6安心する空間②
「あの、今日、転校初日だったわけでしょ。それで、転校生が珍しかったみたいで、いろいろ質問されたの」
「まあ、それは転校生にはよくあることだろ」
「睦樹、少し黙って。それは私も別に気にならなかったんだけど、問題は口にされた内容とクラスメイトの容姿が衝撃的で……」
思い返しただけでも息が詰まる空間だった。同じようにサラサラの髪から漂う、もはや悪臭に近い匂いには、文字通り息が詰まった。単体では良い香りかもしれないが、全員が漂わせていたら香害と分からないだろう。もしかしたら、彼女たちは嗅覚がマヒしているのかもしれない。
「いや、髪からだけじゃなく、全身から漂っている可能性もある」
シャンプーだけではなく、除毛クリームなどのにおいも混ざっていたのだろう。
「途中で話を止めないでくれる?なんか独り言になってるし。クラスメイトの容姿が衝撃って、全員レベルがものすごく高かった?それとも、全員がやばかった?」
私の途中の独り言はスルーしてくれたらしい。姉の静音(しずね)が話を促してくる。思い出すだけでは、相手に今日のことは伝わらない。意を決し、話を再開させる。
「どちらかというと、前者かな。全員が美少女レベルで、しかも、全員が世間一般の美少女の定義をすべてクリアしているから、驚いて。しかもそうなると、クラスで私だけが異様に浮いた存在になってしまって、クラスメイトに興味を持たれてしまったというか……」
うん、それだ。全員が同じレベルの美少女だから、お世辞にも美少女とは言えない、私が目立ってしまったのだ。私だって、世間から見たら、別に不細工とは呼べないレベルのはずなのに。
「具体的には、髪型が男子からモテると言われる黒髪ストレートに、茶髪のゆるふわパーマに、ショートカットボブの3種類。とはいえ、全員が頭に天使のリングを輝かせていて、枝毛も痛みも知らない髪。思わず触ってみたくなる髪質だった」
「う、うん。とりあえず、話を続けて」
「それから、全員が二重のぱっちりで、どこを見渡しても、一重の女子生徒はいないし、目つきの悪い三白眼もいない。キラキラウルウルの大きな瞳」
「そこまでくると、いっそ気味悪いな」
「それから、顔の白さも際立っていたかも。みな、日焼けを知らない美白で、ニキビ一つ見当たらない。シミはもちろんないし、毛穴の黒ずみも皆無。びっくりしたわ。ツルツルもちもち、触りたくな」
「うん、わかったわかった。後の内容も想像がついたわ」
息せき切って話していたら、途中で姉に止められてしまう。弟もこれ以上は聞きたくないと耳をふさいでいた。
「どうせ、次は腕もツルツルで毛がない、足もスラリと細くてモデル体型で」
「あとは、胸がやたらとでかい感じ?」
「ど、どうしてわかるの?」
『いや、想像できるだろ(でしょ)』
口をそろえて反論されてしまった。だからと言って、その場にいなかった二人にあの気味の悪い感じは、本当に伝わっているだろうか。
「それで、その気味悪い空間で一日肩身の狭い思いで過ごしたわけだけど、もう一つ、嫌なことがあって、それが」
「和子、風呂が沸いたわよ。さっさと入っちゃいなさい、汗が冷えて風邪ひく前に」
私が今日の本題、彼女たちに『昔の私を見ているようで~』とか『このオススメの商品は~』などの話をする前に、風呂が沸いてしまった。母親がせっかく準備してくれたのだから、ありがたくいただくことにした。
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