入隊
サキヤはミールと一緒に船に乗り、故郷のアルデオ島に向かっている。
サキヤは軍に入ることを決めた。そうなると首都に住まなければならない。母は住み慣れた自宅で生涯を終えたいと言うであろうが、首都に移ってもらうように説得するつもりだ。
アルデオ島におり立った。久しぶりの故郷だ。あいつらどうしてるかな。あいつは、あいつは……友の顔が次々に浮かぶ。母に会った後、友の消息も探るつもりだ。
「ミール、目一杯の笑顔でな」
「私なんかが行って大丈夫かな……」
「なーに心配ないよ。母ちゃん、明るい人だから」
実家に到着した。この辺りは大火からまぬがれて、家はそのまま残っていた。
「母ちゃん、母ちゃん!」
母が二階から降りて来た。
「お帰りーサキヤ。あれから音信不通だったんで心配してたんだよ」
サキヤは母とハグをする。
「この子は誰だい?」
「紹介するよ。俺の彼女のミールだ。挨拶に来たのさ」
「ミールです。お初にお目にかかります。よろしくお願いいたします」
ミールは頭を下げる。
母はミールを上から下にじろじろ見る。
「へー、かわいい子じゃないか。サキヤにもやっと彼女ができたんだね。私はフラウ。よろしくね」
そう言って二人はハグをする。
「生活に不便はないかい?」
「とりあえずは大丈夫だけどねー。貯金を取り崩す日々だよ。不安だね」
サキヤは顔を輝かせる。
「じゃあもう、ここから離れて大統領府に行かないか?めぼしいアパートも探してあるんだ」
「大統領府に?そりゃまた話が飛躍するね」
「俺、軍に入隊するつもりなんだ。父ちゃんのあとをついでね。入隊すると、まずは大統領府に行き訓練しなきゃならない。そのために母ちゃんにも一緒にいてほしいんだよ」
「そうかい。ここは名残惜しいけど、世話になろうかね。町がこんなじゃ仕方ないね」
母とも話がついた。夕食時にあれからの冒険譚を話して夜が暮れた。
「君が噂のサキヤ・クロード君だね。ジャンから話は聞いてるよ。なんでも金の盾を取ってきたとか。並の人間じゃあないね。軍は大歓迎だよ」
「ありがとうございます。いま戦況はどうなっているんでしょうか」
面接官は苦々しい顔をする。
「とにかく動きがない。毎日矢の撃ち合いが続くだけさ。あ、それはともかくとして、上官から言付かっているよ。君の階級は少尉だ。よろしくお願いするよ」
「し、少尉ですか。私に務まるでしょうか」
「なーに心配ないよ。なにしろ金の盾を持ち帰った者は英雄だ。自信をもちたまえ」
「は!」
いきなりのエリートコースから出発だ。「よっしゃ!」サキヤは自らに喝を入れる。最初から父の階級「兵長」を何段階も抜いたのだ。それは気合いも入ろうというもの。
軍の施設の中を歩きまわり、ジャンとバームを探す。聞いてまわると、いまは事務所にいるとのこと。喜び勇んでそこに入る。
「ジャン中尉殿!」
ジャンが顔を上げる。
「おー、サキヤ!久しぶりだなあ。元気か」
「はい、故郷の母を連れてこちらに移ってまいりまきた。そして入隊し、いきなり少尉に抜擢されました。ジャン中尉」
「まずは歓迎するよ、おめでとう。でも、ジャン中尉はおかしい。ジャンは俺のファーストネームだ。公の場では、ベルト中尉って呼んでくれなきゃ」
「ああ、そうか。まだ入りたてで、右も左も分からす失礼しました。ベルト中尉殿。敬礼!」
「ま、そのうち慣れるよ」
「何を書いているんでしょうか」
「まーだレポート書いているんだよ。怪物騒動の顛末を。特に教皇のリーガルのことだ。やつが戦争に関与すると大変だ。そうなったときの対抗手段を考えているのさ」
サキヤは後ろに人の気配を感じ振り返ると、でかいバームが真後ろに立ちにやにやしている。驚くサキヤ。
「こ、これはバーム……じゃなくて……なんだっけ」
「わっはっは。一回言ったことあるぞ」
「トリ……メリ……じゃなくて……」
バームがしびれを切らして言う。
