#25 敵の糸口

呪術師の娘はあらかた泣き終えると、思い出したように話を続けた。


「村は先程言った通りですが、流石に魔界の状況はわかりません。すいません。」


申し訳なさそうに娘が言うので、いや、いいよ。と魔王は返した。


そもそも人族には行けない世界である。


いくら魔力を持っていても、物理的な肉体を持つ娘が行けるとは思っていない。

それどころか、元魔王である自分でさえ、現状では恐らく魔界へは行けない。


「あ、でも時折魔界の事らしい話し声聞こえますよ。」


呪術師の娘が魔王に言った。


魔力が見えるようになってから声が聞こえるようになった事、こちらの呼び掛けは届かない事、

そして、声が聞こえる理由や声の主は未だに分からない事を説明した。


「その声の主は、恐らくあの魔眼の女だな。」


魔王はそう言うと、確証は無いが、と付け加えて更に続けた。


「さっき魔力が多く残ってて、しかも魂と融合していると言っただろう?

簡単に言うと、分身みたいなものになってしまい、思念を受信しているんだろう。」


なるほど。その説明が1番腑に落ちた。というより、他に説明がつかないのだ。


そして娘はこう言った。


「向こうからの一方通行でこちらからの呼び掛けは聞こえなくて、

しかも聞こえる声が継続してなくて断片的なのは、

残された魔力がそこまで強大では無いから、そこまで強固に繋がってないからですか?」


聞きたい時に、聞きたい事が聞こえる訳ではないため、使い勝手は良く無さそうだ。


「多分、としか言えないが、そういう事だろうな。

それで、今までどんな内容が聞こえて来たのか、覚えてるか?」


「そうですね、、、いきなり大きな声が聞こえて驚いたからよく覚えているのが、

『あんたたち3人とも敵よ!』とか、『私は自分の領地を守るわ!』とか、

『奪いに来る奴はみんな敵よ!』とか、なんか仲間割れっぽい感じの内容ですかね?」


!!


魔王が知りたかった情報の一部が明らかになった。

話し声からのみの情報なので確実ではないが、恐らく間違い無いだろう。


今の魔界は、魔王が作った統一国家である魔国から、分裂した幾つかの国になっている。

魔眼の娘が3人と言っていた事から、仲間は元々4人だった。

何の仲間か?勿論国を治める話で分裂した事から、魔王を殺した仲間だ!


うっすらとだが、敵の姿が見えて来た。


「お前のお陰であの事件の首謀者の人数がわかったぞ。

恐らくお前が耳にした口論の相手たちだ。だから全部で4人だな。

1人は魔眼の女、残りは3人。あの時実際に俺を切った男も入ってるのかな???」


魔王の目はやってやるぞ!というように嬉しそうな目をしている。


呪術師の娘は魔王の言葉を聞いて、「あ、あなたを切った人は違いますよ」と伝えた。


「なんでわかるんだ?」


「あの時の若い男はその場で私(魔眼の女)に刺されて死にました。」


「なんと!それは良い事を聞いた。恩に着るぞ。」


魔王は首謀者の残り3人から、自分を切った男を除外する事が出来て、

目標を見誤らなくて済んだと礼を言った。


「お礼と言ってはなんだが、お前に今後の生き方を選ばせてやる。」


魔王はそういうと、呪術師の娘にどちらを選ぶか委ねて来た。


1、魔眼の女を殺す。そうすればその呪縛から解放され、恐らく即座に塵となる。

2、俺の力でお前を魔族化して魔界へ連れて行く。但し、寿命は150年程だろう。

3、魔眼の女を放置し、これまでと同じように何年も人から離れて生きる。


但し、2は俺が魔族に戻れる事が前提条件だ、と付け加えた。


娘はそれを聞いて考える間もなく即答した。

真っ直ぐに魔王を見据え、揺るがない意志が窺えた。


「魔眼の女を殺して!私にこれ以上人を殺させないで!」


娘の目には涙が溜まっていた。

娘には、他の選択肢は必要無かった。


「わかった。あの女を見つけたら、お前の代わりに殺してやろう。」


魔王は、娘の意志に応えるよう、ニヤリと笑って返した。

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魔王が識りたかったもの 香月 樹 @mackt

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