諸悪の根元

 三人は走る。カリムド教総本部を目指して。


 総本部前の広場についた。剣と槍を抜く三人。


 その時総本部の扉が開いた。出てくるリーガル。


 手に何かを持っている。それをサキヤらの方に放り投げる。何だとよくみると、皆絶句した。


「カルムー!」


 カルムの頭部だったのだ!


 リーガルに殺されたカルム。その顔は目をひんむき口を大きく開け、苦悶の表情で固まっていた。


「あ、あー……悪魔め…………」


 どれだけの拷問を受けたのか、それだけで察することができた。


 リーガルはにやついている。


 サキヤは反射的にリーガルに向かっていった。短剣で首を跳ねようとしても盾の魔法に弾かれる。


「フレア!」


 炎がサキヤを襲うが金の盾が防ぐ。


 ジャンもバームも構えたまま動かない。いや動けないのだ。二人とも家族がいる。子供の顔が脳裏に浮かぶ。悪魔に挑むのは無謀すぎる。


 ピョンと出てきたピリアが盾の上に腰かけて言う。


「手詰まりのようじゃのう」


 するとなにやら念じ始める。


「・・・・・・・・・!」


 聞き取れないほど小さな声で呪文のようなものを発っするピリア。


「おい、バームとやら。ラミル流のあの魔法を使ってみい」


 バームが直感的に理解する。


「テンデラー!」


 リーガルに決死の勢いで走り込みながら、槍を突き出すと三倍の長さに槍が伸び、なんとリーガルの腹を突き破った!


「ぶふぅ!……ぐっ……スクートゥム!」


 リーガルが悶絶しながら盾の魔法をかけるが、ピリアが叫ぶ。


「もうその手は使えんぞ、観念せい!」


(ピ、ピリアって、一体……?)


 それを見てジャンも前に出る。


「クレピタス!」


 リーガルの必死の反撃がジャンに迫るが金の盾がサキヤの意思とは関係なくジャンの前に行き、爆発を防ぐ。


「おりゃー!」


 ザクッ!


 ジャンの剣がリーガルの肩口を捉えると、リーガルの右手が吹き飛ぶ


「くわーっ!…………おのれ!」


 右手は吹き飛んだがそこに右手の黒い影のようなものが。


「サキヤ。ボケっとしとらんと行かんか!」


 目の前で起きている信じられないような光景に、ぼうっとしていたサキヤに再び闘志が湧く。


「うわー!」


 サキヤの短剣が再びリーガルの腹を突く。槍を抜いたバームがその心臓を貫く!


「ぐふぉっ!」


 リーガルが崩れ、片膝を地面につく。


「くそっ!な、何なんだその小人は……スクートゥムを剥がすとは…………がはっ」


 口から大量の血を吐き出すリーガル。体を揺らしながら前を向く。


「こ、こんなところでは殺ら……れん……ぞ……」


 ズンッ!


