過去。
初登録者になってしまったあなたは、
わたしにとってのミィカリスナー代表です。
リスナーに対する恨みは全てあなたに集約されます、と陽菜は理不尽なことを言う。
まだ復讐を続ける気かと問う慧に、
陽菜は当然じゃないですか、と自暴自棄に答える。
その時、陽菜の家に『氷乃ミィカの事務所のマネージャー』がやってくる。
陽菜のPCに眠っている氷乃ミィカのモデルデータの削除をしに来た、と言って、
マネージャーは陽菜の家に上がり込む。
陽菜は慧を部屋のクローゼットに隠す。
部屋に入るなり、マネージャーは契約書を陽菜に見せて、言う。
あなたは弊社と契約が切れているので、
貸与しているミィカのデータを削除しないのは契約違反云々。
何度連絡しても削してくれなかったので、強硬策に出た。
マネージャーは、陽菜の母親に諸々の許可は貰っていると言う。
中に上がって陽菜のPCにあるミィカのデータを削除させようとするマネ。
それを拒否ってマネの足に縋り付きギャン泣きし、駄々をこねる陽菜。
氷乃ミィカの設定は全部わたしが考えた。ミィカ時代の配信や動画台本もほとんど自分が作ってたのに!ミィカがバズったのはわたしのおかげなのに!と叫ぶ。
クローゼットの中からそれを聞いた慧は、
氷乃ミィカの性格は中の人の素ではなく陽菜が作ったものだと知る。
――陽菜「ミィカの性格が……中の人の素が思いっきり出てるってどうしてわかるんですか?」
あの日、陽菜に言われた言葉。
つまり、ミィカがバズったのは、陽菜の脚本力の賜物。
慧と組んで以降の配信台本も全て陽菜が作っていた。
どうりで台本作りが上手かったわけだ、と慧は理解する。
抵抗空しく、ミィカのデータは削除される。
陽菜の家から去る間際、マネージャーは言う。
「先程、藤村さんから連絡がありました。三見さん。弊社の『知財』である『氷乃ミィカ』に損害を与えた場合は訴えますので、そのつもりで」
マネージャーがいなくなった後、クローゼットから出てくる慧。
陽菜は慧に、この寸劇をどう思うか、と問う。
いや、会社のデータを返さないのはお前が悪いだろ、と慧。
そこは流れ的にわたしを庇うところでは!?と陽菜は突っ込む。
殺害予告だとか会社の貸与品返さないだとか、やることが極端なんだよ、メンヘラか、と慧。
そうです。幻滅したでしょ。ミィカの中の人がこんなメンヘラ女だなんて、と陽菜は自嘲。
いや、と慧は首を振り、
一息置いてから今日判明したあらゆる真実に対する、本音をぶちまける。
幻滅したのは俺自身だ。
お前がミィカの設定を作ったと言ったな。
つまりお前が俺の推しを作ったというわけだ。
そう言って慧は男泣き。その涙には嬉しさも含まれていた。
ミィカは俺というリスナーを知っていた。
初登録者であることもリアルイベのことも覚えてくれていた。
最推しVからの認知。これを喜ばずして何を喜ぶ。
だが、俺は最推しの変化すらわからなかった、と涙ながらに後悔し、拳を床にぶつける慧。
人の家の床を殴るな、と陽菜は突っ込む。
どうすればいい。情報量が多すぎる。頭がパンクしそうだ。
ミィカが2代目に変わったのは1年前。
でも、今のミィカも好きだ。
中の人が変わったからといって今のミィカを否定するのはおかしい。
だって俺は今のミィカの配信も楽しんでいるのだから。
だから、俺はどうすればいい、と心情を吐露し、鼻水を垂らして泣きじゃくる慧。
陽菜はカシミアの柔らかいティッシュを持ってくると、
「はい、鼻ちーん」と言って慧の鼻にティッシュを当てる。
推しVの中の人に鼻を拭いて貰う慧。
「鼻水、出し終わったら帰って下さい」
陽菜は、冷たく言い放つ。
「わたしはもうミィカじゃないし、あなたはもうわたしのリスナーじゃありませんので」
【5章】
陽菜に連絡が通じなくなり、
『文学少女とザリガニ』は休止状態に。
コメント欄には復帰を望むリスナーの声が連なる。
それを見ながら一人で配信すべきか悩む慧。
ザリガニ一匹で何ができる。自分は陽菜におんぶに抱っこだったと気づかされる。
その時、SNSで1つの言葉がトレンド入りした。
『ミィカ交代』
ミィカがサイレントで2代目になったことがついに世間バレ。大炎上。
慧も含め、ミィカのリスナーは交代から今まで、陽菜と結心の区別がついていなかった。でもそれが世間に広まった瞬間、リスナーは最初から知ってたとばかりに手のひら返し。
あらゆる誹謗中傷が2代目(結心)と事務所を襲う。
その炎上に対して事務所がやったことは、
