新世界

簪ぴあの

第1話

「新しい制服!」

とこちゃんが笑う。

「せやな、うちら、中学生やで!」

「きっこちゃん、これからもよろしゅうな。」

「もちろんや。とこちゃん、中学生になったら、下級生、連れて学校に行かんでええし。おまけに、毎日電車に乗れるな。」

「ほんまや。きっこちゃん、うちら、家が学区の端っこでよかったな。先生らかて、いさぎよう、電車通学、認めなしゃあない地域やし。」

「花の中学生!」

「うちら、自由やで!」

二人で気勢をあげたまでは良かったのだが……


入学式から十日もすると、早くも私達は音をあげた。

「もう息詰まるわあ!」

とこちゃんが叫ぶ。穏やかなとこちゃんがほっぺたをふくらませている。入学早々の服装検査で、とこちゃんがひっかかったのだ。何でもスカート丈が長いとかで。

「ひどいなあ。制服つくったお店の責任やんか。とこちゃんは悪うないで。」

「ありがとう、きっこちゃん。お店の人にちゃんとスカート丈、はかってもろた、自分も一緒に行ったからって先生に言うてくれたな。おおきに。」

「先生ら、床から定規でスカートの裾までの長さはかって、三十センチ以上ってなんの意味があるのかしらんけど。」

「それやねん。スカート丈はその人の膝頭くらいが一番ええと私は思うわ。無難なミディがええな。ミニやミモレは着る人、選ぶからな。」

「なんやて?とこちゃん、日本語で言うて。」

「ミディはフランス語や。中間ていう意味で、膝が隠れるかなあていう感じの長さや。誰にでも似合う丈やで。ミニは膝上、ミモレはふくらはぎが隠れる感じで、足首までいくとマキシかな。」

「すごい!よう知ってるなあ。」

「お母ちゃんの洋裁の雑誌、コッソリ読んでるねん。」

しゃべりながら、とこちゃんはスカートの裾をほどき、あっという間に今度は、裾を多めに折り、丈を短くした。

「ほうらできた。きっこちゃん、床からはかって。」

「よっしゃ、大丈夫。なんやちょっと軽やかなええ感じや。」

「ほんまは、もうちょっとみじこうしたら、かっこええのやけど。うるさいやろ。」

「思いもせんかったな。まさか、数学の先生が近所のおっちゃんやったなんて。おまけに生活指導で、あんな、口うるさいじいさんやで。」

「ひどいわ。誰も教えてくれへんかったな。」

「大人は信用できひんな。」


 結局、最初の一年間は、近所のおっちゃん、いや、口うるさいじいさんが、数学の先生だったおかげで、私達は数学も嫌いになったが、幸いなことに、一年後その先生は、定年退職になったのだった。

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