 ジャンがその首を落とした。前に転がる首。


「や、やったか?」


 バームがジャンに聞く。うなずくジャン。


「ああ、これで、おだぶつだろう……」


 ジャンが剣をしまう。しかしその首にも黒い影が。


 サキヤが気づく。


「この黒いものは一体……」


 すうっと後ろに下がるその黒い影。リーガルの体から離れるとリーガルは前のめりに倒れた。


「あれが悪魔の魂よ。剣や槍ではどうにもならんわい」


 黒い影は静かに天に登っていった。


 サキヤが叫ぶ。


「じゃああれがまた人間に取りつけば、第二のリーガルが生まれる!」


「あんな小悪魔ほっとけ」


 ピリアの一言にサキヤはピリアに噛みつく。


「あれが小悪魔?あんなに死者を出したのに!?」


「まあ、大元を絶つしかあるまい」


「大元って……まさか……」


「そのまさかじゃ」


 一仕事を終えて放心状態のジャンとバーム。


「カルムには可哀想なことをした」


 バームがため息混じりに呟いた。


 ジャンがピリアに問う。


「ピリア、あんたもしかして神のようなものか?」


「そうじゃのう、ホッホッホ」


「とにかくカルムの遺体を探しにいこう」


 バームの言葉に皆うなずき、総本部へ向かった。




 サキヤたちは総本部の内部に入った。どうやら何人かの人間が一部始終を見ていたらしく、神父らは皆逃げ惑い声をかけようにも叶わない。


「あのドアに進むのじゃ」


 なんとピリアが道案内をかって出た。


「つきあたりに階段がある。それを地下へ」


「そこを右に」


「ずっと奥のドアを開けてみい」


 一同、その部屋に入ると驚愕した。手足がバラバラになったカルムとみられる遺体が散らばっていたのだ。


 嗚咽するサキヤ。


「お前のことは一生忘れない……」


 カルムの遺体を一ヶ所に集めると、ピリアが前に進み出る。


「フレア!」


 燃え上がるカルム。皆で最後を見届ける。


 バームがリュックを出して、遺骨をかき集めそれを背負う。


「帰ろう」


 リーガルを倒せた喜びと、カルムを失った悲しみが半々。


 胸の内に大きな重石がのしかかりながら、ピリアが出した魔方陣でボートランドの難民キャンプへ帰っていった。




 サキヤが自分のテントに帰ると置き手紙が。そこには州都クレイルの商店街の大まかな地図と、クッキー屋の場所が書かれてあった。


 クレイルの町に入っていくサキヤ。書いてある通りに商店街を進んで行くと……


 あった!「クッキーの家」だ。サキヤは小走りで店の前に行くと、まだ十日ほどしか経ってないのに、懐かしい顔が。


「ミール!」


 ミールは一瞬目を見開き、カウンターから出てきた。


「サキヤ!」


 と叫びながらサキヤに突進し抱きつく。クッキーの甘い香りがした。


 そして人目も気にせずに強いキス。ミールは泣き声で今度は怒りだす。


「突然いなくなっちゃって、本当に心配してたんだからー!」


 サキヤがなだめる。


「すまない。もう黙って行くことはしないから」


 サキヤとミールはクッキーを焼いているフラウのところへいく。フラウはクッキーを焼く手を止め、静かに抱きあう二人。


「正直、今回は死を覚悟した。それも二回も……」


「そうかい、いろいろあったんだね」


「父ちゃんの仇を討ってきた。」


 それを聞き、涙ぐむ母の肩に手を置くサキヤ。


 ようやく張りつめていた心がほどけていった。




 ビリーの家で三人がリーガル教皇を倒してきたお祝いのパーティーをしている。


 サキヤはミールと参加している。


「と~にかく恐ろしいんだ。リーガルって奴は!」


 ジャンが皆にリーガルとコルヘとの戦いを朗々と語っている。悲しい魔導師カルムについてもつつみ隠さず。


 みんな戦争の本当の黒幕を知り、顔を青くしたり赤くしたり。


「完全に手が出なかった。おれたちは絶望的な戦いを強いられた。その時に表れたのが、金の盾の精ピリアだった。みんな拍手を!」


 しーんとしている。呼ばれたからといって素直に出てくるほど単純な爺さんではない。


「ま、まあ恥ずかしがっているんだろう。その盾の精が……」


 サキヤとミールはそんなことより、ずらりと並んだ料理に夢中だ。


「以上でおれたちのあの戦争の黒幕退治は終わりだ。ご静聴に感謝する。ありがとう、ありがとう!」


 話し終えたジャンが満足げにサキヤに近付く。


 食事を子どもに取ってやっている。


「ところでさっきのピリアと話したという最後の倒すべき相手のことだが……」


 サキヤが顔を曇らせる。


「あの、リョウシサーバーとかいう青い棚みたいなやつを壊してもらわないとまたリーガルみたいな者が表れてしまう。ピリアが言うには番人のヨブ・シモンこそが倒すべき相手なんだそうだ。おれは大司教様なら頼み込めば事情を汲んでくれると思っているんだが……甘いかな」


 ジャンがバーベキューの肉に噛みつきながら胸に秘めた覚悟を話す。


「甘いだろうな。いくら大司教であろうが拒めば倒すだけだ」


「また、危険なことをしにいくの?」


 ミールが不安げな顔をしながら聞いている。


「ははは、今度は危険じゃないよ。カリムド正教の大司教様に会いに行くだけさ」


 サキヤはにっこりとしながら受け流した。


 しかし覚悟は決まりつつあった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る