2代目の結心を解雇にして、1代目の陽菜を復帰させることだった。
復帰のお知らせがネットに掲載される。
その直後、陽菜から慧に電話が来る。
久しぶりに話すと、陽菜は「勝った。ミィカを取りもどした」と電話越しに慧に伝えるが、どこか無理してる感がある。
ミィカの交代劇が世間に知られたのはリスナーが気づいたからではなく、
事務所を辞めた人間による内部暴露だった。
それは結心も望んでいなかった事態。
陽菜「なんか私のミィカなのに私が奪ったみたいな気分に陥るんですよ。なんですかこれ」
ミィカに戻れたことを喜びたいのに、
結心への罪悪感やリスナー・事務所への不信感等で陽菜の感情はぐちゃぐちゃ。
それでも強がる陽菜。
予定とは違ったが復讐完了。結心は解雇。自分はミィカに復帰。
陽菜「やったぜばーかばーか!ミィカはもう誰にも渡しませんよ!」
慧「……本当にそれでいいのか?」
陽菜「いいに決まってます!なんですか葦原さん嫉妬ですか!」
もう慧と組んでユキには戻らない。お前はひとりでザリガニ太郎やってろばーかばーか、と陽菜は更に強がる。そんな彼女に慧は優しく声を掛ける。
慧「体調、気をつけて頑張れよ」
陽菜「……ばーかばーか」
翌日。解雇された2代目の結心が、
悪質なネット民によって、顔や住所を晒されてしまっていることを慧は知る。
心配になった慧は結心の住所が書かれた場所に向かう。
ネット民が結心の家の前で悪戯をしている現場を発見。
慧は警察に通報。結心を助ける。
警察署で一緒に被害届を書き、帰りに喫茶店に寄って結心と話す慧。
そこで結心から氷乃ミィカへの熱い想いを語られる。
自分がミィカのファンだったこと。2代目のミィカに選ばれた時、散々悩んだがせめて自分がファンに解釈違いと言われないミィカになろうと、全力で1代目をコピーすることに決めたこと。結心の持っているタブレットのメモには、ミィカの初配信時から今までの全動画についての文字起こしやTwitterのつぶやき等、氷乃ミィカの全情報が記されていた(慧には見せられない内部情報もまとめられている)。
徹底した分析によってミィカを完全にトレースできた結心。
偽物よりも本物らしい偽物。だから1年もの間、交代がバレなかった。
努力の賜物。慧は結心を素直に賞賛する。
結心はそれでも自分は陽菜に悪いことをした、と反省。
ネットの意見を見る限り、自分が2代目になったことはやはり間違いだった、と。
後日、陽菜はミィカとして1年ぶりの復帰配信を行う。
だが、炎上は止まなかった。
理由は復帰した陽菜のミィカが、昔の陽菜が演じたミィカと異なっており、
リスナーから「お前〝も〟本物の中の人じゃない」と言われてしまったため。
陽菜は、昔のようにミィカが演じられなくなっていた。
ブランクのせいでチューニングができなくなったと考えた陽菜は、
慧に助けを求める。
あなたの推しであるミィカの解釈をわたしに教えてください、と。
慧は裏で陽菜用のミィカ台本を作ることに。
初期のミィカはこういうキャラで、
このゲームをする時はこういうリアクションを取っていた等。
自信はあった。ミィカへの解像度は誰にも負けない。
陽菜の台本を見ていたことで、
慧自身の執筆能力が向上していたこともあり、彼の台本が陽菜を助ける。
結果、陽菜は初期ミィカの再演に成功。
リスナーもついに本物のミィカが帰ってきたと満足し、炎上は止む。
が、慧の台本がないと陽菜は配信ができない体になってしまう。
慧も最推しのミィカ(陽菜)を自分の台本で操ることができるという状況にいけない快楽を感じてしまう。
結果、両者――共依存へ。
【6章】
プレッシャーに苛まれ、日に日にやつれていく陽菜を前に、慧は正気を取り戻す。
慧は今の共依存関係のままではいけないとなって、台本担当から降りようとする。
慧の台本だけだと過去のミィカの再演にしかならず、
再生数が次第に落ちてきているのも理由の1つだった。
(それに対して事務所もまともなフォローができず)
慧が台本担当から降りたいと陽菜に連絡すると、
陽菜は慧を城崎台公園に呼び出す。
時刻は0時。真夜中の公園のベンチで、陽菜は慧を押し倒す。
陽菜「罰ゲーム、覚えてますか?」
『文学少女とザリガニ』で半年以内に登録者数が30万いかなかったら、
陽菜を犯してもいい。
もうすぐ半年が経つ。『文ザリ』の現登録者数は19万。
ミィカ復帰後の文ザリは休止中だから、登録者はもう伸びない。
だから罰ゲームをしてもいいと陽菜は言う。
その変わり、ミィカの台本を続けてくれ、と。
