act.9「もしかして俺、天才では?」
……それから結局、少女の怒りは収まることはなく。
大した打ち合わせをすることなく、少女はひとり自分の機械のメンテナンスを始めていた。
その背中から、自分に構うなってオーラをビンビンと感じる。
これ以上近づけそうになかった。
てか、俺……何か悪いことしましたかね?
ただ挨拶しただけだぞ?
まぁ、ちょっとだけどもったりはしたが……。
千景さんはそんな少女の様子を見て、大きなため息を吐く。
「はぁ……。この子と速水を会わせるのは、まだ早過ぎたか……」
その口ぶりは、少女が怒った理由を分かっているかのようだった。
「なぁ、千景さん」
「ん……?」
「あの子、何かあったのか……?」
速水。
あの子が、いつだったか千景さんが言っていた、『速水珠々奈』という少女なのだろう。
あの時千景さんは、『速水珠々奈を助けてあげて欲しい』と、そう俺に言った。
ただの勘でしかないけど……今回の激怒が、あの子の抱えている何かに関係あるんじゃないかって……。
すると千景さんは、渋い顔をして、こう言った。
「それは私の口から言うことじゃないわね。どうしても知りたければ……貴女自身で、速水の心を開きなさい」
心を開きなさいって。
簡単に言うけどさぁ……。
「まぁでも、こうなってしまったものは仕方ないわね。今回は、貴女と速水は別々に動いてもらうわ」
おいおい……大丈夫かよ……。
俺が始まる前から言いようのない不安に苛まれていると――向こうで何かの作業をしていた楠木さんが、パタパタとこちらに駆け寄ってくる。
「……芹澤さぁーん! これ、今のうちに渡しておきますね!」
そう言って楠木さんから渡されたのは、金属製のブレスレットだった。
「これは……?」
俺が当然の疑問を口にすると、楠木さんの代わりに千景さんが答えた。
「これは『ステラギア』――魔法少女が、魔法を使って戦うために必要なものよ」
これが……?
正直、ただのブレスレットにしか見えないけど……。
千景さんは、そんな俺の疑問に答えるように言った。
「……それは、魔法少女の意思に応じて3つの形態をとるのよ。腕輪状の『
……なるほど。
これが変化して、あの子が乗っていたみたいな箒型の乗り物になるのか。
外見からじゃ、とてもそんなものに変形する機構を有しているようには見えないが……きっとそれも魔法の力というやつなのだろう。深く考えるのはよそう。
取り敢えず、千景さんに言われるがまま右腕に嵌めてみる。
その金属質な見た目の割には、身に付けているのを忘れてしまいそうになるくらい軽かった。
「似合ってるわよ」
「……そりゃどうも」
千景さんの心にもない褒め言葉を軽く受け流し、俺は尋ねた。
「それで、どうやって変化させるんだ?」
「頭の中で、変化した状態を思い描くのよ。そして――そのイメージを腕輪に注ぎ込むように念じるの」
イメージを注ぎ込む、か……。
試しに言われた通りやってみる。
まずはあの子――速水珠々奈も乗っていた、
あの箒のような独特な形をした物体を思い浮かべる。
そして、腕輪に向かって思いきり念じた。
すると、腕輪は液体みたいに徐々に形を変化させていき――気付いた時には箒型に変化していた。
それを見て、千景さんは感嘆の息を漏らした。
「……へぇ、初めてにしてはやるじゃない」
マジ?
もしかして俺、天才では……?
よぉし。今度はいっちょ、
俺はさっきと同じように頭の中でイメージを構築する。
魔法少女の武器ってどんなのがいいんだろうか?
やっぱり剣が無難か?
でも、この前たまたま見た深夜アニメの魔法少女は、弓で戦っていたような……。
よし! 弓にしよう! やっぱり遠距離攻撃が安定だよな!
弓の形を思い描き、箒に向かって念を込めた。
だが……。
「あれ……?」
箒は何故か、うんともすんとも言わなかった。
おかしいな……念の込め方が悪かったのか?
そう思った俺は、もっと思いきり念じる。
はああぁっ!
……。
はあああああぁっ!!
……。
「――ダメみたいね」
「いや、なんとなくもーちょっとで出来そうな気がしなくもないというか……」
「……は?」
睨まれた。
「……ちょっとでも感心した私が馬鹿だったわ」
……あれ?
もしかして俺、凡人では?
いや、凡人どころか……魔法少女なのにロクに魔法も使えないゴミクズなのでは?
「ま……別に私も初っ端から上手く扱えるとは思ってないわよ。あとは実戦で身に付ければいいわ」
いやいや、こんな状態で実戦なんて……。
あんな怪物、倒せる気がしないんですけど……?
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