「ドリアーナだよ。バーム・ドリアーナ」
「失礼致しました。ドリアーナ中尉!」
バームがサキヤとハグをする。
「よし、今夜は俺の家でパーティーを開くぞ。こっちでは酒は飲めないからな。ジュースで乾杯だ。サキヤ、ミールは?」
「今、一緒に住んでおります」
「この野郎、うまいことやりやがって」
ジャンがサキヤの胸をパンチする。
「母も連れていっていいですか」
「ああ、勿論かまわんさ」
ジャンが満面の笑みを浮かべた。
「軍から大量の文が届いておりますが、リーガル教皇様」
「放っておけ、ジョーカーは最後まで取っておくものだ」
「しかし、すでに死者千五百人、重症者七千人となっておりますが……」
「ふーん。……ただ出張るのでは面白くない。ヒームスを呼べ」
「は、至急」
ニムズがかしずく。
「フフン、ドーネリアの準備が遅れたことでかえって面白くなったではないか。はっはっは」
「ですな。これで教皇様が出ていきオーキメントを制圧すれば大陸の東側は教皇様のモノ。次に狙うは……西の大国ガーマリア」
「まあ、それはまだ先の話よ。その前に倒さなければならない奴がいよう」
「おっと、そうでした。教皇様のお力をもってしても難しいのですか」
「倒すのではなく謀殺してやる」
リーガルはワインの詮を開ける。
「奴をはめ、あの世の果てに追いやる。そして奴の手下どもをこの手にする。しかるのちにガーマリアを手中に納める」
「どのようにはめるおつもりで」
「考え中よ」
しばらくしてヒームスが到着した。
「教皇様のお耳に入れたき儀がございまして」
「なんだ?」
「実はオーキメントの大統領を暗殺した黒幕はガジェル将軍だともっぱらの噂が飛び交っておりまして……」
「なんだと、それは面白い」
「私が聞くにまず間違いないかと」
「そうか、オーキメントの指揮命令系統をぐしゃぐしゃにできるな」
「どうやってでございますか」
「ふふ……」
リーガルはグビグビとワインをあおった。
「お師匠様、好き嫌いはダメですよ」
キリウムが野菜スープのジャガイモだけを横にどけているのを、カルムが目ざとく見つける。
「いいのじゃこんなもの食わなくとも、死にゃあせんわい」
カルムがキリウムの肩を揉み始める。
「あぁ、極楽じゃのう」
「お師匠様には長生きしてもらわねば」
カルムはキリウムに、亡くなった祖母を見ているのだ。
キリウムが思い出して言う。
「そういえばお主はピザを切る魔法『セカーレ』を面白がっていたのう。ついでじゃ教えてやる」
「ありがとうございます!」
キリウムはリンゴを取り出す。
「まず二つに切ってみよ。切るイメージをしっかり持って『セカーレ』と唱えよ」
「はい。…………セカーレ!」
パカッ
「ほっほ、次は八個」
「……セカーレ!」
パカッ
リンゴは八個に切れた。
「うーん、まことにカンのいいやつじゃ。お主は鍛えがいがあるわ」
「ありがとうございます!」
「セカーレはここまでとして、次はいわゆるテレパシーでも教えてやるか」
「テレパシー?あまり必要ないような」
「いや、覚えておくと便利じゃぞ。相手の思っていることが分かると、敵か味方かすぐに分かる」
カルムが頷く。
「なるほど」
「それではいくぞ、ワシの思っていることを念じながら『アウディーレ』と唱えるのじゃ」
「『アウディーレ』ですね……」
カルムが構える。
「…………アウディーレ!」
「……どうじゃ?」
「洞窟が見えました」
「なんじゃその答えは。鳥じゃ、鳥。しかし洞窟か……ふと思い出したが、あの金の盾を持ち出した者と一緒に怪物と闘ったそうじゃな」
「はい」
「ワシの予感じゃが、その男とお主は、何か重大なえにしで結ばれている気がする。水晶を覗こうぞ」
(サキヤ……か)
カルムは空を見上げた。
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