第77話 農協の記念品

 誕生日の二日前今年も例年通り、『お誕生日おめでとうございます』と農協の職員が訪ねて来た。名刺も頂いた。お、担当が新人さんに変わったんだ。今年もやっぱり熨斗のついた石鹸の箱、三つ入りを携えて…

「また石鹸来たよ」

 と言うと、

「良いな自分だけ」

「いやいや、先月届いたでしょ。何だったか忘れたけど」

 来てるはずだよ。一緒に作った年金受取の農協なんだから…

 この記念品、三年ほど前から我が家に届いている。中身は固形石鹸で、我が家は液体石鹸、いわゆるボディソープ派なので…今まで届いた石鹸も、無造作に洗面台の下に突っ込み、嵩張っていくつも溜まっていた。市販のものだと思い込んで中身も見ず、無造作に積まれた石鹸の箱。

 毎月集まるレザーのサークルで、株の話になった。続いて保険、年金の話。年寄が集まれば、こんな話に入院、手術、で花が咲く…

「そう言えば農協の持ってくる記念品。今どき、固形石鹸なんてね。持ってこられても使い道ないし」

 なんて愚痴をこぼしたら、

「農協のあの石鹸、評判の石鹸で成分がすごく良いらしいよ」

 と聞いて、

「え〜!ずっと使いもしないでほかりっぱなしで積んであった〜」

 と猛反省。態度をひるがえして、その日の夜、恭しく引っ張り出して使ってみたら、泡立ちもいいし泡切れもいいしなかなか良い感じ。

「へ〜まんざらでもないじゃん」

 今じゃ私は固形石鹸を泡立てて使う派、夫は相変わらずボディソープ派となってしまいました。

ひとつの石鹸がなかなか減らなくて、まだまだ我が家には石鹸のストックがいっぱい。それがまた三つ届いたのです。

 名刺を見ると新人さんは野乃森さん。なんて素敵な名前でしょう。名前は忘れてしまったけど名字に一目惚れした〜ホントに初めて会ったのにそう言ってしまった。

「良い苗字ですね」と…

 印象に残る名字は良いね。何も頑張らなくても高感度アップでインパクトのある営業になる。爽やかに好印象を残して帰っていきました。

 小脇に抱えた石鹸をまた、洗面台の下に仕舞いながら、これの出番はいつかな〜とため息を付きながら。今度のレザーの時に誰かにお裾分けしようかなとも思った朝。

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