怪物の最後

 カルムがサキヤの言葉に驚いている。


「金の盾だってー!あの伝説の」


「そうだよ。おれが取ってきたんだ。三つの試練を突破して」


「さわってもいいかい」


 サキヤが金の盾を持ち、カルムに渡す。


「金色に光っている……本物のようだな。しかし聞いたことあるけど第一の試練でまず間違いなくみんなリタイアするって聞いたぞ。よく突破したな」


 サキヤがこめかみをとんとんと叩く。


「ここの問題だよ」


「へー、君は勇者だな」


「まっ、それほどでも……あるかな」


 サキヤとカルムが笑う。この二人合いそうだとジャンが認める。


「じゃあ、分かった。若い二人に任せよう。シングルの部屋を、もう1つ借りよう」


「いえ、ここでいいですよ。ちょっとどいてもらえますか」


 バームが、後ろに下がる。


「ウォンティア!」


 ベッドが、空中にバーンと表れ、ドーンと下に落ちる。


「なんだかやりたい放題だな。ははは」


 ジャンがやっと笑う。


「文にあったけど、お前志願したらしいな」


「そうです。訳がありまして……」


 カルムは、祖母と姉を亡くしたことを話し始めた。


「そりゃあ辛いな、天涯孤独になったってわけだ。復讐したい気持ちも分かるよ。そういう奴は強くなる。前を向くしかないからな」


「そうですね、悲しいです。ウォンティア!」


 今度はパンとサラダだ。


「悲しい話をしているわりにはよく食うな」


「体が資本なので。余ったフライドチキン、どうです?」


「貰おう」


 バームが一つ手にとり、かぶり付く。


「まだ飯を食ってないからな。よーし、町に出よう!」


 皆は夜の町に出た。


 一つの居酒屋に入り、各々食べたいものをたのむ。


「まずは酒だ」


 ビールが運ばれてきた。


「今日は、二人の壮行会だ。じゃんじゃん飲もうぜ!」


「かんぱーい!」


 ジャンがカルムに聞く。


「魔導師が、特にメールド流の使い手が軍に入れば無敵になるんじゃないか」


「どうでしょうか。今は大砲がありますしね。敵を爆破する力は大して変わらないような気がしますが」


「ああ、そうか。なるほど」


「お師匠様が言うには、クレピタスは半分は身につけることが出来ず、もう半分は修行に一年かかるそうです。それにそもそも魔導師と言うものは先ほど見せたように何でも出すことが出来るので金を稼ぐ必要がないのです。規律の厳しい軍にわざわざ入ってきつい思いをするより自由人でいるほうを選ぶと思いますが」


「なるほど、なるほど。ん、いや待てバーム。お前はラミル流の魔法剣士だったよな。お前は何で軍にいるんだ?」


「ラミル流は、回復が専門だ。それに生き甲斐を感じている。それに一人で生きていくって寂しいじゃないか」


「ふっふ、お前らしいな」


「とにかく、明日はお互い頑張ろう」


 サキヤの言葉に答えるカルム。


「ああ、ベストを尽くそう」




 次の日、宿を出た四人は怪物のところに向かう。怪物はやはり総本部の壁を叩いている。


「ぼーわー」


 悲しげに、何かを訴えているかのごとく。


 遠巻きに本部の魔導師たちがそれを眺めている。


 サキヤが魔導師たちに聞いてまわる。しかしフレアもグレイスも、クレピタスでさえも全く歯が立たないとのこと。


「おれならいける!」


 サキヤが金の盾を構え、その斜め後ろにカルムが立つ。怪物がこちらに気付き拳を振り下ろしてくる。しかし金の盾がふせぎ、衝撃すら感じない。


「いまだ!」


「クレピタス!」


 炎と冷気が渦を巻き、カルムは頭部の内部を爆発させた。


 ボンッ!


