act.40「双子の力」

「――悠里先輩と珠々奈ちゃんは!!」

「……美衣たちが相手」


 俺と珠々奈の前に立ちはだかっていたのは、双子の少女――芽衣と美衣だった。

 え……? 特訓相手って、綾瀬会長じゃなくてこの2人なの……?

 それに、たった今珠々奈が言った言葉も引っかかる。


「ねぇ、2人がシスター契約のエキスパートって……どういう意味?」

「それは――」


 珠々奈が何かを言おうとした時、双子がほぼ同時にステラギアの填められた腕を掲げた。

 

「――実際に見たほうが早いかもしれないですね」

「見たほうがって……」


 なにも知らない俺が見たところで、何が分かるっていうんだ?

 

 双子はそれぞれ掲げた手の中に自分たちの武器を展開していた。

 2人の手に出現していたのは、全く同じ形をした曲刀だった。


「会長には手加減なしでいいって言われてるからさ……悪いけど、全力でいくよ!!」

「美衣たちの手にかかれば……2人とも木っ端微塵」


 なんかすごい物騒なこと言ってんだけど!? 特に妹のほうが!!


「私たちもステラギアを展開しましょう。タダでやられたくはないですから」

「うん……!」


 珠々奈はステラギアを剣の形に変形させる。

 俺もそれに倣って、手に力を込めた。


 この前の成田希沙羅戦で感じたあの感覚……。

 あの感覚をもう一度再現できれば、今度こそ攻撃形態アサルトフォームを呼び出せるかもしれない。

 だけど……何度念じても、あの時の感覚は蘇らなかった。

 

 くそ……やっぱりダメか……。

 あの時感じたあれは……一体何がトリガーだったんだ?

 それさえ分かれば……ちゃんとステラギアを扱えるようになるかもしれないのに。


 しかしこのまままごついている訳にもいかない。

 俺は仕方なく、いつも通りの飛行形態フライトフォームを展開する。


「また飛行形態フライトフォーム? 舐められたもんだね、芽衣たちも」

「……舐め過ぎ」


 うっさいなぁ!

 別に俺も好きでやってる訳じゃないんだっての!


「私はこれで充分なの! いいからさっさと来なよ!」


 俺がせめてもの虚勢で吠えると、双子たちは言った。


「ふーん、別にいいけど……今回はシスター契約と戦うための特訓だから、最初からシスターの力を使わせてもらうけど、いいよね?」

「ちなみに……拒否権はない」


 そして双子は、お互いの曲刀を重ね合わせる。

 それを見た珠々奈は身構えながら言った。


「気をつけてください……来ます!」


「……!」


 何だこの感じは……?

 双子のほうから、何か強い力を感じる。

 これは……恐らく魔力だ。

 まだ魔力を感じ取るのにはあまり慣れていないが、それでも、この双子の発している魔力が強大であることだけは分かる。


 そして次の瞬間――重なり合う2人の武器は、ひとつの巨大なそれへと変貌を遂げていた。


「これが芽衣たちの、シスター契約の力……!」


 そこにあったのは、巨大なひとつの弓だった。

 双子はお互いの曲刀の柄の部分をつなぎ合わせて、巨大な弓へと変化させていたのだ。


 双子のうちの片割れが弓を支え、もう片方が魔力で編んだ光の矢をつがえる。


「「いっけえぇぇぇ――!!」」


 そして、双子は矢を放った。

 放たれた矢は、ものすごいスピードでこちらに向かってくる。

 ってちょっと!! これどうすればいいの!?

 

 ギュウウウウン――!!


 ちょ――待っ――。


◇◇◇


 ――気付いた時、俺は闘技場ではなく、どこかの部屋に横たわっていた。

 あれ……? 特訓は……?

 というか、双子たちは? 珠々奈は?


 俺の周りにはだれもいない。

 あるのは、乱雑と置かれた小物たちと、隙間風の凄そうな壁だけだ。

 背中に伝わる感触から、どうやら俺はベッドの上にいるようだった。ただしその感触は、板のように硬く、お世辞にも寝心地が良いとは言えない。


 起き上がって、周囲を確認してみる。

 数秒間眺めて、俺はようやく気が付いた。


 そこは――以前俺が暮らしていたボロアパートだった。


 やかましい着信音と共に、放置されていたスマホから着信音が鳴る。

 誰からだ……?


 だが、取るのを躊躇する俺の心とは裏腹に、俺はそのスマホを淀みなく拾い上げ、通話状態にして耳に当てた。


『もしもし』


 そして、俺の意思に反して勝手に口が動く。

 するとスマホの向こうから親しげな声が聞こえた。


『あ、もしもし、お兄ちゃん?』


 それは、少女の声だった。

 お兄ちゃん……。

 俺のことをそんなふうに呼ぶやつなんていないはず……。


『おう、どうした?』


 だが俺の口は、さも彼女を知っているかのように動いていた。


 それから、俺と電話の向こうの少女との他愛のない会話が続いた。しかしどんな内容なのかは、何故かほとんど聞き取れなかった。


『ねぇ、お兄ちゃん』


 そして電話越しの声が不意に、改まったように言った。


『……どうした?』


『今度の週末に、久しぶりにお兄ちゃんのところに行ってもいいかな?』


『別にいいけど、いきなりだな』


『実はね、お兄ちゃんに会わせたい子がいるの』


『会わせたい子……?』


『うん。その子の名前は――。私のいちばん大切な――』


 最後だけが、どうしても聞き取れなかった。


 ――だけど俺は、何故かこの結末を知っていた。

 

 約束の週末になっても、この少女は――俺の元に現れることはなかったのだ。

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