[12] 魔王

 やあどうも。警戒してるようだね。無理ないよ、初対面だもん。

 そうだな。打ち解けるためだ、いろいろ教えてあげよう。

 なんでも聞くがいい。まあ信じるかどうかは全部、君が君の責任で決めてくれ。


 どういう順序で話そうか。うん、実に難しいな。

 何から話したところでどうしても納得できない部分はでてくる。僕にもわからないことが多いからね。

 まず僕のことからにしよう。僕はいわゆる魔王だよ。

 結構長いことやってるかな。今年で何年目になるんだっけ? わかんないや。

 気になるならだれか詳しそうな人に聞いといて。まあ見た目通りの年齢じゃないことは確かだよ。


 そうそう、偉そうな人たちに魔王を倒せって言われただろ。その魔王が僕だよ。

 挑戦してみるかい。ひとまず今はやめたほうがいいと思うけど。

 負けたら死ぬことは覚悟しておいてね。そりゃ敵対者はなるべく殺しておきたいよ、魔王だもん。

 いや魔王じゃなくたって普通そうじゃないかな。君だってそうだろ?

 だいたいいくら異世界から召喚された勇者と言ってもそんな簡単に倒すことはできないよ。

 こっちはこっちで鍛えてるから。頼りになる配下たちだってたくさんいることだし。


 そうだ、君の友達と殺したり殺されたりすることもあるかもな。そこのところは了解してくれよ。

 早いグループだとあと1年ぐらいで僕のところにたどり着くって。どうしようか迷ってるところなんだよね。

 このまま待ち構えるか。それとも力をつける前に出向いてって殺すか。今のところ前者かなって感じ。

 多分彼らだと僕のところまでたどり着けそうにないからね。配下にまかせておくことにするよ。


 見ての通りそんなに王って感じじゃないよね僕。いや結果的にそれなりに王らしくやってはいるのかな。

 僕は僕自身のことを人間だと思ってるよ。他人がどう思ってるのかは知らないね。興味がない。

 だからあんまり魔王と名乗ったことはないな。でもそう呼ばれてるからそう呼んでくれて構わないよ。

 ああもちろん楽にしていいからね、楽に。君は僕の配下じゃないし。いや配下だって楽にしてくれていいか。


 魔王を討伐させようとしてるのは実際的な理由と宗教的な理由が半々てところじゃないかな。

 何かと込み入ってて面倒なんだよ。これについては当人じゃないから僕にはうまく説明できないね。

 僕としてはまあ成り行き任せかな。王家の人たちみたいな理想の持ち合わせがないからね。

 ある意味どうでもいいんだと思うよ、この世界のことがね。彼らみたいに責任を持っていないんだ。

 こんな僕を慕ってくれてる人の前で言うのはほんと申し訳ないと思うけど。仕方がないよ、僕だから。


 なぜ君を助けたかは本人に聞くといい。僕から言えることはドゥギャリテの読みは正確だってこと。

 ひょっとすると同情だとかそういう感情が混じっている可能性もあるかもしれない。でも大部分は違う。

 王家に対抗するため君という人間が使えるとドゥギャリテは判断した、それだけのことだろう。

 いやでもせっかく召喚勇者たちの世話役として潜り込んでたのにそれを捨てて君を助け出したということは彼なりに君のことを気に入ったのかもしれない。

 うん、きっとそうだな。彼とは長い付き合いになるけど案外わからないことも多いものだね。

 もったいないことするよね。そうだ、彼は僕にもっと真面目に説得しろって思ってるかもしれない。

 それはちょっと荷が重い仕事だよ。あんまり期待しないでほしい。


 君の目的がなんであろうと力の使い方は教えるよ。約束だからね。

 殺したい人がいるんだってね。あの人だろ、知ってる知ってる。

 会ったことはなかったかな、まあ怖い人だよね。倒せるかどうかは君次第かな。

 召喚されたからって無条件に強いわけじゃないし。まあ一般の人と比べれば随分資質はあるようだけど。

 彼だって血のにじむ努力を重ねて今の強さを得たわけだから。がんばってね、応援してるよ、個人的に。


 それにしてもなんで彼らは君を生かしておいたんだろうか。不思議だよ。殺してしまった方が後腐れがなくてよかったろうに。

 ごめん、あんまりさすがに無神経だったかな。君には気分のいい話ではない、悪かったね。

 彼を倒してくれるならこっちとしても大助かりだよ。うん、あの人、怖いもんな。


 ああ召喚魔法ね。君をこの世界に連れてきたって言うやつ。

 あれがどういう仕組みなのか僕は知らない。これに関しては向こうもわかってないんじゃないかな。

 ほんとに異世界と呼ばれる場所から人を召喚しているのか。

 それともその写しを連れてきているだけなのか。

 あるいはそこらへんの人間をさらってきて偽の記憶をすりこんだのか。


 なんにしろよくそんな得体のしれない魔法を使うよね。召喚魔法の詳細なんて多分誰も知らないと思うよ。

 遠い昔にそれを作った人は知ってるかもしれない。すでに死んじゃってるけど。

 いや彼だって知りつくしてはいないかな。あまりに多くの時が流れすぎて変質してしまっているだろうから。

 今となってはあの魔法は秘術の扱いだしそれを秘術としている人たちは神秘を神秘のままにしたいだろうから解析することはしてないだろうしね。


 僕としてはコピー説を推してるよ。人間そのものを持ってくるより楽な感じがするだろう、情報だけもらってそれに似たものを作ってやる方が。

 ただそうなってくると魔王を倒しての帰還はどうなるんだろう。帰る場所なんてどこにもないのに。

 まああくまでこれは推論にすぎないから君は君なりに信じたいことを信じるといいよ。

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