 頭が膨れ上がった。


「よし!」


 とカルム。


「やったか?」


 しかしである。頭部がまた収縮していく。


「なんだとー!」


 怪物は両手で二人をつぶしにかかる。


「フレア!」


 全く効かない。


「くそ、やっぱりこれだ。クレピタス!」


 とてつもなく集中し、クレピタスを発動するも、体の内部は膨れ上がるのだが、すぐにまた収縮するのである。


「クレピタス!」


「クレピタス!」


「らちがあかないな。いったん引こう」


 サキヤが提案する。


「くそー!」


 怪物はまた壁を叩き始めた。


 それを遠巻きから眺めているリーガル。昨晩は放蕩三昧をし遅い帰着である。


(ふ、坊主どもには無理だ)


 今日は大霊祭の日。続々と信者が集まって来ている。礼拝堂が壊されたので、急遽総本部の一階の、大ホールで執り行われることになった。


 茫然と立ち尽くすカルム。ジャンが励ます。


「人生うまくいくことばかりじゃない。気にするな」


 弱々しく首を振るカルム。


「また、作戦を考えよう」


 サキヤが肩に手を置く。




「お早いお帰りで」


「皮肉を言うな。それよりもなぜあの怪物がこっちに来て壁なんぞを叩いているんだ?あやつは、首都ガレリアで大暴れする予定じゃなかったのか」


 ニムズが法衣を着る手伝いをしながら答える。


「私どもにも分かりません。ただやたら悲しげに吠えているのです。なにか意味があるのかと」


「ふーむ」


 着衣が終わったリーガルは、真剣に考え込んでいる。


「苦しいのだろう、おそらく。体も魂も。あれは百人くらいの死体の塊だ。一度死に冥府に行き、安眠しようとしていた矢先に叩き起こされあのような怪物の一部として暴れまわる苦しみ。我らの想像をはるかに超えるものだったのかもしれない。もう少し使えると思ったが、ここまでのようだな」


「倒せますか」


「俺を誰だと思っているんだ。わけはない。今日はちょうど大霊祭の日。舞台も整った。派手に倒してみせよう」


 讃美歌のなか、神父が出て来て満杯の信者に大声で伝える。


「前教皇様の死はあまりに痛ましいものでした。しかし前教皇様の遠縁に若き神父さまがいらっしゃいます。その名もペルム・リーガル様です。今日はそのペルム様に、新教皇様になっていただくハレの日にございます。では祈りましょう。メーシア」


「メーシア」


 奥からそろそろと出ていくリーガル。それを迎える信者。しかし……


 ドーン、ドーン


 怪物が壁を叩く音が内部まで響いてくる。


 神父が言う。


「このような席に、不吉な!」


「よろしいではありませんか。あの怪物は死を求めています。見送ってやろうではありませんか」


 リーガルが外に出ると、皆も後に続く。怪物がこちらを向いたその時!


「クレピタス!」


 ズガーーーン !!!


 大爆発が起き、怪物は木っ端微塵になった。


 ベタベタと死体の手や足や、臓物などが降ってくる。


「キャー!」


 マダムたちはそのあまりの光景に卒倒しそうになった。


「か、怪物が……一発で」


 その光景を見ていたカルムが息を飲む。


「な、なんだよあいつ……あの帽子、おそらく新しい教皇だ。教皇ってあんなに魔力が強いのか」


 サキヤも唖然としている。


ジャンが言う。


「なんだか嫌な教皇だな。怪物退治を群衆に見せて……まるで自分の力を見せつけるショーのように。胡散臭い匂いがするぜ」


「なんでそう感じるんだ?」


「カンだよ。カン」


「カンかー、だがお前のカンはそこそこ当たるからな。そういうことにしておくよ」


 バームは懐が深い。


「よっしゃ、怪物の最後も見届けた。いったん軍に戻るぞ」


「了解」


 サキヤが、カルムに聞く。


「君はどうするんだい?」


「俺か、俺は……またお師匠様の所に戻り修行を続けるよ」


 ジャンが逆にサキヤに言う。


「サキヤ、お前軍に入らないか。もう成年だろう。金の盾を持ち出した者は英雄だ。軍も悪い扱いはしないだろう」


「そ、それは……考えとくよ、まずは母ちゃんを探さなきゃ」


「そうかそうか、軍はいつでも歓迎するよ」


「俺は魔方陣で帰る。ここでお別れだ」


 カルムが別れを言う。


「ああ、元気でな」


「そっちもな」


「お世話になりました」


 ジャンとバームが手を上げる。


 カルムは宿屋に入っていく。


「じゃあ俺たちも出発するか」


「了解!」


 サキヤは金の盾を持ち、ミールと手を繋ぎ歩きはじめた。



怪物編、了








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