慧は陽菜に本音を言う。
今のミィカは俺の台本(解釈)通りに動いてるだけの人形だと。
ブランクだけのせいだけじゃない。
今の陽菜は自力で面白いミィカを演じる気がまるで感じられない、と。
慧「お前、俺と一緒にユキを演じてた頃の方がよっぽど生き生きしてたぞ」
その言葉を聞いた瞬間、陽菜は慧を押しのけ、逃げ出す。
残された慧はトボトボと夜道を歩く。
どこを歩いたかもわからない。
いつの間にか雨が降り出し、視界が遮られる。
気がつけば慧は、藤村結心の家の前で倒れていた。
結心が倒れた慧を自宅に連れ帰り、介抱する。
ここから陽菜視点パート。
陽菜は自室で一人、久しぶりにユキのアバターをオフラインで動かす。
そこで慧との配信の日々を思い起こし、陽菜は気づく。
今の自分は、ミィカよりユキでいたいんだ、と。
自分の気持ちに気づいた陽菜は慧に電話。
慧は電話越しに言う。今、結心の家にいると。
「寝取られやんけ!!!」と陽菜は叫ぶ。
ここから慧視点パート。
時間が少し戻る。
結心の家で目覚める慧。何があったのかと問う結心に、
陽菜がミィカに復帰してから今まであったことを伝える。
(陽菜に性的に襲われたことは伏せる)
それを聞いた結心は慧の作ったミィカ台本を見る。
そして、最初は遠慮がちに、途中から情熱的に駄目出しと、
代案のテキストをその場で作る。
その代案が全て面白い。
結心はミィカを演じたい気持ちが未だに強くあるのだと慧は気づく。
陽菜も結心の家にやってくる。
部屋に通された陽菜は「浮気者」と言って、慧を睨み付ける。
次いで陽菜は結心の部屋にある、
ミィカについて書かれた大量の資料+先程作った台本の代案を見つける。
それらを読んで、結心のミィカに対する想いを知った陽菜は、問う。
今のミィカ(わたし)はあなたの目からどう映るか、と。
エアプです、と結心は言う。
陽菜は慧を誘う。
今からイナガキユキとザリガニ太郎のアバターで配信しないか、と。
2人は結心の部屋で『文ザリ』配信を開始。PCはないので、スマホで。
限定配信にしているため、リスナーはURLを知っている結心のみ。
唯1人のリスナーである結心に向けた、数ヶ月ぶりの文ザリ配信。
陽菜も慧もとても楽しい。それが結心にも伝わる。
ミィカをやっているときよりイキイキしている、と。
配信している両者を羨ましげに見つめる結心。
陽菜は結心に、ミィカのアバターを着て一緒に配信しないかと誘う。
再び2代目ミィカになり、文ザリの限定配信に加わる結心。
3人のコラボ配信。リスナーは0だけど、慧も陽菜も結心も、
自分の今着ているアバターが一番しっくりきて、
一番自然に、楽しく配信ができた。
配信が終わった後、3人は答えを得る。
慧・陽菜「文ザリに戻りたい」
結心「ミィカに戻りたい」
【7章】
後日。ライブ配信を始めるミィカ。
しかし、様子がおかしい。
発したミィカの声は、男のものだった。
ミィカの中の人が男に変わっていた。
リスナーは困惑し、なんでミィカがバ美肉になってんだ、と怒る。
同時刻。陽菜が顔出し配信をする。
陽菜は自分がミィカの本当の中の人だとリスナーに伝え、
氷乃ミィカは今、事務所が用意した変な童貞に乗っ取られた、と言う。
ミィカを乗っ取った男――慧は、配信中の陽菜に言う。
俺が本物のミィカ。誰がなんと言おうと俺が本物のミィカなんだ。
もし俺が偽物だというなら、バトルしろ、と。
バトル内容はクイズ。
ミィカに関する様々なクイズに答え、
自分より点数が高かったらこの体を返してやる、と。
陽菜はそのクイズを受ける。ただし1人ではない。
陽菜は自分の配信に結心も呼ぶ。
彼女と一緒にクイズに挑みます。この子はかつて2代目ミィカだったので、良い戦力になります、とリスナーに伝える陽菜。
クイズが始まる。問題の内容は公正を期すために、ミィカのマネージャーが担当。
クイズに挑む陽菜と結心。結果、2人は満点を獲得。92点のミィカ(慧)に勝利。
それでもミィカ(慧)は悪あがき。
体を取りもどしたいなら、ミィカに対するお前らの熱い想いを言え、と強要。
陽菜と結心はそれに応え、お気持ちを表明する。
陽菜のお気持ち表明:
ミィカの設定書を持って事務所に応募に行った過去から現在までの想い。
採用されて念願のVになれて最高だった。わたしが作ったミィカになれて最高だった。配信がめっちゃバズって脳汁ドバドバで最高だった。2代目にバトンタッチした後も、ミィカが忘れられない。だから戻ってきた。
ミィカはわたしのもんだ誰にも渡さない最高!
