act.49「風紀委員と生徒会 その2」

 生徒会のみんなと一緒に観客席へと向かうと――そこには、見知った顔があった。


「げ……あれは……」


 会長もその人物の気付いたのだろう、露骨に眉を顰めた。

 相手のほうも、俺たちが現れたことを認識したのか、こちらに向かって歩いてくる。そして、薄ら笑いを浮かべながら、俺たちに向かってこう言った。


「やぁ……ご機嫌ようだね、生徒会の諸君」


 そこにいたのは――風紀委員長の三峰涼先輩だった。

 そして、三峰先輩の後ろで、俺たちを見ている生徒がもう1人――こちらは、見覚えのない顔だった。


 すると俺の視線が分かったのか、三峰先輩は俺に言った。


「……ああ。芹澤さんは会うのが初めてだったね。この子は、鈴村亜季すずむらあき。風紀委員会の庶務担当で、私のシスターさ」


 三峰先輩からの紹介を受けた少女――鈴村亜季は小さく会釈する。

 彼女の目は、何を考えているのか読み取れない……機械のような目をしていた。


「……三峰先輩たちは、なんでここに?」


 俺が問うと、三峰先輩は当然だと言わんばかりにこう答えた。


「なんでって……観戦しに来たに決まってるじゃないか。可愛い後輩の試合だからね」


 ……そうか。

 考えてみれば当たり前だ。

 全校生徒の注目がこの試合に集まっているのと同じように、三峰先輩もこの試合に注目してるんだ。


 だが、その言葉に噛み付いたのは、あろうことか綾瀬会長だった。

 

「可愛い後輩、ね……アンタに後輩を可愛がる気概があったとは驚きだわ」


「当たり前だろう? ただボクは有能な後輩を選んでいるだけさ。手当たり次第に唾をつけるキミと違ってね」


「なんだとぅ……!?」


 一瞬で周囲が一触即発な雰囲気になる。

 生徒会と風紀委員の仲が悪いのはなんとなく理解していたけど……まさかここまでとは……。


 憤る会長を尻目に、三峰先輩は俺のほうを見た。


「現に、新たなSランクが誕生したと知るや否やすぐに接触を図った手ぐせの悪さは健在じゃないか」


 そして俺に向かって手を伸ばし、ニコリと笑いかけた。


「どうだろう、芹澤さん。今からでも遅くないから、生徒会と縁を切って、風紀委員に来ないかい?」


「なっ……」


 俺が風紀委員にって……何言ってるんだ、この人は……?

 すると会長は、離すまいとするように、俺にぎゅっと抱きついていた。


 ちょ……苦しい……。

 それに、肘のあたりに柔らかいものが当たって……。


「悠里ちゃんは絶対に渡さないよ!! だってもうウチの子だもん!! ねぇ、利世ちゃんと珠々奈も何か言ってやってよ!」


 会長の言葉を受けて、利世ちゃんが続けた。


「三峰先輩……悪いですけど、悠里ちゃんは生徒会の仲間である以前に、友達なんです。だから友達を売り渡すなんで真似はできません。……だよね、珠々奈?」

 

 そして、最後に珠々奈が、口を開く。


「わ、私は別に……でも、もし悠里先輩が居なくなったら……ちょっとだけ寂しいかも、ですけど」


 珠々奈……。

 

 俺も、みんなと同じ気持ちだった。

 確かに、最初の勧誘は強引なところはあったかもしれないけど……それでも俺は生徒会のみんなと出会えて良かったと思っている。


「三峰先輩。あなたの申し出はありがたいですけど……でも私は、生徒会から抜けるつもりはないですから」


 俺がそう言うと、三峰先輩は伸ばしていた手を上にあげて、ヒラヒラと振ってみせた。


「あ、そ……ま、別に答えを急かすつもりはないよ。生徒会に愛想が尽きたら、いつでもおいで。その時は歓迎するからさ」


 そう言うと三峰先輩は、踵を返して歩き始めた。


「亜季。ボクらはあっちに行って観戦しよう。これ以上生徒会の連中といると、空気が不味くなる」


 そんな言葉を残してその場を後にする三峰先輩の後ろを、鈴村という生徒は、ひと言も発さずについていく。

 俺はその後ろ姿を、ただ見送った。


 三峰涼か……。

 綾瀬会長とはまた違った意味でクセの強そうな人だ。

 会うのはまだ2回目だけど、それだけ俺に強い印象を残していた。


「……まったく、アイツの顔を拝まなきゃいけないなんて、ホントついてないよ」


 会長は、三峰さんが去った後も、未だに文句を漏らしていた。


「会長って、三峰先輩のことそんなに嫌いなんですか?」

「そりゃそうだよ。だって私のやることにいちいち難癖付けてくるんだもん」

「なるほど……」


 なんというか、溝は深そうだ。


「……ところで会長」

「なに?」

「そろそろ離れてもらっても良いですか?」


 会長は未だに俺の身体にしがみついていた。


「……もうちょい抱きついててもいい?」

「え?」

「悠里ちゃんに抱きついてたら、気分が悪いのを中和できそうだから」

「はぁ……」

 全然意味が分からないけど……まぁ、それで機嫌が良くなるなら、別にいいか。

 それに……なんというか役得だし。


 そんな感じで試合が始まるまで、ずっと会長に抱きつかれていたのだった。


◇◇◇


「――ねぇ、亜季。会ってみてどう思った?」


 生徒会の面々と別れた直後。

 三峰涼は、後ろをついてくる鈴村亜季にそう問い掛けていた。

 亜季はその問いに、無表情のまま答える。


「芹澤悠里……ですか。確かに、魔力貯蔵量は大きいようですが……正直、涼がそこまで目をかけるほどのものとは……」


 その答えに、涼はチッチと指を振る。


「亜季もまだまだ甘いねー。あの子はまだ、本来の力を全然出してないよ」

「本来の力、ですか……」

「私の見立てだと、本来の力はあの5倍……いや、10倍かもしれない……私はあの子の、全力が見てみたいのさ」


 嬉しそうに口元を綻ばせる涼とは対照的に、亜季のその表情は、無機質そのものだった。


「……ところで、涼」

「ん、なに?」

「希沙羅には……本当のことを話さなくても良いんですか?」

「話すのは無理だね。だってあの真面目な希沙羅に言ったら、間違いなくキレるでしょ。……芹澤悠里を誘き出すのが目的だから、キミはテキトーなところで負けても良いよ、なんてさ」

「……悪役ムーブ全開ですね」

「そう? でも、たまには悪くないかな……自ら悪役を買って出るっていうのもさ」

 

 すると、アナウンスが流れるのと共に、会場中に歓声が産まれる。


「さぁ、始まったみたいだよ。今は純粋に後輩たちの試合を楽しもうじゃないか。だって……2日後の決勝戦は、きっとそれどころじゃ無くなるだろうからね――」

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TSして魔法学院に入学したら、美少女と姉妹の契りを結ぶことになったんですが。 京野わんこ @sakura2gawa1

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