#10 夕陽の朱は昂揚の朱か、血の朱か。

真上にあった太陽もすっかり傾き、

町の中心部に並ぶ店々はそろそろ店じまいを始めていた。


中心部に向かう魔王は右手を握りしめ、

黒い光は僅かに溢れる程度に抑えられていた。


そのため、通りを歩く人々はその光に気付く者が殆どおらず、

お陰で大きな騒ぎになる事は無かった。


本来魔族は自由気ままな性格なため人目など気にしないが、

魔王はそれを無意識に行なっており、

自分が人間的な行いをしているという事には気付いていなかった。


通り過ぎた2人組の男達は酒の肴にしていたのだろう、

昼間に見た光景について話していた。


「あれはどう見てもやり過ぎだろう。

確かに盗みは良くないが、あんな子供を死ぬまで殴り続けるなんて。」


「確かに胸糞が悪くなったぜ。あの店主、孤児や浮浪者を人間だと思ってない。

今日ほどじゃ無いが、先週も女の子を殴っていたし、その前も老人を蹴り飛ばしていた。」


「女の子を殴ってるのは俺も見た!通りがかりの人にそれを責められて、

それが気に食わなかったようで暫く荒れていたから、今日のはその腹いせなんだろうな。」


成程、今日の暴力はとばっちりか。

捕まった自分が間抜けなだけではあるが、少し腹立たしい。


しかし、あの時周りにはなんとも思わないロクでもない大人ばかりかと思っていたが、

ちゃんと人間らしい大人も居たのだな。


と思ったところで思わず笑ってしまった。


魔族的には気に食わなかったら殺すのが当たり前だ。

人族として生きた7年が自分を人間的な考え方にしたのだろう。


(いや、しかし、人間は善良な心を持った者ばかりでは無い。先の店主のような者も居るのだ。

善良な者が人間らしい、という考えは間違っているな。)


そんな事を考えているうちに目的の場所に着いた。

先程殴り殺された、あの店主の店だ。


「さぁ、祭の始まりだ」

魔王はニヤリと不適な笑みを浮かべ、獲物となる店を見つめていた。


沈みかけた夕陽に照らされ、

赤くなった顔はこれから起こる出来事に興奮しているかのように見え、

赤くなったその体は全身に返り血を浴びているかのように見えた。

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