結心のお気持ち表明:
ミィカの大ファンだった過去。2代目のミィカに選ばれた後、
元のミィカの配信や設定を全部記憶して、口調・行動・ゲーム時の癖とかをコピーして、元のミィカのファンに納得して貰えて、元のミィカの良さをさらに引き出せるような中の人になるために、必死に頑張った。2代目を辞めさせられたあとも、やっぱり忘れられない。ミィカに戻りたい。
本物のミィカを超えられる偽物になりたい!
それを聞いて慧はミィカを2人に返す。
慧がいなくなり、ミィカのアバターは沈黙。
その肉体にどちらの魂が入るか。
陽菜と結心はスタジオで睨み合い、
次いで、カメラの向こうのリスナーに目を向ける。
そして陽菜は、
「ごめん、全部ネタでした!」と暴露。
慧が中の人になってからの展開は、全て台本ありのお芝居。
もちろん、リスナーの大半は既に気づいた上で、それを楽しんでいた。
自分は引退する、と陽菜は言う。
ミィカは大好きだ。でも、他にやりたいことができてしまった、と正直に告白。
次いで、結心を画面の中央に立たせ、改めてリスナーへ紹介。
わたしは、結心をミィカにしたい、もう一度、と陽菜は言う。
全てはリスナーに2代目のミィカを受け入れてもらうための芝居。
陽菜の宣言に対し、最初はアンチコメが湧く。
だがそれをかき消すファンの賛同コメが大量に投稿される。
「ミィカたん、お疲れ様でした!」「2代目さん、よろしくね!」
結心のミィカに対する想いは本物。
さっきのお気持ち表明で、その本音はファンにしっかりと伝わっていた。
次いで、陽菜はリスナーに自分は別のVに転生すると宣言。
どんな子に転生するかは言わない。探してね、と。
それはミィカ交代後も気づかなかったリスナー達に対する最後の意地悪。
それを陰で見守りながら、慧はミィカのマネージャーに電話。
ご協力ありがとうございます。スタジオまでお借りしてしまってすみません。
マネージャーは、弊社のキャラがバズるなら問題無い、と言う。
今日の配信だけで、ミィカの登録者数は1万人以上増えた。
「ミィカをよろしく」
そう言って、陽菜は結心に抱きつき、スタジオから離れる。
スタジオに残った結心がミィカの中に入る。
トラッキングした2代目のミィカは改めて皆に自己紹介。その後に歌配信をする。
それを陰で見守る陽菜と慧。
陽菜は慧に言う。あなたの推し、輝いてますか、と。
最高の推しだ、と慧は返す。
横を見ると陽菜の目に涙が浮かんでいた。
独り立ちする我が子を見守るような、そんな目で
陽菜は自分が作ったバーチャルアイドルを見続ける。
次いで彼女は、
「あの時、殺害予告してすみませんでした」と慧に謝る。
何を今更、と言う慧に、でも犯罪なので、悪いことでした、と陽菜。
そんな陽菜に慧も「今更」なことを尋ねる。
どうして『ミィカ』じゃなくて『文ザリ』を選んだんだ、と。
陽菜「……鈍感ラブコメ主人公がよ」
慧「ん?」
陽菜「なんでもありません!」
そう言って誤魔化す陽菜に慧は言う。
慧「殺害予告をする相手は――生涯、俺だけにしてくれ」
その言葉を聞いた瞬間、
陽菜は涙を拭い、晴れ晴れとした笑顔で
「はい!」と言った。
後日、陽菜と慧は文ザリとして復帰配信。
その配信で、ミィカ(結心)も遊びに来る。
3人でのコラボ配信。
その最中に『文学少女とザリガニ』の登録者数は30万を超えた。
ここで1巻は終わり。
2巻では、陽菜と慧の恋愛的な距離が縮まるのと同時に、結心も慧に急接近。
さらに新たな女性Vも登場し、1巻よりもラブコメ色の強い展開になる予定。
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