TSして魔法学院に入学したら、美少女と姉妹の契りを結ぶことになったんですが。

京野わんこ

act.1「俺が魔法少女って、何の冗談ですか?」

 目が覚めた時、俺は驚くほどに真っ白で無機質な部屋の真ん中に横たわっていた。


 どうやら俺は、ベッドの上に寝かされていたらしい。背中越しの感触から、それだけは分かった。だがそれ以外は、何も分からない。


 横に目を向けると、よく分からない機械が静かに振動を続けていて、そこから伸びる心電図のケーブルのようなものが、俺の肌の至る所に張り付いていた。


 ……俺は何で、こんなところに?

 よく分からない。

 思い出そうとしても、起きたばかりのせいか、記憶がどうもはっきりしない。


 俺はおもむろに起き上がり、身体中に張り付いているケーブルを無理やり引き剥がした。それと同時に謎の機械からビーッとやかましい音がしたが、そんなことはどうでもいよかった。


 何か手掛かりがあればいいのだが……。

 そう思ってベットから降りようとしたところで、俺は違和感に気づいた。


 胸の辺りから、いつもよりも重力を感じるのだ。

 もっと端的に言うならば、胸が重い。


 現在俺は白い病衣みたいなものを着せられていたのだが、その胸元辺りを見ると、何故かそこが異常に膨れ上がっていた。


 な、何だこれ……!?

 俺は咄嗟に、その謎の膨らみをまさぐる。

 すると――。


「……んっ」


 自分の手のひらの感触が、直接伝わってくる。

 え? ちょっと待って、これって――。


 ――おっぱいじゃん。


 俺がその事実に気付いたのとほぼ同時に――この部屋に唯一存在する扉が、きぃ、と小さな音を立てて開いていた。

 そして、そのから現れたのは、ひとりの女だった。


 スーツを着こなした、30代くらいの女。

 美人だが、その美人な自分を分かっていて鼻にかけている感じ。うまく言えないが、そんな感じの女だった。

 女は俺の姿を見るなり、こう言った。


「ようやく起きたようね。寝心地はどうだったかしら」


 その口ぶりから、俺をここに連れて来たのはこの女で間違いなさそうだった。


「どこだよ、ここ? それに……あんたは誰だ?」

「ん?」

 俺が問うと、女は困ったように眉を顰める。その表情に若干の違和感を覚えたが、この女以外に手がかりのない俺は続けた。


「……気付いたらここに眠ってた。ここに来るまでの記憶もすっぽり抜け落ちてる。さっきから体の調子も変だし……あんた、俺に一体何をしたんだ?」

「……なるほどね」

 おれの言葉に、女は妙に納得したように呟いた。


「記憶の混濁が見られる、か……まあ、所詮は試作品という訳ね」

 試作品……?

「……どういうことだよ?」


 すると女は、懐からカプセル剤を取り出す。

「この薬に、見覚えはないかしら?」


 見覚えだって……?

 俺は必死に思い出そうと試みる。だが、やはり何も思い出せそうにない。


「それが……何なんだよ?」

「これは……とある大富豪が、自分の娘を性転換させるために作らせた薬。あるきっかけで、私たちが押収して保管していたのだけれど……ちょうど貴方にお誂え向きだと思って、使せてもらったわ」


 ……は?

 性転換……?

 っていうか、今、俺に使ったって――。


「――信じられないって顔してるわね。だったらほら、丁度良いものを持ってきてるから、自分で確かめてみれば?」

 女は俺に、持っていた手鏡を手渡す。

 俺はそれを受け取って、恐るおそる自分の顔を写した。

 そこに映っていたのは――。


 ――どう見ても俺じゃなくて、美少女だった。


 しかしその鏡に映る美少女の挙動は、俺の動きそのもので……。


 つまり俺は……女になってしまったということ。


 突然のこと過ぎて、頭が追いつかない。

 俺は混乱した頭のまま、女に食ってかかっていた。

 

「な、何で……!」

「ん?」

「何で俺に、そんな薬を飲ませた……!?」


 俺がそう聞くと、女はひどく面倒臭そうに答える。


「あー、うん、まぁ……いきなりこんな薬を飲ませたのは、少しは悪いとは思うけど……そもそもここに来ることを決めたのは、貴方の意志なんだからね?」


「俺の……?」


「幸い時間はまだたっぷりあるし……その辺のことは、追々思い出していけばいいわ。とりあえず、今の貴方に私から言えるのはこれだけ」


 そして――その女は、俺にこう言ったのだった。


「貴方には、これから――魔法少女として戦って欲しいの。そして、あの子――速水珠々奈はやみすずなを助けてあげて欲しい」


 ……さっきから何を言っているのか、全く分からない。

 ハヤミスズナ?

 誰だよそれ?

 それに魔法少女って……俺、男だぞ?


 ……だけど、こんな状況でも、たった一つだけ分かってしまったことがある。


 それは……昨日までの何でもない日常は、もう二度と俺の手には戻らないということだ――。

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