[9] 反撃

 その火球は先に放たれたものよりも一回り大きかった。敵めがけてまっすぐに飛翔していく。

 ゴングもまたそれが今までと違う何かであると気づいたのだろう。警戒し一歩後ろに下がった。

 それも佐原の読みの範疇。

 火球は落ちる。ゴングの足元に着弾する――瞬間それは爆ぜた。

 熱と光をまき散らし、土ぼこりを舞いあげる。


 不意に変化した地面の感覚にゴングの巨体が姿勢を崩す。

 勝機!

 ゴングはあきらめない。バランスを失いながらも右ストレートを繰り出してくる。

 が悪姿勢ゆえ動きは制限されている。その軌道は読みやすい。

 篠崎は十分に弾くことができると確信した。

 けれどもそれでは勝てない。篠崎の仕事はそのあと。


 見守る、放たれたその拳の行く先を。栗木はその拳を刀身でもって受け止めた。

 作戦Bとは攻撃役と防御役の交代。

 栗木が防御へ、篠崎が攻撃へのスイッチング。

 ほとんど練習はできていない、ぶっつけ本番。

 受けきれずに栗木の剣が砕けて割れた。突き抜けた拳はそのままに栗木を吹き飛ばす。

 だいじょうぶ。衝撃は十分に殺せていた。派手に飛んだが命に別条はない。

 栗木は十分に仕事をしてくれた。最後の最後を決めるのは篠崎自身。


 全身に力をこめる。血流に乗せて体の隅々まで魔法を流し込んでいく。

 イメージするのは今目の前にいる大男。そいつを超えてそいつに打ち勝つ。

 攻撃後の隙を逃さず突進した。盾を通じて巨体に接触する。

 衝撃が腕を突き抜けてきた。後退の選択肢はない。このまま押し込む、押し通す。


 気づかないうちに篠崎は声を上げていた。

 多分意味のある言葉にはなっていないのだろう。自分の耳でも何を言っているのか聞き取れない。

 全身の骨という骨がきしむ、巨大な岩を押している感覚。分厚い盾を痛みが貫く。

 だめだ、足りない。もっと、ありったけを。

 最後の一滴まで振り絞れ――目の前の大盾が光を帯びた、ような気がした。


 ふっと力が抜ける。

 だめだ。どうやら限界に達したらしい。

 地響き。足から震動が伝わってくる。

 何が起きた? 何が起きている?


 内に向けていた意識を外へと振り替える。

 呆然としてその光景を見た。ゴングが倒れている。

 よく意味がわからない。

 頭の中の論理的な部分がうまく作動してくれない。状況を処理しきれない。

 自分がやりとげたのだという達成感はずいぶんと遅れて、遠回りをして、忍び足でやってきた。

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